■日本中が応援した奇跡のラブストーリー

1位『電車男』(フジ系、伊藤淳史主演)

  • 伊藤淳史

    伊藤淳史

  • 伊東美咲

    伊東美咲

「2ちゃんねる」に最初の投稿があったのは2004年3月、小説が発売されたのは同年10月、映画が公開されたのは2005年6月。そして翌7月に連ドラ版がスタートした。

物語の軸は、電車男・山田剛司(伊藤淳史)とエルメス・青山沙織(伊東美咲)のラブストーリー。アニメとゲームを愛し、恋には縁遠いオタクと、外資系会社に勤める美人のお嬢様という「美女と野獣」ならに「美女とオタク」の設定が話題を集め、演じる伊藤と伊東のビジュアル差も視聴者の好奇心を誘い、ラブストーリーながら男性視聴者層の支持を集めた。

電車男はイケメン俳優ではなく伊藤だからこそ、エルメスは絵に描いたような上品な美女の伊東だからこそ、「素直に応援できる」「奇跡を見届けたい」という視聴者心理を加速。結末はわかっていても、初デートの準備、サーフィン特訓、ストーカー撃退、決死の告白と一歩ずつ進んでいく「電車」の恋を応援し、一喜一憂する視聴者が多かった。

最終回のクライマックスに、沙織から剛司にキスして「好きです。だからこれからずっと一緒にいてくれますか?」「好きって言ったら、もっと好きになっちゃいました」というセリフがあったように、いかにも男性目線での理想像を描いた物語であったことも事実だ。

ただ、連ドラ版の肝は「オタクの純愛物語」というより、「名前も顔も知らない人を応援することの素晴らしさ」。連ドラ版は、小栗旬が友人に裏切られた過去を持つ掲示板管理人、六角精児が熱烈なタイガースファン、山崎樹範が引きこもりの大学生、我修院達也が世界中を旅する謎の男、塚地武雅が妻と別居中のリストラ男、なすびと田村たがめが貧乏カップル。

さらに、鉄道オタ、軍事オタ、アイドルオタ、声優オタ、文学オタ、パンクオタ、格闘技オタ、飛行機オタ。主婦、予備校生、フリーター、コスプレ少女、闘病中の女性など、さまざまな男女が「電車」を通して友情を育むような描写をフィーチャー。「2ちゃんねる」を書き起こした原作小説には存在しない、それぞれのキャラクター背景が丁寧に描かれていた。

同じ純愛モノでも、前年の「『世界の中心で、愛をさけぶ』(TBS系)や韓流ドラマ『冬のソナタ』にハマれなかった」という人も、「『電車男』ならハマれた」という人が少なくなかったのは、こうした人間味や親近感によるものだろう。

当作はネットの物語をドラマ化した先がけだが、炎上、クレーマー、同調圧力など、ネットのネガティブな点ばかりクローズアップされがちな中、当作のようなポジティブなあり方を見せる連ドラがあっていいのでは……と思ってしまう。主題歌は、サンボマスター「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」。

『花より男子』『女王の教室』『エンジン』『1リットルの涙』

その他の主な作品は下記。

  • 小栗旬

    小栗旬

  • 松田翔太

    松田翔太

松本潤、小栗旬、松田翔太、阿部力の「F4」と、ど真ん中のラブストーリーでヒット作となった『花より男子』(TBS系、井上真央・松本潤主演、主題歌は嵐「WISH」)。牧野つくし(井上)と道明寺司(松本)の最悪の出会いとファーストキスから、三角関係、すれ違い、告白などをじっくり描き、女性ファンをガッチリ獲得。第2弾や映画化につなげた。

冷酷な言動で小学生を支配する女教師・阿久津真矢(天海祐希)が物議を醸した『女王の教室』 (日テレ系、天海祐希主演、主題歌はEXILE「EXIT」)。強烈なヒロインのキャラ設定は、のちに『家政婦のミタ』『〇〇妻』などを手がける遊川和彦によるもの。PTA団体などからの猛抗議やスポンサーの提供クレジット自粛騒動などもあったが、生徒役の志田未来、福田麻由子、伊藤沙莉ら女生徒役の奮闘が光った。

