ひょっとすると“国内初”の試みかもしれない、ハンバーガー専門店の経営や在り方について考える座談会。最後は、息長く「続ける」ことをテーマに、20年、30年と続くハンバーガー店になるために必要なことを、業界をリードする3人の社長に伝授してもらった。
本題に入る前に、まずは、ずっと気になっていた「ハンバーガーの価格」について議論してみた。1,000円を超えるハンバーガーがいまだに「高い」といわれ、マクドナルドへ行けば110円でハンバーガーが食べられるこの時代。同じ「ハンバーガー」なのに10倍近くの価格差があるこの食べ物にとって、ふさわしい価格とはいくらくらいなのだろうか。
ハンバーガーの適正価格は?
松原:どんなにおいしくても、毎日1,500円のバーガーばかり、とてもじゃないですが食べていられないワケです。では、「いくらぐらいならいいの?」ということなのですが、皆さんどうお考えですか? マクドナルドのハンバーガーが「1個59円」だったという最安値の記憶が強く残る中で……。
北浦:うちはマックのバーガーが「1個65円」の時代にオープンしたので、1,000円のハンバーガー屋は「高い高い」といわれて。まだ食べてもないのに「高い」っていうんですよ(笑)。「安くしたらもっと繁盛しますよ」っていわれて、「うるさいっ!」と心の中で叫んでました。
松原:日常的に食べられるハンバーガーの価格って、いくらぐらいでしょう?
北浦:金銭感覚って、それぞれ違うじゃないですか? お店主体で、ちゃんと利益を出して経営していける金額と、お客さんにとっての金額というのも、また違うんですよ。やっぱり安い方がいいっていうのはわかるんですけど、安さを追求しちゃうと、もう何も作れなくなっちゃうんで。だから、できるだけコストを抑えつつも、「ちゃんと利益が取れる」っていうところですよね。そうとしかいえないですね。
あと、高ければ高いほど売るハードルも高くなってくるので、どれだけお客さんに価値を伝えられるか、わかってもらえるか、ということだと思います。
松原:すると、ブラザーズはファストフードの方向には向かわないということですね?
北浦:安さを追求したことはないです。むしろ今の時代、「たくさんお金を出してほしいな」と思いますね。だってほら、お金は「出すから入ってくる」ワケじゃないですか? お金に価値があるんじゃなくて、お金を使うことに価値があるんです。「本当はこっち食べたいけど、100円安いからこっち」というんじゃなくて、「食べたいな」と思って店に来てほしいですね。そういう世の中にしていきたいと思うんですよね。
船曵:私の感覚では、昼間のランチに毎日1,500円かけてる人なんて、ほとんどいないと思うんです。ほとんどの人は700~800円ぐらい。で、たまに、例えば水曜日だけ1,200円とか。せいぜいそのくらいが、東京でも、皆さんが普通のランチで払われているラインですよね。
船曵:ハンバーガーでも多分、それは当たっていて、フレッシュネスはその「毎日食べてもいいぐらい」の価格のギリギリ「上」を狙ってます。だから、ハンバーガー単品で600円とか、セットで食べて800~1,000円というところが、もう「上のギリ」なんですよ。そこより上げたら売れないんです。お客様の方でも、そうやって我々を見てくださっているので。
船曵:グルメバーガーの業態なら、「昨日は頑張ったから、今日はちょっとご褒美で」とか、「今日は休日だから」とか、「公園の近くで雰囲気がいいから」とか、そういう理由で1,200円でも払ってくださるお客様がいるんだと思います。そこへさらに「チーズ乗せたい」「アボカド乗せたい」となって、1,400~1,500円とか。それぐらいまでは、上乗せされるのかなと。
関:これは千差万別ですからね。三軒茶屋に『ブルーボトルコーヒー』ができたじゃないですか? その脇に『磯丸水産』があるんですよ。僕ね、ブルーボトルコーヒーに「行こうと思って行かなかったこと」が2度あるんです。ブルーボトルコーヒーのカフェラテがあれ、500円ぐらいですよね? 磯丸水産のランチのマグロ丼も500円ぐらい。で、三茶に行ったらお腹空いちゃって、結局、磯丸に入っちゃった(笑)。だけど、ブルーボトルコーヒーには、磯丸水産よりもお客さんが入ってるんですよ。
関:ここは難しい。これが、磯丸水産で2,000円のマグロ丼を出していて、ブルーボトルコーヒーのラテも1杯2,000円だったのなら、そりゃあ磯丸へ食事しに行くだろうと思うんですよ。やっぱり、そのモノ自体の「価格の上限」はあるかな、っていうことです。その上限の中で、どれだけの価格設定をするか。どういうビジネスターゲット、マーケティングでいくか。あとは、商品の「付加価値」です。価値の付け方もさまざまあって、食材だけじゃなくて、ユニフォームもそうだし、場所が便利とかね。その中で、いかに価格を抑えていくかですね。
すき焼きバーガー3,500円は高い? 安い?
