世界中で、リスク資産(株・商品先物・高金利通貨・ハイイールド債など)が急落している背景に、産油国の換金売りがあると言われている。原油急落によって国家財政が危機的な状況におちいっている産油国が、収入を補うために、これまで原油収入から投資してきた世界中の金融資産を急いで売らざるを得なくなっている。

今の日本株急落にも、産油国の関与が疑われる。昨年8-9月にはサウジアラビアが巨額の換金売りを出していたことが、観測されている。サウジアラビア王家は、原油の急落によって相当追い詰められており、再び換金売りに動かざるを得なくなってきている可能性もある。

サウジアラビア王家は、原油の急落によって相当追い詰められており、再び換金売りに動かざるを得なくなってきている可能性もある

原油収入が潤沢なサウジアラビアは、これまでバラマキ型社会福祉を行うことで、政権が不安定になるのを押さえてきた。エジプトとともに長い年月、米国と良好な関係を維持してきた。アラブの春で、エジプトのムバラク政権が倒れたのを欧米諸国が中東の民主化と賞賛したのは、サウジ王家にとって重大な危機であった。ただ、潤沢な石油収入を生かした手厚い社会福祉を維持しているサウジに革命が波及することはなかった。

これに不満を持つサウジ内のイスラム教原理主義者から、アルカイダやIS(イスラム国)などの過激派に身を投じる者が絶えないが、それでも社会福祉の充実したサウジアラビアの政情が不安定になることはなかった。

原油急落によって国家財政計画が完全に成り立たなくなったサウジアラビア

ところが、今、原油急落によってサウジでは長期的な国家財政計画が完全に成り立たなくなった。これまで年々膨らませてきた社会福祉が維持できず、急激な切り詰めが始まっている。社会不安が広がるのを押さえるため、サウジが少しでも収入を増やそうと原油を増産すると、それが原油価格の下落に拍車をかける。何とか収入を補おうと、保有する巨額の金融資産を売ると、世界中の金融資産が急落を始めた。

サウジアラビアをさらに追い詰めたのは、産油国の動きを先取りしたヘッジファンドが、原油先物を大量に売り、さらに、世界の金融資産の先物を売ってきたことだ。サウジアラビアは、原油先物が下げ続ける中で、保有する金融資産の時価がドンドン下がっていくのを見て、パニック的心理になっていても不思議はない。

マスコミで、よくサウジアラビアが戦略的に原油価格を下げているという報道を見る。実際、サウジアラビア政府がそれに近いコメントを出すこともある。シーア派幹部の死刑を執行し、イランと断交するなど最近強硬策の目立つサウジは、対外的に弱みを見せられない立場にある。実態は、かなり追い詰められている可能性がある。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。