全国におよそ3,000組(?)あると言われている地下アイドルグループ。そのアイドルグループの運営活動や、メンバーのモチベーションなどを支えているのが地下アイドルプロデューサー(以下、プロデューサー)だ。前回はメンバーを集めるまでの方法や、活動資金、活動による売り上げなどを紹介した。

今回は、メンバーを集めた後の業務や、モチベーションを高めるためのアイドルとの関わり方など具体的な実務面を、現役プロデューサーの名原広雄さんに伺いたい。

  • 地下アイドルプロデューサーの名原広雄さん

「芸能領域」と「ライブ領域」の2つの業務

「人集め」「資金繰り」が重要だと言われているが、プロデューサーがやるべき仕事とはいったいどういうものだろうか?

名原さん「私の事務所では、次のような業務をやっています。

●コンサート及びイベントの企画、制作、運営、監理
●音楽・原盤制作、管理
●雑誌・書籍等の各種出版物及びCD・ビデオ・DVD等の各種メディア作品の企画、制作、販売
●アーティストマネジメント

そして、その中での私の仕事は、大きく『芸能領域』と『ライブ領域』に分かれます。芸能領域では、クリエイター(作曲家、デザイナー、衣装作家、カメラマン)の方々との打ち合わせが中心です。

自分の楽曲やMV、衣装などのイメージや企画をクリエイターに伝え、成果物をチェックしながら、イメージの異なる点は再び意見を交わし、仕上げていきます。それを並行して、スケジュールや予算の管理も行っていきます。

そして、決まったスケジュールや内容などを、必要に応じてメンバーとも共有。メンバーはイベントやライブがない時は、TwitterやshowroomといったSNSの更新作業やダンスレッスン、レコーディングがあるので、プロデューサーは、それらのスケジュール管理やメンバーのモチベーションを高めるためのマネジメントも大事な業務です」。

  • レコーディング中のメンバー、一番左はコーラスも担当するダンス講師 提供:WORLD PRESS

名原さんの運営しているアイドルグループ「アオハル since 2015」は、メンバーの学業や本業を優先し、ライブ活動は、毎週土日または祝日(メンバーに学生が多いときは夏休み期間の平日もある)のうち、基本的には週1回だという。メンバーが望めば撮影会やオフ会、芝居の仕事も行うようだ。

名原さん「ライブ領域では、毎回ライブに同行し、ライブ当日はセットリスト(曲順番)作成やリハーサルの立ち会い、ライブ出演後は物品を販売するスタッフのマネジメントなどを行っています」。

ところで、芸能事務所となると、経理作業や楽曲の著作権、メンバーの肖像権など権利関係の管理業務も必要だろう。このあたりは、どうなっているのだろうか。

名原さん「現在は税理士さんにお任せしていますが、立ち上げ当初は、経理や事務作業など、すべて自分で行っていました。お金の流れを一番よく把握していますから、会計アプリなどを利用し、夜な夜な領収書の仕分けをしていましたね(笑)」。

また、条文の解釈など、法律面で悩んだときは知り合いの弁護士に相談するそうだ。アイドルの活動は、著作権・肖像権から、労働基準法・風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)の問題が必ず発生する。しかし、基本的なことはすべてインターネットで調べることが可能なので、困ることはあまりなかったそうだ。

【MV】アオハルsince2015『バブバブ~Bubble×Bubble~』スマートフォンで制作【MVF公式】

地下アイドルプロデューサーが直面する2つの問題

名原さんによると、プロデューサーが必ず頭を悩ますことに、「Webによる効果的なメンバー募集の方法」と「メンバーのモチベーションを高める関わり方」があると言う。

最初の問題でいうと、「地下アイドルの募集サイトは、間違ったメッセージや表現をしていることが多い」と、名原さんは指摘する。

名原さん「例えば、『うちのグループの楽曲は、有名な作詞家・作曲家のAさんが書いています』などと表記していることが多いのですが、彼女たちにはあまり刺さりません。このグループに入ってもいいかなと思う一番の動機は、『MVのイメージが好き』とか『グループの雰囲気が自分に合っている』という所です。企業の採用でいえば、『職場の雰囲気』や、『風通しのいい社風』でしょうね」。

だから、メンバーの人柄や雰囲気が分かったり、「私もできそう!」という親近感が伝わる「オフショット」や「ライブ動画」を上げたりすると、反応が高いそうだ。そして、両親の理解を促すための表記や対応も欠かせないポイントだという。