松原:ブラザーズさんは去年の秋、日本橋高島屋にお店を出されて、『人形町今半』とコラボした「すき焼きバーガー」を3,500円で販売されましたよね。売れ行きはいかがでしたか?
北浦:目標には届かなかったけど、思ってたよりは「出たかな」って感じでしたね。例えば、いい寿司屋へ行くと、一貫が何千円とするじゃないですか? それと比較した時に、うちの商品が高いかというと、そんなに高くはないんですよ。結局、「同意」じゃないですか? 1,000円以上は高いとか、700円、800円は安いとかいうのは、すべて「同意」があるワケですよね。
北浦:今半というのは、1枚のお肉が何千円もする店で、その肉を挟んで「3,500円ですよ」というのは、実はそんなに高いもんじゃないんですね。普通に今半ですき焼きを食べたら、2万円、3万円は当り前。そのお肉を使って提供しているバーガーですから、そこまで高い商品じゃないんです。
でも、ハンバーガーは、さっきいってた「1個59円」、つまり「安い」という先入観が、ある種の“洗脳”みたいになってるんで、そこをうまく見極められるお客さんが召し上がっていた感じですね。
関:目利きじゃないんですよ、ほとんどの人が。誰かが「いい!」といえば並ぶし。「高級肉はAかBか?」みたいなテレビ番組、あるじゃないですか? あれも、なかなか正解がわからない。「今半っていわれれば、今半だなぁ……」っていう、その程度で。
松原:お客さん全員が目利きなワケではない。でも、ごく少数の目利きがいった「いい!」がきっかけで、行列ができることもある。そういうことですね?
関:世の中のほとんどの人は行列に並ぶ側なんですよ。それが本当に、うまいかどうか、価値があるかどうか、値段が合うかどうか、そういったことを判断できるのが目利きです。だけど、「みんなが欲しがるもの」を作ることも、ビジネスとしてはありなんです。このジレンマが根底にあるんですね。
でも、長い歴史を見ると、目利きを対象とした商売や製品が勝ち残っているのも確かなんです。つまり、長くやることが基準であれば、最終的に勝ち残ってるのは「本当にいいもの」であり、「うまいもの」であると。価値観は人それぞれでいいんですけど、ただ、まぁ、「本質は見てないと」という話です。
――整理すると、ハンバーガーの価格について、北浦社長は店の側の意見を述べ、船曵社長は一般消費者の金銭感覚について語った。本来であれば、この店側と客側の間の「需要と供給のバランス」で、モノの価格は決まる。そこへ関社長は「目利き」なるものを新たに登場させた。
この目利きが判断する「本当にいいもの」と「みんなが欲しがるもの」とは、また別なのだと関社長はいう。しかし、目利きのひと声がきっかけで、モノの価値が決定づけられるような重要な場面が、時としてあるのではないかと筆者はにらんでいる。目利きの意見と「みんな」の意見の相違。「いいもの」と「欲しがられるもの」との間のジレンマ。それらも踏まえつつ、座談会の最後に、「店を続ける上で、最も大事なことは何なのか?」 という難問を3人にぶつけてみた。
これからもずっとハンバーガーを食べ続けるには?
松原:では、おいしいハンバーガーが、これからもずっと続いていくには何が必要なんでしょう? もっともっと多くの人が、ハンバーガーを食べるようになるには何が必要かというのを、「ひと言」でお願いします。
関:「うまさ」。
松原:やっぱり「うまさ」に行き着く?