  • 上野樹里

    上野樹里

  • 沢尻エリカ

    沢尻エリカ

木村拓哉がレーサー役に挑んだ『エンジン』(フジ系、木村拓哉主演、主題歌はエアロスミス「Angel」)。「あるトラブルをきっかけに家出中の実家に戻ったが、そこは児童養護施設になっていた」という筋書きは、いかにも古典的なヒーローもの。上野樹里、戸田恵梨香、有岡大貴、夏帆、中島裕翔らがそろっていた入居児童は今見れば豪華な顔ぶれ。木村の敵役を堺雅人が演じたことも時の流れを感じる。

15歳の若さで原因不明の難病・脊髄小脳変性症を発症し、病の進行に苦しみながらも、懸命に立ち向かう姿を描いた『1リットルの涙』(フジ系、沢尻エリカ主演、主題歌はK「Only Human」)。視聴者は沢尻の熱演に涙を誘われ、原作者の写真や日記を用いたエンディングでも泣かされた。劇中で流れたレミオロメン「3月9日」「粉雪」がいずれもヒット。

  • 阿部寛

    阿部寛

  • 新垣結衣

    新垣結衣

世間から見捨てられた南国の島に、親から捨てられた人間不信の少女が移住し、島民との暮らしを通して成長する姿を描いた『瑠璃の島』(日テレ系、成海璃子主演、主題歌はコブクロ「ここにしか咲かない花」)。当時12歳でほぼ無名の成海は、里親役の緒形拳と倍賞美津子らに支えられて伸び伸びとした演技を披露。島の美しい景色と素朴な人々で「日テレ版『Dr.コトー』」(フジ系)とも言われた。

平均偏差値36の高校生たちを東大に合格させる過程を描いた学園ドラマ『ドラゴン桜』(TBS系、阿部寛主演、主題歌はmelody.「realize」)。「バカとブスこそ東大へ行け」と説く型破りの強面弁護士を阿部が演じたほか、生徒役に山下智久、長澤まさみ、小池徹平、新垣結衣、サエコ、中尾明慶を起用。原作のような受験ノウハウよりも生徒の人間ドラマを描き、意外な感動作となった。

  • 稲垣吾郎

    稲垣吾郎

  • 草なぎ剛

    草なぎ剛

誰よりも慎重に人生を歩み、幸せの絶頂にいた主人公が、謎の女性の出現でどん底に突き落とされるサスペンス『Mの悲劇』(TBS系、稲垣吾郎主演、主題歌はSister Q「Night and Day」)。安藤衛(稲垣)を追い詰める相原美沙(長谷川京子)が哀しみをにじませた悪女を好演。ただ謎が明かされる終盤は“佐々木蔵之介劇場”と化した。

IT業界での成り上がりと転落、再生を描いた『恋におちたら~僕の成功の秘密~』(フジ系、草なぎ剛主演、主題歌はクリスタル・ケイ「恋に落ちたら」)。草なぎは十八番の素朴な男から、冷徹な男に豹変する主人公を演じ分け、松下奈緒とのラブストーリーも盛り上がった。当初のタイトルが「ヒルズに恋して」だったがライブドア問題が発生し、改題したのは周知の事実。

さらに、『義経』『ファイト』(NHK)、『H2~君といた日々』『あいくるしい』『汚れた舌』『タイガー&ドラゴン』『いま、会いにゆきます』(TBS系)、『不機嫌なジーン』『曲がり角の彼女』『優しい時間』『がんばっていきまっしょい』『危険なアネキ』『鬼嫁日記』(フジ系)、『87%』『anego』『あいのうた』(日テレ系)、『富豪刑事』『アタックNo.1』『熟年離婚』『着信アリ』(テレ朝系)、『嬢王』(テレ東系)などが放送された。

■著者プロフィール
木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。