『美女と野獣』『SING/SING』など世界的にもミュージカル映画がヒットし、テレビ番組で名作ミュージカルの歌が歌われる機会が増え、先日第四十二回菊田一夫演劇賞を受賞した俳優・中川晃教も「沢山の方々に求めていただく時代に入ってきたと感じている」と実感を語った。

日本のミュージカル界の第一人者であり、『グレート・ギャツビー』という大作を控えた演出家・小池修一郎。「日本でのミュージカルというのはもう一声、もうちょっとだけ人材が豊富になってくれたら」と語る小池は、今後の盛り上がりについてどのように考えているのだろうか。

『グレート・ギャツビー』

魅力的な人たちが演じてこそ

――第1回で「もう一声、俳優がそろえば日本のミュージカル界も盛り上がるのではないか」というお話でしたが……。

「ミュージカル」と言うと引いちゃう人もいるから、残念なところなんですよね。魅力的な人たちが演じてこそ、お客様が「観たい」と思うわけだから、皆さんが観てみたいと思う方たちが、もっとミュージカルをやってくれるといいなと思います。

たとえば『ロミオ&ジュリエット』でジュリエット役を演じた、生田絵梨花さん(乃木坂46)は、歌もお芝居もとてもいい。世界に2人といない天才、とまでは言いませんが(笑)、今後も非常に伸びていくと思いますよ。

宝塚でもいつも思うんですけど、歌えて踊れて演技もできて、見た目も魅力的なんて、神様は全てを与えてはくれない(笑)。海外でも、そうですものね。いくつかの要素を兼ね備えている魅力的な人にもっと出演してほしいですね。

ダンスパフォーマーが活躍することも

――大作ミュージカルとなると歌重視のイメージがありますが、小池先生の演出はダンスも盛り上がっている印象があります。

今、フランスの方の作品ではダンスが重要というのが理由ですね。歌に関しては「ミュージカルは歌なのか芝居なのか」と散々議論もされていました。ただこれは、作品のタイプによって違うものだと思います。作曲家がイニシアティブを持っていれば当然歌い手が重視されますし、演出家が中心の場合は必ずしもそうではないかもしれない。

――歌って踊ってというと、最近だとミュージカル『テニスの王子様』経験者の方たちが多く出演されていて、若い人たちが気軽に舞台を観に行っているのかなという印象もあります。

2.5次元ミュージカル、最初は戸惑いましたが、だんだん「世界に認められるのはこれしかないかもしれない」という空気になってきましたよね。海外から見た日本は漫画とアニメの国になっていて、マニアックな人だけではなく、幅広い層からすごく尊敬されています。海外の方たちも、子供の頃から日本のアニメを観ているんですよ。

もっともっと、2.5次元ミュージカルで歌や踊りをバンバン鍛えた人たちが来てくれたらいいなとは思います。と、同時に、パフォーマーとして日常的なリアリズム、リアリティが埋まってないと、という課題もあります。これは翻訳ものの専門の訓練を受けた人たちにも言えることで、外人になりきって踊ることと、現代の日本で自分たちの表現としてダンスをやった人の違いは存在しますから。私はもちろん外人へのなりきりも求めるんですけど、やはり地に足のついた形で演じてほしいと思っています。

ちなみに『1789』では、ミュージカル『テニスの王子様』経験者が3~4人いたので、「どんな技だったのか見せてくれ」と言ったら、それぞれ自分がやっていた動きをやってくれて、かっこよかったですよ。若いときに、相当練習したんでしょうね。テニスコートの誓いのシーンで、やってもらおうかと思ったくらいです(笑)。

――パフォーマーとしてのリアリズムを重視すると、今後はダンサーの方が演劇界、ミュージカル界で活躍するということもありそうですか。

今のストリート系の踊りもコンテンポラリーもすごくレベルが高いんです。だから、これを生かさない手はありません。今後も出てきますよ、絶対。

先日観に行った舞台では、花魁がヒップホップを踊っていて驚いたんですが、そういう演出と、海外から見た"アニメ"や"原宿"って、どこか結びつくと思うし、人を惹きつけている。今の日本の子達が考えて出てくるということは、私たちが与えた文化から生まれているんですよね。時代の嗅覚が求めるところには、すごいエネルギーがあるのだと思いますよ。

ミュージカル『グレート・ギャツビー』情報

作家志望のニック(田代万里生)がニューヨークで居を構えたのは、毎夜のように豪華絢爛なパーティーを開く謎の大富豪ジェイ・ギャツビー(井上芳雄)の豪邸の隣。ニックはある夜、ひとり佇み湾の向こう岸の灯りを見つめるギャツビーの姿を目にする。そこにあるのはニックのいとこデイジー(夢咲ねね)とその夫トム(広瀬友祐)の邸宅。ニックは、ギャツビーに興味を抱き始める。

東京公演:日生劇場 5月8日~29日
愛知公演:中日劇場 6月3日~15日
大阪公演:梅田芸術劇場メインホール 7月4日~16日
福岡公演:博多座 7月20日~25日