2019年5月1日に新元号「令和」がはじまり、4月30日に幕を下ろす「平成」。マイナビニュースでは「平成」の中で生み出されたエンタメの軌跡を様々なテーマからたどり、この連載では「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年から31年までのドラマを1年ごとに厳選し、オススメ作品をピックアップしていく。第17回は「平成17年(2005年)」。
※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください。
平成17年(2005)は、堀江貴文率いるライブドアが、ニッポン放送の株式取得によるフジテレビの経営関与を狙った騒動が勃発。テレビ業界が激震に襲われた。
テレビ番組では、1981年スタートの『火曜サスペンス劇場』(日本テレビ系)が9月で終了。ノンジャンルの『ドラマ・コンプレックス』に大幅リニューアルされた。その他では、『全力坂』(テレビ朝日系)、『ゴッドタン』(テレビ東京系)、『5時に夢中!』(TOKYO MX)などの現在も続く個性的な番組がスタート。一方で『速報!歌の大辞テン』(日テレ系)、『内村プロデュース』(テレ朝系)などが終了した。
ドラマのTOP3には、クオリティと社会的反響の併せ持つ作品を選んだ。
■ジャニーズがハマった「修二と彰」
3位『野ブタ。をプロデュース』(日テレ系、亀梨和也・山下智久主演)
芥川賞候補になった白岩玄の小説を思い切って脚色。「転校生のいじめられっ子をプロデュースする」という肝の設定を生かしつつ、その“野ブタ”を男子から女子の信子(堀北真希)に変更し、修二(亀梨和也)の相棒に彰(山下智久)というキャラクターを創り出した。
いじめなどの学校問題に対するアプローチ、「自分の立ち位置をどう作っていくか?」という現代高校生の描き方、「ただそこにある学校の風景」を切り取ったような世界観……押し付けや力みのない作風は、まさに木皿泉の脚本。視聴者に、青春の甘酸っぱさと残酷さ、リアルとノスタルジーの両面を感じさせるなど、学園ドラマに新風を吹き込んだ。
周囲の目を気にして「人気者の修二」という仮面をかぶっていたが、信子をプロデュースしていく中で「他人の幸せを喜ぶ」などの人間らしさを身につけていく修二。無口で無表情ないじめられっ子だったが、「野ブタパワー注入!」で徐々に心を開き、たくましい一面を見せるようになり、最後に笑顔を見せた信子。高校生の成長物語としての完成度も一級品だった。
堀北真希は今作で一気にブレイク。ボソボソとした話し方、ボサボサの前髪で隠れた顔、うつむき加減の姿勢。それでもチラリとのぞくかわいらしさを表現し、髪を切り、私服で登校するなど、身も心もキレイになっていく様子をみずみずしく演じていた。
亀梨、山下、中島裕翔のジャニーズ勢が出演したことで、「アイドルドラマ」と侮っていた人々も評価を一変。むしろジャニーズだからこそ、人気者の仮面をかぶった修二、ひょうひょうとしているがどこか虚しさを感じさせる彰が、血の通ったキャラクターになったのではないか。
主題歌は、修二と彰「青春アミーゴ」。この年の売上ランキング1位に輝き、忘年会で踊る人々が続出した。
■ドラマ史上最高の熱血バディ
2位『海猿 UMIZARU EVOLUTION』(フジ系、伊藤英明主演)
前年の映画化に続いて、ほぼ同じキャストで連ドラ化。横浜海上保安部の巡視船「ながれ」を舞台に、命懸けで仕事に挑む男たちの熱い人間ドラマが描かれた。
海上保安大学校を卒業後1年の潜水士・仙崎大輔(伊藤英明)と、エリートの特殊救難隊から出向中の池澤真樹(仲村トオル)。昨今さまざまなジャンルの作品で「バディ」が描かれているが、連ドラ史上最も熱いバディはこの2人……そんな確信を持つほど2人は日々のトレーニングで張り合い、「育てる」「食らいつく」という信頼関係を構築。上半身裸姿で行った懸垂対決は、その象徴たる」シーンだった。
下ネタ好きだが誰よりも熱血漢の別所健次郎(三宅弘城)と、彼を慕う永島康太(坂本真)も名コンビ。バディ解消のシーンは視聴者の涙を誘った。さらに、中盤で潜水士になるべく努力をはじめた吉岡哲也(佐藤隆太)、幹部職の誘いを断り隊長として潜水士たちを束ねる下川嵓(時任三郎)、ベテラン船長・勝田孝太郎(夏八木勲)など、すべての人物が「国を守り、仲間を大切にする」という男気あふれるキャラクターだった。
常に死と隣り合わせの仕事だからこそ、ふだんはおどけたり、じゃれ合ったり、少年のような姿を見せる潜水士たち。しかし、ここぞというときの強い意志、人の命を救った達成感、思い通りにならなかった無念……肉体美も含めて、男くさい世界観でありながら女子視聴者の心をがっちりつかんでいた。
脚本を手がけたのが福田靖だけあって、周囲の人間模様もドラマティックに展開。仙崎と伊沢環菜(加藤あい)のすれちがう恋模様、池澤の身を案じ不安を隠せない妻、下川の離婚した妻と娘などのエピソードは、遠い世界であるはずの物語に視聴者目線を持ち込んだ。
その後、2006年、2010年、2012年に映画化されたため、「『海猿』=映画」の印象が強いかもしれないが、連ドラ版のほうが人間ドラマとしての質は高い。むしろ映画版だけを見た人は連ドラ版を見ることで、さらに『海猿』が好きになるだろう。主題歌は、B’z「OCEAN」。