どこのチェーンにも属さない、1店舗きりの店としてオープンしたハンバーガー専門店が人気店となり、2店目、3店目と出して成功していく。そうなると気になるのは、「その次」の展開だ。都内きっての人気バーガー店は一体、どこへ向かって行くのだろう? ズバリ聞いてみた。
チェーン展開の話――BROZERS'の場合
松原:ブラザーズさんはチェーン展開をお考えですか? そもそも、「他人に任せられるものなのか」というのと、自分でやるとしたら「何店舗が限界」とお考えか、教えていただけますか?
北浦:僕は、「どこまでできるかな」っていう毎年のゲームを設定してるんですね。将来、「何十店舗が目標」ということじゃなくて、「今年、どのくらいまでできるのかな」というのを毎年、見ている感じなんですよ。
北浦:だから、今年であれば、品質のためにちょっと工場でも作ろうかとか、そうやって、ひとつひとつ上がっていくと、また新しい何かが見えてきて、それをクリアすると、さらに新しくなる。毎年こう、じわじわレベルを上げていきながら、ひとつ上に上がると、また違う風景が見えて、「じゃあ今度は、それをやろうか」みたいな、そんな感じなんですよね。
いま、ブラザーズは5店舗になったんですけど、5店舗なりの問題ってあるんですよ。どっちにしても上がるか、下がるか、どっちかじゃないですか? 商売に中途半端な状態ってないんですよ。
松原:現状維持は?
北浦:現状維持も「マイナス」です。で、ウチのスタッフは、みんな独立志向なんです。9割方みんな、独立志望なんですよ。今まで20人くらい独立してます。だから、「育てたと思ったら辞めていく」という、この悪循環が甚だしくて。でも、それも好循環なんですけどね(笑)。そんな中でも、ウチを好きになってくれて、独立の意欲はあったんだけど、「ブラザーズを支えていこう」と方向転換してくれるスタッフも中にはいるんです。
関:あぁ、すばらしい!
北浦:でも、本当にごく僅かなんです。独立よりも少ないんですけど、10年選手とか8年選手とかっていうスタッフが、やっとちょこちょこ出てきているくらいで。だから、辞めた人にとって、「辞めなきゃよかった」という会社にしたいなと思いますね。
関:同じです、うちも大体同じです。
松原:では、あらためて。ブラザーズさんは「何年後に100店」とか、そういう目標はお持ちでない?
北浦:店舗数がゴールじゃなくて、結局「自分」なんですけど、自分のレベルとか潜在能力とかね、「どこまで行けるのかな」っていうのを毎年、見ている感じです。
例えば、お金のコントロールなんか全然違うじゃないですか? 最初は2,000万円くらい借りて、次に億単位のお金を借りるとなったら、2,000万円とは違うレベルのゲームをすることになるんで、ビビりますよね? でも、それを乗り越えると、今度は何十億のゲームに挑戦できるようになるとか。そういう風に段階を踏みながら、それと向き合って、自分の「空間」を広げていく。手に入れる力を、ちょっとずつ高めていく感じですかね。
関:すばらしい! じゃあこういうのはどうですか? ブラザーズの次は「シスターズ」……(笑)
北浦:そうそう、それね! ホントによくいわれるんですけど(笑)。「ブリトーもいいな」とか「サンドイッチもいいな」って思った時があるんですよ。ただ、ブラザーズの立ち上げでものすごく苦労したんで、5年くらいして、やっと土台造りができたっていうのもあるから、新しいものを「またゼロから」っていうんではなく、「ひとつのものを育てていく」という選択肢を取ったんです。それをさらによくして、強くして、っていう方が分散しないし、いいかなと。だから、多業態のファンゴーさんはすごいなと思うんですけど、そこはもう、「ひとつを愛する」というかね。もう、そこに自分のエネルギーを注いでいこうと。
――創業した西暦2000年、「ハンバーガーが10品あれば、同じ数だけサンドイッチもメニューにある」というのが、当時の一般的なやり方だったところを、ハンバーガーのみ30数品をズラリと並べて”特化”することで、今日のハンバーガー専門店のスタイルを確立した。そんな、ハンバーガーひと筋のブラザーズのお話。では、逆に、幅広くブランドを展開しているファンゴーはどう考えているのだろうか……。
チェーン展開の話――FUNGOの場合
