私の外貨投資の中で、FXを知ったことは自分にとってもエポックメイキングだと思っている。投資をもっと積極的に考えるようになり、その結果損失というものを大きく意識するようになったからだ。

今では、一人前(?) のような顔をしてFXをやっているが、FXを始めて間もない頃は、100万円の証拠金を入れて、ドル円を120円で10万ドル買いを持った時に一体レバレッジ (この場合は12倍) がどれくらいになるのかなんてなんて考えてみようとも思わず、ましてやどこまで下がればマージンコールが発生する (この場合は115円) のか、などとは夢にも考えなかった。その後ドル円は2005年に101円台まで下がったので、その間に何度追加証拠金を入れたことか……。ストップロスやロスカットなんて全くアウトオブ眼中。

結局その後101円を底に買値より少し上まで戻ったので利確し、かつ50万円ほどのスワップはもらえたが、この耐えに耐えた1年半ほどの日々はいくらスワップをもらおうとも割に合わないと悟ったのであった。そしてこの原体験がその後のFXを続け(ていけ)るベースになっている。

評価損も含めた損失を経験してからようやく初めて真の意味での、レバレッジ、マージンコール、ストップロス、などの重要なFX用語を理解し、そしてリスク管理を考えるようなった。FXは2003年から私の外貨ポートフォリオの中に入っているが、他の外貨建て商品とは全く違った位置付けをしている。というのも、私のポートフォリオにおけるほとんどの商品が1年以上の長期運用であるのに対し、FXは短期で運用しているからだ。元々FXは為替を機動的かつ頻繁にトレーディングをしたかったから始めたので、スワップはおまけぐらいに考えて為替差益をメインにトレードをしている。

リスク管理、FXを行う上で行わなくてはいけないことだが、その前に、行うことは「損失を意識する」ということ。「損失」- 聞いた感じネガティブですか?でも、利益はポジティブ志向だけど損失はネガティブ志向で考えよう。投資ではどうしても儲けるという気持ちが先に立ってしまう。最初から損するためにFXをやろうという人なんているはずはないけれど、損を意識して小さな損失で済むようにし、余力(資金)を残すようにしておけば、チャンスは必ず巡って来る。

大きな損失(評価損も含めて)をしてしまうと、何よりも気持ちが萎縮してしまい、絶好のタイミングが来たときにそれを逃してしまう傾向になりがちだ。事実私は前述の取引が塩漬けになっている間、ほとんど新規のポジションが取れなかった経験をしている。相場を当てるためにはテクニックが必要になってくるが、それ以前に、リスク管理(資金管理)をする上で、損失を意識することを念頭に置けば、FXを長く続けていけるのではないかと思う。

私は損失=自分の許容量だと思っている。自分がどれくらいの損失だったら受け入れられるか。最初にレバレッジを何倍にするのではなく、まずいくらまでだったら損失を許容できるかということを念頭に置いて自分サイズの取引金額を考えてみる。自分サイズの取引金額を導き出す方法として、レバレッジを掛けられた取引金額(円換算して100万円なのか1,000万円なのか1億円なのかなど)をあえて実際の金額として違和感無く使えるかどうか目安にしてみることをお勧めしたい。例えば、自分は一回のトレードで1万円の損失だったら許容できるけど、10万円は絶対嫌だな~、それに100万円だったら自然体で使えるぞ、と思ったら、取引金額を1万ドルにする。(下図参照)

損失の許容量は人それぞれ、1000円でも大きな損失と思う人と100万円でも大したことないと思う人がいるわけである。日常生活レベルを尺度にして損失許容範囲を考えてみても良いかもしれない。1万円だったら飲みに行って使ったと思えば良い、とか3万円だったら友達にご馳走したと思えば良いとか。そう思えば、損切りもできやすい。それにこれくらいだったら次のチャンスでリカバー不能な金額ではないと思う。

また、よく「何倍のレバレッジでやればよいのですか」という質問があるが、レバレッジもこのシンプルな考え方によって他の誰のでもなくて自分にとっての適切なものを導き出すことができる。短期のトレードのレバレッジは高めでも良い、長期のトレードのレバレッジは低めと言われるのはいわゆる一般的なこと。私は短期だけれど、大体3~5倍程度にしている。そこに落ち着いたのは自分自身の失敗経験から取引金額が10万ドルではなく1万ドルが自分サイズと気付いたからである。

損失が自分の許容範囲を超えたレベルに到達してしまうと、心理的に損切りができにくくなり、そしてそれ以降も正常な判断ができにくくなくなってしまうのが普通の人間である。FXをやっていくうえで損失を出すのは避けられない事実。だからこそできるだけ早く自分が耐えられる損失の範囲、つまり許容量を把握することが重要になってくるのではないかと思う。

執筆者紹介 : 香澄ケイト氏

主な略歴 : 為替ジャーナリスト
米国カリフォルニア州の大学に留学後、バヌアツ、バーレーン、ロンドンでの仕事を経て、帰国。外資系証券会社で日本株 / アジア株の金融法人向け営業、英国系投資顧問会社でオルタナティブ投資の金融法人向けマーケティングに従事する。退職後、株の世界から一転してFXに関する活動を開始し、為替情報サイト、マネー雑誌などの執筆、ラジオ番組への出演およびセミナー等の講師を努める。著書に『あなたのお金を10倍にする外貨投資術』(フォレスト出版)、『今すぐ始めるFX5人の投資家が明かす勝利のルール』(すばる舎)がある。