トランプノミクス(トランプ米大統領の経済政策)は、日本にとって毒か薬か? 政策の根幹に、ポピュリズム(大衆迎合)による保護主義があり、長い目で見て、プラス効果(薬)よりマイナス効果(毒)の方が大きいと考えられる。

ただし、短期的には、プラス効果が上回る可能性もある。トランプノミクスで大規模な財政出動を計画しており、それが、米国および世界の景気に追い風となるからだ。

米景気はトランプ大統領がまだ何もしないうちに、回復色を強めている。にもかかわらず、トランプ大統領は、これから財政出動による大規模な景気刺激策を行うと宣言している。景気刺激策は通常、景気悪化局面でやるのが常識だが、景気回復局面で大規模な公共投資や減税を行うとは、前代未聞だ。それこそ、究極のポピュリズムと言える。

景気回復局面で景気刺激策をとれば、米景気を一時的に過熱させかねない。長期的には、財政のガケ(公共投資の規模を縮小する際の景気悪化効果)、悪性インフレ、双子の赤字(財政赤字・貿易赤字)拡大といった問題を米国に生じかねない。

ただし、そうした問題が起こるのは、1年以上、先の話である。短期的には、トランプノミクスの景気刺激策が、日本株にも世界の株式市場にも追い風となる可能性がある。 今日は、トランプノミクスの長期的な問題点ではなく、短期的な株高効果だけに注目して、メリット銘柄を考えてみる。

トランプノミクスで恩恵を受ける分野は、大きく分けて3つある。金融株・米景気敏感株・資源関連株である。

(1)最大のメリットを受ける金融株

トランプノミクスで最大の恩恵を受けるのが、金融株となる見込みだ。世界的な金利低下で利ザヤ低下に苦しむ世界中の金融株が、トランプノミクスへの期待が引き起こした世界的な金利上昇によって息を吹き返す。

ウォール・ストリート(金融業界)に厳しい政策を取ると思われていたトランプ大統領は、米証券大手ゴールドマン・サックス出身者を財務長官など重要ポストに起用する方針で、金融業界に友好的と見られるようになった。

トランプ氏は、ドッド・フランク法(金融規制改革法: 2010年7月にオバマ大統領の署名で成立した法律で、金融業界の規制を強化する内容)を緩和する方針を示しており、実現すれば、金融業界に追い風だ。

日本の金融株でも、米国やアジアで積極的に事業を拡大している大手銀行(三菱UFJ FG、三井住友FGなど)にはトランプノミクスの恩恵が及ぶと考えている。国内事業は頭打ちだが、利ザヤが厚い海外事業に成長の期待がかかる。

大型M&Aによって、米国事業を拡大しつつある保険会社にもメリットはありそうだ。米フィラデルフィア(損保)・米HCCインシュアランスを買収して海外事業を拡大する東京海上HD、米国中心に展開するエンデュランス・スペシャリティHD買収で合意したSOMPO HD、アジア・オーストラリアに進出しつつ米プロアクティブ生命買収も行った第一生命HDなどに注目している。

(2)米景気敏感株

大規模な景気刺激策を行う恩恵は、日本の「米景気敏感株」に及ぶ。天然ガスを原料とする米国の塩ビ事業で高い競争力を持つ信越化学や、高品質タイヤで高いブランド力を持つブリヂストン、米国でセメント事業を展開する太平洋セメント、米国やアジアで受注拡大が期待される工作機械メーカーのオークマ・牧野フライスなどに恩恵が及ぶ可能性がある。

米社買収で、高成長が期待される車載半導体で世界3位に躍り出るルネサスエレクトロニクス(6723)にも、期待がかかる。

シェールオイル革命の恩恵でエネルギーコストが低下したことにより、米国では、燃費の良くない大型でパワフルなSUVの人気が復活している。米国でSUVの販売が好調なトヨタ自動車・富士重工に恩恵がある。

ただし、トランプ大統領は、日本の自動車メーカーによる米国向け輸出を敵視する発言を繰り返しており、日本車をターゲットとした規制ができると、ダメージを受けることになる。メリットとデメリットのどちらが大きくなるか、現時点でわからない。

実現性は疑問視されるものの、トランプ氏は自動車の燃費規制をゆるめる可能性にも言及している。そうなると、燃費の良い日本の小型車に逆風で、大型SUVを生産する米ビッグ3やトヨタには追い風だ。

(3)資源関連株

昨年、中国政府がインフラ投資を拡大した効果で、中国景気が持ち直し、原油や原料炭・鉄鋼石の価格が上昇した。さらにトランプ大統領のインフラ投資拡大策が伝わり、銅・亜鉛・ニッケル・アルミニウムなど、インフラ整備で需要が増える非鉄金属の価格が上昇した。これで、世界中の資源関連株が息を吹き返した。

世界中で資源開発を行い、資源権益を保有する三菱商事・三井物産など大手総合商社は、2016年3月期に資源権益で巨額の減損が発生したが、2017年3月期は資源事業の回復が追い風となる。

トランプ大統領は、自然エネルギーの利用促進に否定的な一方、シェールガス・オイルの開発促進には意欲的だ。米国の国有地でのシェール開発で、開発認可が出やすくなると、北米でシェール開発が活発化する。パイプライン建設や資源開発など、エネルギー開発投資が増加する可能性がある。

そうなると、建設機械や鉱山機械で高い競争力を有する小松製作所にも恩恵が及ぶ。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。

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