16日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、FRBがFFレートの引き下げを行った。これまで年1%だった誘導目標を、0.25~0.5%に引き下げるというものだ。「だからどうした」と、多くの日本人なら、恐らくそういう反応を示すだろうと思うが、FXをやっている個人投資家にとっては、決して無関心ではいられないはずだ。

米国金利が急低下するということは、それだけ日米の金利差が縮小するか、もしくは逆転することを意味する。結果、米ドルのロングポジションを持っていても、スワップポイントが付くどころか、逆にスワップポイントが差し引かれることになる。

FX会社によって状況は異なるが、12月17日時点で、米ドルのスワップポイントが「買い」でマイナスになったところもある。たとえば外為どっとコムの場合、買いのスワップポイントがマイナス15円になった。1万米ドルの買いポジションを持った場合、1日あたり15円が証拠金から差し引かれていく。

もちろん、スワップポイントは日々変動しているので、あくまでも概算値に過ぎないが、1日でマイナス15円ということは、1年(=365日)で5,475円のマイナスになる。1万米ドルの取引をするのに必要な証拠金が10万円として、それを投資元本に見立てれば、年率5.475%のマイナスになる。1米ドル=90円だとすると、1万米ドルは90万円。つまり9倍のレバレッジがかかっているため、これだけのマイナス利回りになってしまうのだ。

少なくとも、米ドルについてはスワップポイント狙いで長期保有するわけにはいかなくなった。米ドルだけならまだしも、今回の景気減速は世界的に波及しているため、いずれユーロや英ポンド、豪ドル、NZドルなどについても、金利低下が進む可能性がある。特に豪ドルやNZドルは、スワップポイント狙いのロングポジションを取っている投資家が多いだけに、金利低下によって投資戦略の大幅な見直しが必要になってくる。

FXは、外貨預金や外国債券などと違って、簡単に外貨のショートポジションを作ることができる。しかし、多くの個人投資家は外貨のショートポジションを組むことはなく、特にこの数年間は、もっぱらロングポジションによってスワップポイントを獲得するという戦略で来ていた。その前提が崩れようとしている。

結論としては、ショートポジションに対するアレルギーを無くしていく必要があるということだ。株式とは違い、為替は売りも買いも関係ない。円を売った裏に外貨の買いがあるのと同じように、外貨を売った裏には必ず円をはじめとして、いずれかの通貨の買いがある。円を買おうが、外貨を買おうが、通貨を買うという経済行為は同じであり、株式投資における売り買いとは事情が異なる。

それとともに今後、米ドル以外の通貨については、金利差の逆転には至らなかったとしても、金利差は確実に縮小していく。スワップポイントはあまり期待できないことになる。そうなれば、売買益を確保しない限り、FXでは利益が得られない。それでも中長期スタンスでの投資にこだわるのであれば、外貨のショートポジションに対するアレルギーを無くして、柔軟にトレンドを捉えていくスタンスが必要だ。

執筆者紹介 : 鈴木雅光氏(JOYnt代表)

主な略歴 : 1989年4月 大学卒業後、岡三証券株式会社入社。支店営業を担当。 1991年4月 同社を退社し、公社債新聞社入社。投資信託、株式、転換社債、起債関係の取材に従事。 1992年6月 同社を退社し、金融データシステム入社。投資信託のデータベースを活用した雑誌への寄稿、単行本執筆、テレビ解説を中心に活動。2004年9月 同社を退社し、JOYntを設立。雑誌への寄稿や単行本執筆のほか、各種プロデュース業を展開。