非常にニッチな職業と言える「地下アイドルプロデューサー」。実は、意外と、いろんな人たちが活動している。詳しい実態を詳しく知るため、現役のアイドルプロデューサー2名による対談を行った。

一人は「アオハル since2015」という地下アイドルのプロデュース歴4年目の名原広雄さん。もう一人は、海外での知名度が高いニューウェーブガールズグループ「ゆるめるモ!」のプロデューサー経歴7年目の田家大知さんだ。

今回は、アイドルプロデューサーを目指したきっかけや、アイドルの採用方法・基準などをテーマに語り合ってもらった。実は、2人は、本業では編集者とライターとして、10年来のつながりがあり、気心の知れた仲だからこそ、続々とホンネが飛び出してきた。
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  • アイドルプロデューサーの田家大知さん(左)と名原広雄さん

若者の避難場所としてアイドルグループを作る

ー本業では、編集者とライターという関係でしたが、そもそもお二人がプロデューサーを目指したきっかけは何ですか?

名原さん 「私は、とある芸能事務所のマネジャーに相談されたのがきっかけです。もともとアイドル雑誌や単行本などの編集者でしたが、販売プロモーションの一環として、書店でのアイドルによる雑誌の手渡しイベントを企画したのです。

その事務所とのつながりが増えたことがきっかけで、グラビアアイドルが多数在籍する別の事務所のマネジャーからも、『水着グラビア以外に、アイドルが活動できる場所はないか』と、相談されるようになりました」。

名原さんは、その頃、独立に向けてライブハウスでのイベントプロデュースを行っていたので、「東京なら毎日のように地下アイドルのイベントを行っているので出場してみたら?」と提案すると、プロデュースも併せてお願いしたいと、依頼されたのが始まりだそうです。

田家さん 「学生時代、バックパッカーで世界1周をして、いろんなものを見てきました。そして、日本の企業という小さなパイで考えるのではなく、もっとグローバルな世界に飛び出せば、いろんな働き方ができるのにと、自然と思っていました」。

その後、音楽ライターとして働いていた田家さんですが、「この仕事は自分に向いていないな」と感じていた時に、東日本大震災が発生。社会のために働く仕事が何かできないだろうかと考えていた時に、就活に失敗して命を絶ってしまった若者をニュースで知り、やるせない思いを感じたそうです。

田家さん 「『こんなのおかしい。日本の若者にとって海外を身近なものに感じて、いろんな働き方や生き方を知ってもらいたい』という思いから、アジアの楽しいニュースを取り上げるWebサイトを作りました。ところが全然アクセスが無い(苦笑)」。

思案した田家さんは、サイトの知名度を上げるために、海外ツアーを行うメジャーアイドルグループのライブレポートをのせて、海外と日本のファンを交流させるオフ会を開催しようと企画。すると、60人ものファンが集まったそうです。

  • 若者に海外を身近に感じてほしかったと言う田家さん

田家さん 「ファンのうち、日本人の半数は初海外という超ビギナー(笑)。『アイドルすげー!』と思いましたよ。いとも簡単に、日本の若者を海外へ旅立たせるというアイドルの影響力。それを目の当たりにして、(若者の)精神的な避難場所となるアイドルグループを作ろうと考えたのがきっかけです」。

アイドルメンバーは路上スカウトが良い?

ーお二人はアイドルをどのように集めたのですか?

田家さん 「知名度が全くないライターだったので、ネットでアイドルを募集したところで、絶対集まらないと思っていました。それよりも、路上に出て、声をかけたほうが採用できるだろうと考え、気になる子がいたら、ひたすら声をかけ、スカウトをし続けました。その数300人は超えると思います。断れることがほとんどでしたが、それをやり続けられたのは、自分の執念だったと思います」。

名原さん 「路上でスカウトするというのは、私には無理ですね。以前、私がプロデュースしているアイドルの子と原宿でチャレンジしましたが、女性、それもアイドル本人が一緒にいるのでようやく立ち止まってもらえた、という感じでした」。

名原さんの場合、この経験から、スカウトはプロにお願いし、同時に、アイドルを募集できる無料のWebサイト(媒体)を利用したそうです。

名原さん 「私の場合は効率を重視しましたが、もし、『この人は、ぜひうちのグループで』と思ったら、田家さんように自身でスカウトするのがいいと思います」。

田家さん 「今考えても、無謀な行動だったと思いますが、当時の自分にはこれしか方法がありませんでした。しかも、名刺も持っていなかったので、怪しさしかなかったと思います。それでも、やり続けていると、次第に躊躇することも少なくなり、さらには、次第に立ち止まってもらえるポイントが分かってきて、打率も上がってきました」。

  • 路上スカウトは自分には無理だったと話す名原さん

アイドルになれる子の基準は?

ーお二人がグループのメンバー候補を採用するポイントは、どこですか?