  • MV撮影時のオフショット

名原さん「親御さんは、『フィー(報酬)』 『拘束時間』について気にされます。だから、フィーについては、オフィシャルのウェブぺージや採用情報に、『チェキは1枚1,000円、そのうち30%×人数分』など、業務内容と合わせて一つひとつ細かく明記するようにしています。

拘束時間については、未成年の方は保護者同伴で面接を行い、その際に業務終了時間や、単独行動させない旨を伝えて、安心してもらうようにしています」。

地下アイドルのプロデューサーというのは、胡散臭く見える職業だけに、面接では、誠実さを持って、正直に話すことを常に心がけているという名原さん。それによって、多少ネームバリューがなくても、コンスタントに応募があるそうだ。

挑戦できるステージを常に用意する

プロデューサーのもう1つの課題が、「メンバーたちとの関わり方」である。「モチベーション=お金」ではない若いメンバーたちにとっては、いかにこの仕事にやりがいを感じられるかが継続する大きなポイントになってくるという。

名原さん「ステージに立つと、みんなから注目されるので最初は刺激もあり、やりがいも感じるが、意外と簡単にステージに立ててしまうがあまり、しばらくすると、慣れもでき、マンネリ化につながります。特に、若い子たちは飽きっぽいのでなかなかモチベーションも維持できなくなります。

そこで、成長につながる次のステージを細かく提示して、目標を与え続けることが重要です。生誕祭、CDデビュー、MVだけでなく、映画の出演、モデルの仕事など……活躍のフィールドが広いほうが刺激も多く、その子の可能性も広がります」。

  • 1stシングルジャケット撮影、一番右はヘアメイク担当

くわえて、年間の活動スケジュールを共有することも重要で、「自分たちはどこに向かおうとしているのか、その方向性を示してあげることで、少しでも安心感を与えてあげられます」とのこと。なお、過去に行ったモチベーション維持のための取り組みとして、MVを制作するためにクラウドファンディングサービス「Makuake」の利用があったと言う。

名原さん「本格的に活動を始めて半年くらいの頃です。支援者の力を借り、わずか5分の映像のため、何日もかけて皆で1つの作品を作りあげるという経験は、メンバーのなかに初めて達成感が芽生えた瞬間で、良い刺激となりました」。

  • アオハルsince2015 新曲:bubble ×bubbleのMVを作りたい! プロジェクト 出典:Makuake

明確な目的意識を持たせる手腕

それと、もう1つメンバーとは必ず「契約書を交わす」ことが重要だそうだ。

名原さん「若い子たちは、社会人経験が無いため、ビジネスマナーや常識が通用しないことが多い。そんな子たちと、保護者でもない私たちプロデューサーが向き合っていくためには、やっていいことと、悪いことをしっかり伝え、守ってもらうように教育していかなければなりません、そのためにも、『これは守ってね』というルールとなる契約を 示すことはとても重要です」。

また、地下アイドルの育成の難しいところは、まったくの業界未経験者に対して業界ルールや労働に関する法律知識、ダンスやボーカルなどの技術を「短期間で理解してもらうこと」にあるという。

  • 2ndシングル曲のレコーディング 提供:WORLD PRESS

名原さん「大半の方はトレーニング期間で辞めてしまいます。ですので、うちでは、ステージに立つ前に必ず研修を受けてもらっています」。

地下アイドルになる女の子たちは、大手芸能事務所のアイドルのように「女優になりたい」「世界中から注目されたい」というような明確な理由があるわけではないそうだ。

どちらかといえば、「今の自分を変えたい」「なんとなく」という、漠然とした理由で始める子が多い。それだけにプロデューサーの関わり方次第で、大きく変わる可能性を秘めているのだろう。

名原さん「インディーズ(地下)の場合、彼女たちに明確な目的意識を持たせられるかどうかも、プロデューサーの手腕が問われます」。

次回は、他の現役プロデューサーも交えて、別視点からプロデュース業の面白さを紹介したい。

取材協力:名原広雄(なばら・ひろお)

出版社2社を経てフリーに。雑誌・Webメディアの編集をてがけながらライブイベントの制作、アイドルプロデュースを行う。平日はおもに編集業、週末はアイドルプロデュース・イベント制作業、というワークスタイル。GWや夏季休暇など長期連休中は地方遠征もしばしば。


所属ユニット
gigi:公式ウェブサイト
アオハルsince2015:公式ウェブサイト