関:行き着きますね。おいしいものって、1度「いいな」と思ったら、何かこう、自然にというか、また行っちゃうんですよ。つい買っちゃう。
比較じゃないんですよ。宣伝でもなく、流行りでもなく、誰がいいといったからでもなく、最終的には、その人が「これがうまい!」と思ったら、うまいんです。そして、うまいものには意外とお金を使う。別腹とかいうじゃないですか? もう、予算は関係ないですよ、そこまで行くと。
松原:だから、根本は「うまさ」だと?
関:あとは我々、やっぱり「日本食」の人たちですから、日本人は「ごはん」が食べたいんですよね。だから、ハンバーガーのことを「パン」って呼ぶ人もいるワケです。つまり、ハンバーガーを食べ物でなく、「ごはんじゃないもの」として見ているという、まだまだそんな段階なんです。そんなハンバーガーが「うまいもの」だという認識が広がれば、59円でも1,500円でも、3,500円でも自然に買ってもらえるようになると思います。
松原:ハンバーガーが「うまいもの」として認められる、今はまだその「道半ば」だということですね? ありがとうございます。船曵社長は?
船曵:「チェンジ」。味を変えていくとか、クリエイティブになるってことじゃなくて、新しいものを常に追求していく。
船曵:味を追求することも必要だし、チェーン店なら、いろんなオペレーションのシステムを変えていく必要もある。例えば我々フレッシュネスだったら、回転寿司にあの価格でやられたら、戦えないですよ。でも、やっぱり我々は、そこに負けないようなビジネスモデルに変えていかないと。ハンバーガーはハンバーガー業界の中だけで戦っているワケじゃないんです。お客さんの胃袋の数は一緒だし、むしろ減っていっているし。となると、どんなレベルのハンバーガー屋さんでも、5年経った時に5年前と同じことをやっていたら、難しいんじゃないかと。だから、やっぱり変わることっていうのは大事なことだなと思ってます。
関:進化していく――。
船曵:そうです、変化というよりは「進化」の方が正しい。
同じようなことをやっていても、その中には、いろんな変化があるじゃないですか? 牛肉なんか、どんどん値段が上がって行ってるワケですし、キャッシュレス決済やモバイルオーダーなどの新しい仕組みができ、いろんなものが増えていく中で、それをどう受け入れるか、どう使って行くかということはすごく大事です。結果、「使わない」って判断も含めて「進化」だと思うんですね。
松原:裏を返せば、今のままでいいワケではないということでもありますね。それでは、北浦さんは?
北浦:「人」。いつもこれですね。創造するのも、進化させるのも、おいしいものを追求するのも、ここから全てが始まっているワケで。
北浦:グループといっても、やっぱり個々の集まり、個性の集まりなんですよ。各人が持つ個性がいろんなものを生み出していく。それを押さえつけずに、うまく企業精神など入れながら、どう伸ばしていくかっていうところが、最終的に「継続」につながっていくのかなって思いますね。
松原:その人が独立しても、おいしいハンバーガー屋さんが新たにできれば、結果、業界というグループの中ではよいことですからね。
北浦:そうなんです。僕ね、競争、昔は好きでしたけど、今はもう「みんなで盛り上げればいいじゃない」という考えです。共存共栄。そうすれば、この業界とかハンバーガーというものが、どんどん広がっていくんじゃないかな。
松原:地方にどんどん出ていってほしいですね。東京に一極集中している感が否めないですから。
北浦:じわじわ増えてますよね、地方にも。
松原:ファンゴーのOBも地方に店を出されてますよね?
関:ビジネスというより「趣味」ですね、あれは。まだまだです(笑)。
いつものあの味、あのバーガーが、いつ店に行っても変わらず、食べられること。客にとって、これ以上の幸せはない。飲食店開業の夢は、店を開けることを目標にしがちだが、「何年続くか」こそが真価だ。どんなにおいしくても一瞬で食べられなくなってしまうスペシャルなバーガーより、何年も、何十年も、安定して食べ続けられる「ふつう」のバーガーの方が、結局は愛される。長く続くことは、店ばかりでなく、客にとっての強い願いでもあるのだ。
だからこそ、ハンバーガーショップの開業を目指す人には、続けること、「継続」を目標にした夢の設計と計画を、ぜひともオススメしたい。「21世紀の初頭にグルメバーガーって流行ったよね……今はないけど」ではなく、いつまでもおいしく食べ続けられるハンバーガーを、ぜひ!