関:ブランドが違うのは、これはもう、ただ単に「子だくさん」と呼んでいて、だから僕は「ビッグダディ」みたいな感じで、ただ大変なだけなんです。トラブルしか起きないんです。それはもう子だくさんですから。
北浦:本当にゼロからやるって、すごいことだと思いますよ。
関:まぁ「何でも来い!」っていってますけどね。でも、人間どこかに限界はありますから。
で、ファンゴーはいま24年目に入りましたけど、いままでもいっぱい出店だとか、いろんなチャンスはあったんです。が、「なぜできなかったのかな?」って、いま冷静に考えると、ひとつは、ウチの歴代店長は全員独立していて、店長じゃなくても独立して辞めていくスタッフがいて、だから、なかなか「文化」を引き継ぐ、つなげていくということが難しくて。
関:もうひとつは「スタイル」というのがあって――。その店があることで、「新しいライフスタイル」を創り出すということなんですけども。
僕がファンゴーを始めたのは、米国へ留学していた6年間、「今日はパストラミだ」「BLTだ」って毎日のようにサンドイッチを食べていて、帰国後、そういう向こうの食べ物がすごく恋しくなったんですね。それで、どこか都内でハンバーガーを食べようと思ったら、「う~ん……これかよ」っていう味だったというところから、「じゃあ自分でやっちゃえ!」と思ったのが、ファンゴーというサンドイッチ屋の始まりなんです。
関:あとは、店の「世界観」ですね。店づくりの「コンセプト」のことですけれども、例えば、店にワンちゃんを連れて来られる、ゆったりできるような場所であったり、店の前にすごいクルマで乗りつけて、「湘南へドライブしよう」「じゃあハンバーガーでも買って行こうか」って大人がデートに使ってくれるような場所であったり、あるいは、公園が目の前にあって、テイクアウトして食べられたり……。
それらを詰め込んだ店が「ファンゴー」なので、すると、そういう立地もほかになかなかないし、ビルだらけの中だと、ちょっとね……というところで、2号店、3号店ってなかなかできないんですよ。出店するだけならできると思います。できるけど、23年やって、なかなかそこまではいけなかったので、やっぱり難しいかな。
――「ライフスタイル」、そして「世界観」。立地条件の良し悪しだけでなく、そうしたさまざまな要素が深く関わりあって、店は成り立っている。だから、「ファンゴー」は2店目をなかなか出店できない。一方で、アップルパイ専門店「グラニースミス アップルパイ&コーヒー」は東京・神奈川・兵庫に現在8店舗と絶好調。この秋、マクドナルドの「McCafe by Barista」とのコラボ商品も発売された。まさに快進撃だ。
フランチャイズ展開の話――FRESHNESS BURGERの場合
――そんな中、現在全国190店舗を展開するフレッシュネスの船曵社長から、普段あまり聞くことがない「フランチャイズ」(FC)についての、こんな興味深い考察が……。
船曵:ブラザーズさんは、独立志向の人が9割っておっしゃってましたけど、飲食店って独立志向がすごく強いですよね。で、独立する人って、我々の社員とはタイプが全然違っていて、「自分で店の名前を決めたい」「メニューを決めたい」「ユニフォームを決めたい」「オレ流でやりたい」。だから、働いている店の大事なところを“盗んで”、吸収して、でもやっぱり「自分でやりたい」っていう人で。ハンバーガーに限らず、イタリアンでもケーキ屋さんでも、そういう人は多くいらっしゃると思いますが、我々の会社には基本的に、そういう人はあんまり「来ない」んですよ。
タイプが違っていて、フレッシュネスのブランドやチェーンとしての仕組みを使わせて欲しい。いろんな経営システムとか、食材の供給とか、情報システムとか、PRやマーケティングとかも本部が見てくれるし――という考え方で。だから、1人で何でもやりたい人、自分で1から10まで考えるのではなく、こだわりもその分、皆さんの会社の方々に比べると、またちょっと違うタイプなんですね。
船曵:だから、最近いる社員で「僕は将来、自分のハンバーガー屋をやりたい」という人や、「カフェをやりたい」って人は、すごく少ないですね。安定志向が強いです。いい意味でも、悪い意味でも。
松原:実は、フレッシュネスにも人手の問題があると聞きましたが?
