――4月に「ナルゲキ」(お笑いライブに特化した劇場)がオープンしましたね。劇場を持たない非吉本の芸人さんにとって、拠点ができたことは大きな変化だったのではと思います。お二人にはどんな変化がありましたか?

高木:ライブがめちゃめちゃ増えましたね。

福島:前は月10本いかないくらいだったのが、今は30本くらい。なので、(劇場ができる前の)3倍くらいは舞台に立ってるかもしれないですね。

高木:吉本が(賞レースに)強い一番大きな理由は「持ち劇場がある」ことだって言われてたんです。常に芸人が立てる舞台があって、そこにお客さんが来る。舞台数の違いはけっこう言われることも多いし、僕たちもすごく感じてました。なので、舞台数という面においてちょっとは差を縮められてるのかな。

――お客さんの前でネタをする機会が増えて、自分たちの成長は感じますか?

高木:すごい感じますね。同じネタをやる機会が増えるので、「演じ方を変えよう」とか「なんでウケなかったのか分析しよう」とかもできるようになりました。“1個のネタを育てる”という意味で、舞台数が多いのはすごいありがたいですね。

福島:でも、その反面ちょっとダレることもあって。同じネタを昨日も今日もやってると、(お客さんが同じということも多いので)サービス精神でアドリブを入れちゃったりするんですよ。そういう(アドリブの)力は付いてるかもしれませんけど、しっかりネタをするのが恥ずかしくなるというか……

――恥ずかしい?

福島:同じ人の前でも同じネタをやり続ける、という域にはまだ達してないなと。同じネタを同じようにやるというのも漫才師の良い側面だと思うので、それができるようになれたらと思ってます。

――舞台数が増えただけでなく、「ナルゲキ」のエースを決めるバトルライブで2度優勝して結果を残していますよね。

高木:一応"新劇場のエース"という立場をやらせてもらってるので、「俺たちが滑っちゃダメだ」「ウケなきゃいけない」って気持ちが多少あると思います。(エースになって)意識が変わった部分はありますね。

――事前にいただいた一問一答で、2021年の目標を「M-1を倒します(高木)」、「M-1グランプリ優勝(福島)」と回答いただいていました。お二人ともかなり『M-1』を意識していると思いますが、芸人活動の中で『M-1』はどんな立ち位置にあるものなんでしょうか?

高木:僕たち的には、唯一の突破口ですね。7年半やってきて、「もしかしたら」って思えたのが『M-1』しか無くて。なので「ここを行くしか生きる術は無いぞ」くらいの位置づけで考えてます。

福島:『M-1』で優勝するのが一番嬉しいと思います。「子どもの頃から観てた『M-1』で自分が優勝する」ことが、僕の人生に1番与えたいものですね。

――『M-1』を本格的に意識し始めたのは、芸人を始めてからどのくらいのタイミングだったんですか?

福島:2015年、芸歴2年目で3回戦に進んだときですね。ちょっとずつ、同期とか周りがテレビに引っかかり始めるころだったんですけど、僕らにはなにも無くて。そんな中『M-1』でちょっと抜きん出ることができて。当時の3回戦なんて先輩しかいなかったんで「僕らにはM-1が向いてるのかな」って錯覚しました。

高木:錯覚かどうかはまだ分かんない(笑)。僕は2017年ですね。初めての準々決勝だったので「行けてラッキー」ぐらいの感じで、よく分かってなくて。なんとなく強いネタをやったら、1,000人くらいのお客さんの前で信じられないくらい滑ったんですよ。悲しい、悔しい、恥ずかしいとか、そういう感情全部で最大値をたたき出したみたいな……無茶苦茶辛くて。で、逆に腹立つというか「M-1これで終わるのは嫌だ、ウケたい」って気持ちになって。翌日に「M-1頑張ろう」って話し合いをしましたね。

福島:しましたね~。

高木:それが、自分の中で『M-1』の位置づけがかなり変わった瞬間でした。

ウエストランドの成功体験を生で見た

――高木さんは、アルコ&ピースの酒井さん(「キングオブコント2013」)やウエストランドの井口さん(「M-1グランプリ2020」)などファイナリスト経験のある先輩にお世話になっているそうですね。お笑いや、賞レースに関する話はしますか?

