「心中か?妄想か?」伝説的なラストシーン

■1位『高校教師』(TBS系、真田広之主演)

真田広之

真田広之

当時の衝撃度なら、この作品が圧倒的だった。スタート前は、「高校教師と女生徒による禁断の愛を描いたもの」とみられていたが、フタを開けてみたら、それをはるかに上回る過激なシーンが詰め込まれていた。

二宮繭(桜井幸子)に佐伯麻美(中村栄美子)が好意を抱く同性愛、藤村知樹(京本政樹)による相沢直子(持田真樹)への強姦と妊娠中絶、羽村隆夫(真田広之)の婚約者・三沢千秋(渡辺典子)と元同僚・樋口尚樹(黒田アーサー)の浮気など、強烈な展開が多いにも関わらず、その映像には終始透明感があり、純粋無垢なイメージを抱かせた。

その象徴である繭は、ベッドシーンどころかキスすらなく、儚げなヒロイン像を徹底。前年の朝ドラ『おんなは度胸』(NHK)でヒロインを務めたばかりの桜井幸子が、清楚と絶望の両面を併せ持つ難役を演じ切り、絶賛を集めた。

以降、桜井幸子は『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』(TBS系)、『この世の果て』(フジテレビ系)、『未成年』(TBS系)と野島伸司の作品に3作連続出演。これは「『高校教師』の演技がいかに素晴らしかったか」を裏づけている。

そんな純粋無垢な映像や演技は、すべて終盤に訪れる近親相姦の前振り。父・二宮耕介(峰岸徹)の狂気じみた振る舞いとともに、物語が一気にクライマックスに突入していくダイナミズムを感じさせた。

列車の中でぐったりとし、小指に赤い糸をつけた手がガクッと落ちるラストシーンは、「寝ているだけか? 心中したのか?」、さらには、いるはずのない繭がいることから「すべては羽村の妄想話だったのか?」と話題騒然。視聴者の判断にゆだねる結末も、また現在ではほとんど見られないものであり、野島本人が「どんな解釈をしてもハッピーエンドであることは変わらない」と語っていることも含め価値は高い。

野島伸司は当作以降、「男女間に“カセ”を作ることで、究極の愛を描く」という作風を貫いている。昨年は『雨が降ると君は優しい』(Hulu)でセックス依存症、『パパ活』(dTV×FOD)で肉体関係を伴わない援助交際、今年は『彼氏をローンで買いました』(dTV×FOD)でローン彼氏など、野島の“カセ”は多彩さを増す一方。時代背景や生活環境の変化に応じてアップデートしながらも、本質的なところを変えないのが凄い。

当作は同年に唐沢寿明×遠山景織子の映画版と、2003年に藤木直人×上戸彩の続編が制作され、すべて野島が脚本を手がけた。数多くの作品がある中、野島が続編を書いたのは当作と『ひとつ屋根の下』(フジテレビ系)だけ。本人にとっても思い入れの大きい作品なのだろう。

主題歌は森田童子の「ぼくたちの失敗」。1983年の引退から10年後に大ヒットとなり、ベストアルバムが発売されるフィーバーだったが、本人は姿を現さないまま、今年4月に心不全でこの世を去った。

『ひとつ屋根の下』『あすなろ白書』『同窓会』

あらためて振り返ると、平成5年は純愛や熱血などのピュアな物語が減り、連ドラ全般が過激な方向へ振り切った。下記の作品以外にも、石田純一主演『ジェラシー』(日テレ系)、緒形直人主演『愛するということ』(TBS系)、浅野ゆう子主演『都合のいい女』(フジテレビ系)など、極端な作品が次々に誕生。しかも、その大半が視聴者からの支持を得ていた。

その他の主な作品は以下。

  • 江口洋介
  • 福山雅治
  • 江口洋介(左)、福山雅治

達也(江口洋介)、雅也(福山雅治)、小雪(酒井法子)、和也(いしだ壱成)、小梅(大路恵美)、文也(山本耕史)の生活と問題を描いた『ひとつ屋根の下』(フジテレビ系、江口洋介主演、主題歌は財津和夫「サボテンの花」)。貧乏ながら微笑ましい家族像を見せたが、最後の強姦事件が作品を印象づけた感がある。

なるみ(石田ひかり)、掛居(筒井道隆)、取手(木村拓哉)、星香(鈴木杏樹)、松岡(西島秀俊)の恋と友情を描いた『あすなろ白書』(フジテレビ系、石田ひかり主演、主題歌は藤井フミヤ「TRUE LOVE」)。「くっついて離れて」の恋愛至上時代らしい物語だが、掛居が取手以外の3人から愛される謎のモテモテ役。

  • 石田ひかり
  • 筒井道隆
  • 石田ひかり(左)、筒井道隆

中学の同級生3人が、借金、風俗、宗教、セクハラ、薬物などの罠にハマっていく破滅的な展開で話題を集めた『悪魔のKISS』(フジテレビ系、奥山佳恵主演、主題歌はサザンオールスターズ「エロティカ・セブン」)。内容より当時無名の常盤貴子がヌードを披露したことのほうが有名。

『ずっとあなたが好きだった』の大ヒットを受けて制作された『誰にも言えない』(TBS系、賀来千香子主演、主題歌は松任谷由実「真夏の夜の夢」)。佐野史郎のエキセントリックな芝居はさらにエスカレートし、笑いとサスペンスを演出。最終回で「加奈子(賀来千香子)は前作の美和(賀来千香子)と洋介(布施博)の子で、麻利夫(佐野史郎)は冬彦(佐野史郎)と再婚した女性の子だった」という衝撃の事実が発覚。

  • 斉藤由貴
  • 佐野史郎
  • 斉藤由貴(左)、佐野史郎

当時、LGBTがテーマの作品は衝撃的だったが、真摯かつ繊細に作り上げた『同窓会』(日本テレビ系、斉藤由貴主演、主題歌はMr.Children「CROSS ROAD」)。男女関係なく誰とでも関係を持ってしまう破天荒な筋書きに加え、斉藤が浮気妻、山口達也がバイセクシャルなど、今となってはネタのような役を演じた。現在のLGBTドラマ活況を見れば、その先鋭さがわかる。

妻子のいる水谷(緒形拳)と育未(裕木奈江)の不倫を描いた『ポケベルが鳴らなくて』(日テレ系、緒形拳主演、主題歌は国武万里「ポケベルが鳴らなくて」)。まさにポケベル流行期の作品だが、水谷の娘は育未の親友、息子は育未が好き、育未の恋人は浮気したあげく水谷の娘も口説くなど、周囲の人間関係もタイトかつドロドロ。育未を演じた裕木奈江へのバッシングが凄まじかった。

『もう誰も愛さない』『あなただけ見えない』の流れをくむ過激かつ残虐なジェットコースタードラマ『もう涙は見せない』(フジテレビ系、後藤久美子主演。主題歌はAMBIENCE「最後の約束 -See you again-)。元祖国民的美少女のゴクミがムチで打たれ、強姦されるなど、これ以上ない汚れ役に挑戦。次々に登場する悪役に苦しめられる中、誕生の秘密、意外な血のつながり、絶望的な事実などが明らかになるお約束の展開で視聴者を魅了した。

■プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。