田家さん 「僕は、よく汁とか煙とか言うのですが、話していて、『こういうところが面白いな』とか、『変だな』『ずれているな』みたいな要素を、採用した子はみんな持っていると思います。それと、ずる賢くなく、不器用っぽい子も惹かれます。

あと、僕は『次はこんなビジョンだ』と言って、新たなことをやる方なので、それを『なんか面白そうですね』とポジティブに捉えられるという点も採用する上では大きなポイントです。あまり真面目過ぎる子は難しいかもしれないですね。名原さんは、どうですか?」。

名原さん 「そうですね、女の子たちには、アイドル活動を長く続けてほしいと思っているので、その要素を持っているかどうかは、採用の際には見ています。面接では、長く続けてきたバイトや部活動の有無や、その理由を聞いたりします。

あとは、これから始めようとするアイドル活動が好きになれるかどうかも重要ポイントです。好きであれば、少々ハードルがあっても続けられると思うので。それと意欲とコミュニケーションがあるかどうかもチェックします。でも、面接まで残られた方は、余程のことがなければ不合格にはしません。それだけ書類選考を重要視しています」。

楽曲の作り方やプロセスを解説

ークリエイターへの依頼やディレクションはどのように行っているのでしょうか?

名原さん 「昨日撮影があったんですが、ヘアメイクさんと衣装さん、振り付け担当の方はTwitterの募集で来てもらった方々です。Twitterはレスが早いので、すぐに仕事につなげられます。クリエイターさんはTwitterやHP、YouTubeなどに実績などをあげていらっしゃるので、基本的にその経歴を見て、うちのグループに合った方に依頼しています」。

それでも、中には失敗することもあり、クリエイターの実績を全く調べず、紹介者からの情報だけで相手のやり方を確認せずに発注したことがあるようです。その結果、できあがってくるものが自分のイメージと違うという残念なことになったみたいです。

名原さん 「依頼する上で、私の場合一番難しいのは『振り付け』ですね。衣装はこちらもある程度イメージでき、ラフデザインを見れば『ここが違う』と伝えられます。

でも、振り付けは知識がない上に、自分の中のイメージと歌詞のみを頼りに発注するので、振り付け師のセンスに委ねる割合が大きい。できあがったものを見て違和感があっても、修正指示がとてもしづらく、苦労します。田家さんは、どういったことに苦労されていますか」。

  • 手描きの衣装ラフ

  • 実際にできあがった衣装

田家さん 「僕の場合は、伝え方で、いろいろ工夫しています。特にクリエイターにイメージが共有できるように、できる限り具体的に説明するように意識しています。

例えば、『ライブで盛り上がる曲』といっても、受け取り方も人によって違うので、具体的に『宇多田ヒカルのこんな曲のテイスト』とか……、メールで伝える場合は、『カウントダウンTVで夏の曲と振り返った時に、何年もとりあげられるようなメジャー感』など、具体的な内容を箇条書きでたくさん書いていきます。楽譜が読めなくてもいいので、こまかく伝えることが大事だと思います」。

名原さん 「伝え方でいえば、田家さんの言うように、クリエイターがイメージできるものを提供するのは必要不可欠です。例えば、『90年代渋谷系』と言っても、いろんなグループのテイストの曲があるので、クリエイターからすると、どのテイストの曲か分からない。

やはり、田家さんが挙げたようにアーティスト名と、具体的な曲名を出したり、あるいは『アイドルが海で遊ぶシーンにマッチした曲』など、ビジュアルシーンを提示したりするのもいいと思います」。

田家さん 「僕の場合は、付き合いの長いクリエイターさんも多いので、そんな人たちには、彼らが得意とすることに化学反応が起きることを意識しながら、方向性を提示することもあります。そうすると、思いもよらなかった曲ができあがったりするので、それはプロデューサーとしての楽しみの1つです」。

田家さんによると、作詞の小林愛さん、作曲・編曲のハシダさん、演奏したミュージシャン皆さんのアイデアの化学反応で「予想よりもはるかに壮大な曲」に仕上がったのが、ゆるめるモ! 「天竺」だそうです。

ゆるめるモ! 「天竺」

地下アイドルをプロデューサーする上で、似たやり方もあれば、まったくアプローチが異なるところもあり、一人ひとり自分らしいプロデュースにこだわるのがプロデューサーの醍醐味かもしれない。

次回は、地下アイドルプロデューサーとしてやりがいや大変なこと、そして求められるスキルなどについて話してもらいます。

取材協力:田家大知(たけ・たいち)

ゆるめるモ! プロデューサー。著書に『ゼロからでも始められるアイドル運営』『10年続くアイドル運営術~ゼロから始めた“ゆるめるモ!”の2507日~』。DMMオンラインサロンにて、アイドルプロデュースのノウハウを教えるオンライン講座「ゼロからでも始められるアイドルプロデュース」開催中。ゆるめるモ! は来年2月より東名阪ツアー「サプライザーツアー」が開始。現在オフィシャル先行受付中。