前回、「経済を理解するのは、それほど難しくない」という話をしました。経済は、私たちがモノやサービスを生み出したり、それらを使ったりするという「暮らし」そのものだからです。一見、縁遠く感じる経済現象も、必ず私たちの生活に結びついていて、そのつながりがわかれば、ニュースを見たり読んだりするのが面白くなるはずです。

経済を学ぶ時に知っておきたい3つのこと

では、経済を学ぶ時に、まず何から始めたらいいのでしょう。まず必要なのは、次の3つを知ることです。

(1)登場人物(経済を動かしている人や組織)
(2)あらすじ(経済の流れ)
(3)物語の背景(経済を動かしている力や関係)

面食らった人がいるかもしれませんが、わかりやすくするために経済を「物語」に例えてみました。実際、経済の動きを読み解く経済学の世界では、複雑な現象を説明するのに、よく例え話が使われます。

小学校の国語の授業を思い出してください。ある物語を読んだ後、先生から登場人物やあらすじをノートに書き出すように言われた記憶があるのではないでしょうか。そして、そうした基本を確認した上で、登場人物たちが物語の中で果たした役割などについて話し合ったはずです。

経済の「登場人物」を考える

実は経済も同じ順序で理解すると、スムーズに頭に入ってくるものです。今回は、手始めに「登場人物」について考えてみることにしましょう。

私たちの社会は、さまざまな人や集団によって動かされています。もちろん、私たちひとりひとりも経済の登場人物です。さらに、私たちが属している学校や会社、ボランティア団体なども(人ではありませんが)重要な登場人物だと言えるでしょう。

ただ、一つ一つ細かく見ていくと経済の全体像を見失ってしまうので、ここではこれらをざっくり3つに分類して考えることにしましょう。具体的には、次のようになります。

(1)家計(個人、家族など)
(2)企業(会社、公益団体など)
(3)政府(国、地方自治体など)

まず、経済活動をしている私たち個人は「家計」というグループにまとめることができます。言葉がやや専門的に感じられるかもしれませんが「家計簿」の家計ですね。難しいと感じるなら「個人」と頭の中で置き換えて理解しても問題はありません。

次に大きな単位は「企業」です。ただし、ここでは、株式会社などの「会社」だけでなく、モノやサービスを生み出しているすべての団体を「企業」として扱うことにします。

例えば、教育というサービスを提供する予備校の一部は「学校法人」という形になっています。「宗教法人」という団体も存在します。法人というのは、ざっくり言うと「団体だけど、法律上は人と同じように扱いますよ」という意味です。税金を納め、悪いことをすれば罰せられる、というわけです。こうした人々の集まりも「企業」に含めるのです。違和感がある人は、「団体・組織」と考えてください。

最後が「政府」です。ただし、この場合も意味を少し幅広くとらえて「税金を使って公共的なサービスを提供している団体」と理解してください。「国」はもちろん政府ですし、もう少し小さい都道府県や市町村といった地方自治体、それらが運営する警察や公立学校なども「政府」に含めます。

かなり乱暴ですが、経済を動かしている人や集団を3つにグループ分けすることができました。

経済の「登場人物」の関係

この3つの登場人物は、それぞれ性格が異なります。別の言い方をすれば、経済という物語の中で果たしている役割が違うのです。3者の関係を図に表すと、次のようになるでしょう。

経済の「登場人物」の関係

私たち、つまり「家計」を出発点に考えてみましょう。私たちは「企業」からモノやサービスを買って生活しています。具体的には、食品メーカーが作った食べ物をスーパーで買ったり、ゲーム会社が作ったスマホゲームで遊んだりします。こうした「商品」を受け取る代わりに、私たちはお金を払います。

一方、私たちは「企業」で働くことによってお金を得ます。コンビニでアルバイトをしたり、企業で社員として働いたりするのです。この関係は、私たちが企業に「労働力」を提供し、代わりに「賃金」を受け取っている、と表現することができます。このように、私たち家計と企業の関係には、「商品を受け取り、代金を支払う」と、「労働力を提供し、賃金を受け取る」という2つの側面があります。

つぎに「政府」との関係について考えてみましょう。私たちは国や地方自治体からさまざまなサービスを受け取っています。例えば、国などによって整備された道路があることでスムーズに移動することができます。交番にお巡りさんがいるおかげで、事故や犯罪に巻き込まれる危険が減ります。

こうしたサービスは、もちろんタダで提供されるわけではありません。私たちはこうした便益を受ける代わりに、税金を納めています。つまり、「公共サービスを受け取る代わりに税金を納める」という関係があるわけです。

最後に、「企業」と「政府」の関係についても見ておきましょう。両者にも、個人と政府同様、「公共サービスを受け取る代わりに税金を納める」という関係があります。

もう少し詳しく見ると、政府も家計と同じように企業からモノやサービスを買って、代金を支払っています。家計が役所などで働いて給料を得る場合は、家計と企業と同じ関係が成立します。

いずれにせよ、このトライアングルのような関係によって経済は動いています。経済の全体像を理解するには、まずこれらの登場人物と関係を頭に入れておきましょう。

著者プロフィール:松林薫(まつばやし・かおる)

1973年、広島市生まれ。ジャーナリスト。京都大学経済学部、同大学院経済学研究科修了。1999年、日本経済新聞社入社。経済解説部、東京・大阪の経済部で経済学、金融・証券、社会保障などを担当。2014年、退社し報道イノベーション研究所を設立。2016年3月、NTT出版から『新聞の正しい読み方~情報のプロはこう読んでいる!』を上梓。

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