船曵:2、3年ぐらい前に、ほかのハンバーガーチェーンのFCオーナーがみんな60代後半ぐらいになられて、「世代交代が……」というのを私も聞いてました。
フレッシュネスが店舗数を広げたのは、15年前、20年前です。そのころ、お金を持って「頑張ろう!」っていってくれた人たちは、当時で30代から40代だったので、FCオーナーの皆さんは大体、いま50代から60代ぐらいなんですよ。さすがに、若いころのような勢いはないので、そこから「もう5店舗出したい」という人は、なかなかいらっしゃらないです。そんな中、いま40代ぐらいかな? 新しいFCオーナーさんが増えてきた状況です。
それには業界の流れもあって、マクドナルドのOBがけっこう多いんですよ。いま、元マクドナルドのFCオーナーさんが増えてきていて、皆さん会社を辞めると、フレッシュネスとか同業界へ行くんですけど、マネジメントの優秀な方々が多いですね。
北浦:「ブラザーズさんはFCやらないんですか? やらせて下さい!」っていわれたことありますけど、やっぱり、全く知らない人にやってもらいたくないな、っていうのはありますよね。さっきのスピリッツの話じゃないですけど。
船曵:FCを希望される方は独特の考え方があって、本当にオリジナリティを出したいオーナーさんとは違って、「自分でゼロからスタートするのはリスクが大きいし、時間もかかる。だから、成功しているビジネスモデルをFCでやりたい」っていう、もう入り口の考え方が違うんですね。
北浦:冒険せずに早く成功したいっていうか、収入を得たい、オーナーになりたいという人には一番、手っ取り早い、いい方法だと思います。
関:「おんぶにだっこ」で全部、うまくいくと思っている人も多くないですか? 逆に怖いですよね。
船曵:FCというやり方にリスクがないということはありません。やはり、サラリーマンではなく経営者ですから、運営が悪ければ赤字になります。ただし、ゼロから独立するよりリスクは小さいと思います。
北浦:本部に何年か勤めてからやるとか、そういうシステムはないんですか?
船曵:基本的には、「外からいきなり」っていうのはないです。FCオーナーさんの店舗からの「のれん分け」はあるし、直営の店長からの社内独立なんかもありますね。
北浦:ココイチの創業者の宗次さん(宗次徳二さん)と仲よくさせてもらってて。ココイチは「夫婦でやる」っていうのがFCオーナーの条件だったんですよね。あれいいなぁと思って。結局やめないじゃないですか? 絆もあるから。ウチも夫婦なんですよ。専務が妻で、僕が社長で、もう十何年やってるんですけど。本当に助かってます。
関:それは「夫婦円満」って意味ですか?
北浦:そういうことですね(笑)。もう24時間、毎日ずっと一緒にいるんで、普通の夫婦の何十倍も生きてるようなね、感じですけど、やっぱりぶつかる時はぶつかりますよ。でも本当にね、夫婦で力合わせたら強いですよ。本当に強いです。
多店舗、多業態、フランチャイズ……。1店舗からスタートした個人店の、その先の展開はさまざまだ。拡げること、大きくすること、人に任せること……。そんな話ばかりをしてきたが、この座談会最大のテーマは、忘れてはいけない、「長く続けること」である。
そこで、本連載の最終回となる次回は、話を最初のテーマに戻し、ハンバーガー店を「長く続けるには何が必要か」を再確認したい。さらに、大事な大事な「お金」の話。ハンバーガーの「価格」について、三者三様の角度から検討してもらったので、最終回もどうぞお楽しみに!