月経痛や更年期障害といった女性特有の健康課題。男性に理解されづらいだけでなく、症状の個人差が大きいため、女性のあいだでも十分に認知されているとはいえません。

また、女性の健康は個人の問題とされがちですが、日本国内では月経に伴う不調によって4,911億円の労働損失が生まれているという報告(※1)があるように、もはや社会問題ともいえる状況になっています。

このような背景から、法人向けの女性ヘルスケアサービス「FEMCLE」を展開するのが、オンライン健康支援事業を手掛けるベンチャー企業・リンケージです。今回は、FEMCLEのサービス内容や狙い、そして企業が女性の健康と向き合う重要性について、同社取締役COO・CSO 夏目萌さんに聞きました。

  • リンケージが運営する、法人向けの女性ヘルスケアサービス「FEMCLE」について同社取締役COO CSO夏目萌氏に聞いた

■女性特有の健康課題を抱える人は想像以上に多い

月経痛などを「痛くて当たり前」と思っている女性も少なくないはずです。FEMCLEは、そうした女性自身も気づいていない健康課題に対して自覚を促し、企業やそこで働く従業員に適した解決策を提案するBtoBサービスです。

  • 公式サイトより

FEMCLE導入企業の女性従業員は、オンラインでの問診によって、月経周期、月経痛、過多月経、月経前症候群、更年期障害といった5つの項目に対し、A~Eの5段階評価で自身の健康状態を知ることができます。こうして気づきを得た後は、FEMCLEが提携する医療機関の紹介を受けたり、専門医へのチャット相談を行ったりすることが可能となっています。

また、個人情報の秘匿性は保ちつつ従業員の問診結果について、企業側は組織全体のパフォーマンスを診断したレポートとして確認することもできます。レポートでは、従業員の生産性に大きく影響を与える上記5つの項目結果をふまえ、医療経済学者と日本子宮内膜症啓発会議(JECIE)監修の算出方法に基づいた労働損失状況が分析されています。

この結果を受けて企業は、組織文化の醸成や意識向上、制度改革などにつなげていくことができます。FEMCLEでは、メールマガジンや動画コンテンツで学ぶ機会を提供しているほか、セミナーや訪問医療相談の実施(オプションプラン)など、課題解決に向けた取り組みのサポートも行っています。

「自分で思っていたより症状が重かったなど、自覚とは異なる結果になって驚く利用者の方も多いようです。利用者の有症状率が約8割と、企業としても想定以上の数字になるケースもありますね」(夏目さん)

  • リンケージ 取締役COO CSO夏目萌氏

■月経に伴う不調への理解が後れる日本

FEMCLEは2019年、リンケージ代表の生駒恭明さんが抱えていた問題意識をもとに立ち上げられました。生駒さんは、医療系ベンチャーの経営や事業再生を手掛けた後、米国ニューヨークへ留学。日本へ帰国した際、女性の活躍状況が米国と比べ、大きく後れていることに疑問を抱いたといいます。

生駒さんいわく、日本において女性活躍が進まない理由の1つに、ピル(低用量経口避妊薬)普及の後れがあるといいます。米国ではピルの普及と女性の社会進出に時代的相関があり、出産をコントロールしやすくなったことで社会進出が進んだのではと考えています。一方、日本でピルが承認を受けたのは1999年。米国で初めてピルが認可されてから約40年のこと。世界的に見ても大幅な後れをとっており、そのぶん普及も進んでいないのが日本の現状です。

ピルは避妊だけでなく、月経不順・月経痛の改善を目的に利用される場合があります。現代の女性は、妊娠・出産の回数が少ないために生涯の月経回数が多く、月経にまつわるトラブルが増加傾向に。特に月経困難症や子宮内膜症の治療にはピルが有効といわれていますが、その普及率を見ると、10~30%程度の欧米諸国に対し、日本ではわずか3%ほど。

また教育や健康診断などで女性自身が症状について自覚する機会・環境も不足しており、月経に伴う不調に苦しみ続け、活躍の機会を逃している女性はいまだに多くいるとのことです。

こうした状況に手を打つ必要があると考え、開発されたのがFEMCLEでした。夏目さんは、同サービスの意義について「FEMCLEは女性特有の健康課題を扱うサービスですが、これらの課題を自助努力だけで対処することには限界があります。男女問わず企業や社会が支えるべきものなのです」と語ります。

■「FEMCLEが必要とされなくなる」世界を目指して

「生産年齢人口が減少する日本において、労働力を確保しなければならないことは明らかです。その解決策としても、企業が女性の健康課題に取り組むことは有効だと考えています」と夏目さん。離職や昇進辞退を考えたり、パフォーマンスが低下したりする女性従業員を減らすことは、企業にとってのメリットも大きいと説明します。

しかしながら、女性の健康問題に取り組む企業はまだ多くないのが現状です。女性自身の自覚だけでなく、男性や企業側の理解も不足しているといえるでしょう。

「就労世代の健康課題は、男女で違います。男性は、肥満や生活習慣病といった健康課題を抱える一方、女性は月経トラブルや更年期障害、不妊・妊娠・出産といった、女性ホルモン由来の疾患やイベントが多いです。この事実を知ったうえで、キャリアや人事施策などを考えていく必要があります」(夏目さん)

夏目さんは最後に「FEMCLEを通じて、男女の差なく仕事のパフォーマンスが上げられるようにしていきたい。そして、FEMCLEが必要とされなくなるくらい、女性特有の健康課題が理解され、当たり前に取り組んでいける社会にしていきたいです」と力強く語ってくれました。

女性が働きやすい職場をつくっていくことは、性別やライフステージを問わずすべての従業員の働きやすい職場づくりにつながるはず。誰もが健康でいきいきと働ける世の中になるよう、FEMCLEの挑戦はこれからも続きます。

※1 参照:経済産業省「健康経営における女性の健康の取り組みについて」(平成31年)