構造変化への対応を誤ったことが売上低迷の原因
日本マクドナルドの、3月全店売上高は前年比29.5%減で14カ月連続のマイナスであった。昨年夏の使用期限切れ鶏肉問題や、1月に発覚した異物混入問題への対応の遅れが売上減少につながっているが、それだけではない。外食業界に起こっている構造変化への対応を誤ったことが、売上低迷の根本にある。
今の日本でハンバーガーが売れなくなったかというと、実はそんなことはない。1個1000円以上もするハンバーガーを販売する「KUA AINA(クア・アイナ)」など高級バーガー店は好調だ。低価格を売りに成長してきたマクドナルドはこの流れに乗れていない。
同じ現象は日本だけでなく、アメリカでも起こっている。価格は高いが、使用する素材にこだわる高級バーガー店「Shake Shack(シェイク・シャック)」がブームになっている。同社は2004年に誕生したばかりだが、既に9カ国に展開し、2016年中に日本にも1号店を出す計画だ。
日本マクドナルドは、なぜ高級バーガーブームに乗れなかったのか?
日本マクドナルドは、なぜ高級バーガーブームに乗れなかったのか? 実は、2013年に日本マクドナルドが1000円バーガーを試験的に発売して話題になったことがある。高級バーガーへの需要が日本に生まれつつあることに気づいてはいたわけだ。ところが、こだわりバーガー路線を拡大することはできなかった。100円バーガーの店で、1000円バーガーを出しても消費者はすぐにはついて来ることができなかった。それがブランド戦略のむずかしさだ。
外食業や小売業には、それぞれブランド・イメージがある。「安くて手頃」の店で「高価なこだわりメニュー」を提供してもすぐには売れない。味や素材だけでなく、店のムードやイメージ全般を変えないと、顧客の評価は上がらない。
「安くて手頃」のイメージで急成長した会社が、次に高級路線を打ち出すことはよくあるが、なかなか成功しない。イメージは急には変わらない。時間がかかる。ただ、その成功事例もある。
「セブン-イレブン」は10年かけてイメージの転換に成功
「セブン-イレブン」は10年かけてイメージの転換に成功した。コンビニエンスストアは最初、若者が手軽に外で食べるファースフードを提供する店として成長した。ところが、少子化時代を迎え、顧客ターゲット層を、若者から家庭食に転換する必要が生じた。それにはブランド・イメージを、ファーストフードから家庭食に転換する必要があった。セブンは、村田社長が着任した10年前から少しずつ商品の入れ替えを進め、「セブン・プレミアム」というブランドを創出することに成功した。その成果で、40~50代女性の購買を増やし成長を続けている。
カジュアル衣料品「ユニクロ」も、最初は中国産の安い衣料品の販売で成長したが、その後、ブランド力を高める戦略をとった。生産管理を強化し、高級素材の開発を進め、時間をかけてブランド力を高めることに成功した。
外食業界では今、二極化が進行
外食業界では、今、二極化が起こっている。低価格への需要は根強いが、一方で、高価格のこだわりメニューが好調という流れがはっきり出ている。
安さで売ってきた牛丼が全般に不振な中、吉野家は、単価を高めた「牛すき鍋膳」がヒットして好調を保っている。「餃子の王将」でも、単価を高めたメニューが売れ筋である。サンドイッチでは、単価の高い作りたてを提供する「サブウェイ」が好調だ。
ブランド・イメージは一朝一夕に変わらない。日本マクドナルドが、戦略を転換するのは容易でない。単品で高級バーガーを出せばイメージが変わるというものではない。生産管理、店舗イメージ、素材調達先など、時間をかけて変える必要がある。売上減少が続く中、巨大バーガーチェーンの舵取りには相当な困難が伴う。
執筆者プロフィール : 窪田 真之
楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。