高木:酒井さんは全く無いです(笑)。ただ、そんな酒井さんでも去年の2回戦を動画で観てLINEで「むちゃくちゃウケてんじゃん」って連絡をくれて。それがすごい嬉しくて、決勝に行けたら報告したいって思いますね。逆に井口さんとはお笑いの話をすごいするんです。去年ウエストランドさんと定期的に新ネタライブをしてたんですけど、そのときにできたネタで決勝に行ったんですよ。珍しく「今日のネタ準決勝でやるかもしれないから観て」って言われて、袖から観たらめっちゃウケてて。「マジで決勝行くかも」って思ったら本当に行ったので“成功体験を生で見た”というか。「このくらいの仕上がり方・ウケ方」が必要なんだっていうのを側で見れたんですよね。それは、自分の中でけっこうでかかったですね。

――やっぱり、普段から一緒に舞台に立ってる人が決勝に行くと気持ちも変わりますよね。

福島:そうですね。本当に身近なところで言うと、(『M-1』2020で決勝に進んだ)東京ホテイソンですね。外でビラ配りしてお客さんを呼ぶようなライブから一緒にやってたんで。東京ホテイソンは数年前から抜きん出てたので「やっと行ったか」という感覚もあるんですけど、「こうしちゃいられない、そろそろ僕らも行かないとヤバい」って焦りが増えましたね。

――福島さんは、同じ太田プロの上島竜兵さんに可愛がっていただいてるそうですね。賞レースに向けてなにか言われることはあるんですか?

福島:細かなアドバイスとかは無いですけど、「M-1大事だぞ」とはけっこう言われます。上島さん程の方だと『M-1』は身近に感じてないかと思いきや、会うたびに「M-1行けよ」って必ず言ってくれますね。あとコロナ禍前、僕らが新ネタライブをやったときに来てくださったんですよ。80人くらいしか入らない小さな会場で、狭いところでパイプ椅子に座って。そのときも「あのネタは良かった」とか「あのネタ、最初は良かったけど、後半ついていけなくなっちゃったな」とか細かいことを言ってくださったり。けっこうお笑いの話はしますね。

――コロナ禍になってからは、上島さんと頻繁にZoom会をしているそうですね。

福島:そうなんですよ。週1はマストで、3日連続やることもあったりして。

――なにを話すんですか?

高木:僕も思ってます、それ(笑)。

福島:時事的な話とか、「俺が若いときは」っていう昔話とか……あと大喜利大会。

――1対1の?

福島:1対1でもやります。「福島お題出せ」って言われて、出したら0秒で手を挙げて答えるという。速さで競ってます。

――誰もジャッジする人がいないですね(笑)。

福島:いないです。大会じゃないか(笑)。

――Zoom会は何時間くらいやるんですか?

福島:うーん、6時間くらいですね。

高木:長いって(笑)。

ファミレスを「高い」と思い続けたい

――今後仕事が増えて忙しくなっても、変えたくないことってありますか?

高木:ネタはやり続けると思います。「漫才で世に出たい」と思ってるんで続けていきたいし、もし(忙しくて)できなくなったら焦るんだろうなと。ネタをやり続けたい気持ちはありますね。

福島:あと、ファミレスを「安い」って言わないようにしたいです。売れてお給料が増えたら「ファミレスは安いところ」ってなると思うんですけど、どんなに売れても「ファミレスは高い」って思い続けたいです。今の気持ちを忘れたくない。

――ネタ作りや打合せをファミレスでやってるんですか?

福島:そうですね、そのときによく「やっぱり高いな」って話します。

高木:確認というか、メニューを広げて「まだたけーな、まだ売れてないな」と。でも、売れても「高い」って思う感覚を忘れたくない。

――それは、下積み時代の感覚を売れてからも忘れないということですか?

高木:そうですね。

福島:あとネタ作りとかだけじゃなく、相方と出会ったときからそういう感覚なんですよ。高校から、ファミレス行ってもポテトとドリンクバーだけで粘るみたいなことをやってるので。ファミレスを「安い」って思うのは、相方を裏切ってしまうような感覚もあるかもしれない。

高木:売れたとしても、いつまでも"売れたぶる"のはやめようと。

福島:高校から相方と一緒に持ってる感覚なので、忘れたくないなと思います。


連載「お笑い下克上2021」次回はカナメストーンが登場します。