次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた?」という話になることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズい。この連載ではビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』を毎回紹介していく。第28回は「モクテル」。

  • 「モクテル」

    The Mocktail Bar MORIのモクテル

「モクテル」って何?

最近、日本で「モクテル」を提供する店が増えている。モクテルとは、ノンアルコールのカクテルのこと。英語の「mock(偽物)」と「cocktail(カクテル)」を組み合わせた造語だ。

  • The Mocktail Bar MORIの「ノンアルコール モヒート」(Sサイズ430円)。ミントがたっぷり入り、見た目にも爽やか

モクテルはロンドン発祥といわれ、欧米を中心に数年前からブームが拡大。背景には健康志向等による世界的なアルコール離れがあるといわれている。また、単なるソフトドリンクとは違い、カクテルのようにひと手間かけた個性的なおいしさやおしゃれな見た目も人気の理由になっているようだ。

「モクテル」はどこで飲める?

日本でもモクテルは静かなブーム。最近はレストランやバーのドリンクメニューの中に「mocktail」の表記を見かけることも珍しくなくなってきている。

  • 「The Mocktail Bar MORI」は外観もおしゃれ。オーナーの桐山さん

飲める場所もレストランやバーに限らない。2019年9月には大阪・本町にテイクアウト専門のモクテルバー「The Mocktail Bar MORI(ザ・モクテルバー・モリ)」がオープン。北浜のバー「KIRIP TRUMAN」を経営するオーナー兼バーテンダーの桐山透さんが手がけた新しい店だ。

店は昼間しか開いておらず、かつテイクアウト専門。「以前からモクテルバーをやろうという構想はありました。私が経営するもう1つのバーがある北浜は、おしゃれなカフェが増え、今若者でにぎわっているエリア。こだわったモクテルと独創的な外観の店舗は、そうした若い世代の心を必ず掴むと思っていました。結果、ご縁があり、場所は変わりましたが、今後の展開も視野に入れ、まずは1店舗目としてここ本町に店舗をオープンさせました」と桐山さん。

  • 冬季限定の「ノンアルコール ホットモスコミュール」(380円)。すりおろしたショウガに蜂蜜、クローブ、ナツメグ、シナモン、隠し味にアーモンドを入れた温かいモクテル

桐山さん自身がバーテンダーとあって、同店のモクテルはどれも材料や作り方が凝っている。たとえば「ノンアルコール モヒート」には、モヒートの本場キューバでおなじみの品種のミント“イエルバブエナ"を使用。「ノンアルコールジントニック」はオーダーを受けてから10種類ものドライハーブをすり鉢ですり潰し、そこに湯を注いで瞬間抽出するというこだわりようだ。本町はオフィス街ということもあり、客は近隣で働くビジネスパーソンが多く、男女比は半々程度。「お酒が飲めないのでモクテルに興味を持った」という声も聞くそうだ。

こだわりのモクテルが登場する一方で、もっと気軽にモクテルを楽しもうという動きもある。「サイゼリヤ」では2018年からドリンクバーを利用して自分好みのモクテルをつくる「つくって my Mocktail」を提案。オリジナルのモクテルのレシピを店内メニューに掲載し、アレンジ次第でさまざまな楽しみ方ができる点をアピールしている。

  • ドリンクバー(190円※セットドリンクバーの場合)ではポップや具体的なレシピでモクテルを訴求

もともとサイゼリヤでは2018年6月から「Make Your Favorite」というフレーズのもと、その日の気分や体調に合わせて、パスタやピザなど通常メニューに、調味料やサイドメニューをプラスして自分好みの味を楽しんでもらおうという提案をしてきた。「つくって my Mocktail」もその一環だそうだ。

「ドリンクバーでもその日の気分や体調、お食事の内容に合わせて、自分好みのドリンクを楽しんでいただきたいという思いで始めました。ドリンクバーは料理の味を邪魔せずに引き立てられるようなラインナップとし、モクテルの割り材としては炭酸水(無料)やトニックウォーターを用意。今年7月にはジンジャーエールも導入しました。華やかさとスパイシー感をプラスできるので、モクテルの楽しみ方が更に広がりました」とサイゼリヤ商品開発の小山明人さん。

人気のモクテルは「カンターレエール」(ミニッツメイド山ぶどう1:カナダドライジンジャーエール1)や「ブドーニリモーネ」(ミニッツメイドすっきり白ぶどう1:カナダドライトニックウォーター1)など。当初のターゲットは20台女性だったが、若い人から年配の人まで幅広い層が楽しんでいるそうだ。

「モクテル」を飲んでみた

今年3月にオープンしたホテル「ザ ロイヤルパーク キャンバス 銀座8」内のティーサロン「SARYU」でもモクテルを販売している。今回はこちらでモクテルを試してみた。

同店は日本茶をメインにしたティーサロンで、お茶は静岡県藤枝市で栽培から製茶加工まで一貫して行っている日本茶ブランド「TEA NAKAMURA」のものを使用。メニューにはお茶を使ったモクテルやカクテルも並んでいる。今回は3種類のモクテルの中から、一番人気の「ほうじ茶と林檎の燻製モクテル」をオーダーした。

  • 目の前で燻製してくれる演出も楽しい「ほうじ茶と林檎の燻製モクテル」(1,000円)

「ほうじ茶と林檎の燻製モクテル」は、ほうじ茶に数種類のスパイスを漬け込んだ林檎ジュース、蜂蜜をキャラメリゼしたシロップ、ノンアルコールビールを煮詰めてつくるシロップを加えたもの。さまざまなスパイスやハーブが一本に集約されているリキュールをイメージして副材料一つ一つに素材を足して味わいを複雑にし、お酒同士を混ぜ合わせるようなイメージで仕上げたという。

スタッフはまるでカクテルを作っているように軽やかにシェーカーを振って材料を混ぜ合わせると、濾しながらグラスへ注いだ。その後、スモークガン(燻製器)を使って煙をまとわせ、燻製の香りがついたら完成だ。作る過程もエンタメ性が高く、出来上がりまでを見ている時間も楽しめた。これこそソフトドリンクとは違う、モクテルならではの楽しみ方だろう。

早速飲んでみると、林檎と蜂蜜のとろりとした甘さが感じられ、後からほうじ茶の香ばしさが立ち上ってきた。ほのかな燻製香が味わいのアクセントになっており、飲み干すと口の中にやさしい甘さの余韻が残る。なんとも複雑でクセになる味だ。

  • まるでバーのようなティーサロン「SARYU」

店内はカウンターのみの全6席。ホテル内なので静かで落ち着いた雰囲気。小さなカクテルグラスでチビチビ飲んでいると、なんだかお酒を飲んでいるような気分になった。

同店のモクテルメニューの開発担当者に話を聞くと、お茶の中でも日本茶は繊細なので、その良さを感じさせつつも、飲んだ時にモクテルと認識できる味に着地させるのが難しかったという。

同店のモクテルは20~40代くらいの幅広い年齢層に人気があるそうで、とくに女性からの注文が多いそうだ。最近はSNSや口コミをきっかけに来る人もいるとのこと。また海外の人から興味を持たれることも多いという。

さまざまなスタイルで進化しているモクテル。以前は飲めない人とバーへ行くと「ノンアルコールのカクテルはありますか?」と聞く必要があったが、最近は「モクテルありますか?」で通じるから話が早い。現代は飲めない人も飲まない人も増えているから、おいしいモクテルを飲める店も知っておいて損はなさそうだ。

※価格は特記がない限り税込