筆者は今年4月、ロシアのモスクワとサンクトペテルブルクを訪れた。昨年12月にシベリア鉄道(ウラジオストク~モスクワ間)の完乗を達成したが、今回はヨーロッパ・ロシアを代表する列車を紹介したい。1回目はロシアの2大都市、モスクワとサンクトペテルブルクを結ぶ高速列車「サプサン号」を取り上げる。
モスクワは名実ともにロシアの政治と経済の中心地。かつては社会主義陣営の「首都」として、世界に存在感を示してきた。
一方、サンクトペテルブルクには世界3大美術館のひとつ、エルミタージュ美術館があり、世界を代表する文化都市だ。昔からヨーロッパへの玄関口としても知られている。
モスクワ~サンクトペテルブルク間の高速列車は旧ソ連時代から力が入れられ、現在はドイツ・シーメンス社製の「サプサン(はやぶさ)号」が活躍している。同列車は2009年にデビューし、モスクワ~サンクトペテルブルク間約650kmを約3時間40分で結ぶ。2019年4月現在、列車本数は1日上下28便が設定されている。
■きめ細かな「サプサン号」の座席予約システム
停車駅は東海道・山陽新幹線「ひかり」のように、列車ごとに停車駅が異なる。モスクワ・レニングラード駅(モスクワ・レニングラーツキー駅)5時45分発の便はノンストップだが、平均すると停車駅は2~3駅といったところだ。
「サプサン号」に限らず、ロシアの長距離列車はロシア国鉄のホームページを通じて座席を予約できる。同列車は3クラス制だが、料金システムは細かい。たとえば日本の普通車にあたるエコノミークラスであっても、前向き座席・逆向き座席、ペット同伴座席やエコノミープラスで料金が異なる。一見すると難しそうに思えるが、ホームページ上ではイラスト入りで説明されているので購入しやすい。
筆者は今回、エコノミークラス、テーブル付きの前向き座席を選んだ。運賃は3,054ルーブル(約5,000円)だった。
9時18分発のサンクトペテルブルク・モスコフスキー行「サプサン号」に乗車するため、モスクワ・クールスキー駅へと向かった。筆者が乗車した便だけ、ロシア第4の都市であるニジニ・ノヴゴロドを始発としている。その他の「サプサン号」はモスクワ・レニングラード駅を始発としてサンクトペテルブルクに向かう。
モスクワ・クールスキー駅構内に入ったが、「サプサン号」の発車ホームがなかなか見つからない。駅員に聞くと、「専用ホームから発車する」とのこと。専用ホームの前に空港と同様のセキュリティチェックを受ける。主要駅の入口にもセキュリティチェックはあるが、専用ホーム前のセキュリティチェックはより厳しいものであった。
車内は日本であまり見られなくなった「集団見合い式」の座席配置となっており、前向き座席と逆向き座席が入り混じっている。車端にはスーツケースが置ける荷物棚、中央部にはコート掛けが設置されているため、荷物を置く場所には困らない。
座席はエコノミークラスだが、体格の良いロシア人向けに作られているせいか、サイズが大きく、ゆとりがある。筆者の座った席は向かい合わせになってあり、中央に大きなテーブルがあった。車内は満席で、幅広い世代に利用されている印象を持った。
9時18分、「サプサン号」はモスクワ・クールスキー駅を静かに発車した。発車後しばらく徐行運転を続けていたが、9時40分頃には200km/hを超えていた。「サプサン号」の設計最高速度は300km/hを超えるが、営業最高速度は時速250km/hにとどまるという。それでもモスクワ~サンクトペテルブルク間は直線区間が多いため、実際の数値以上に速さを感じさせる。路盤も安定しており、乗り心地は良好だ。
「サプサン号」はスピードだけでなく、Wi-Fiサービスを利用した車内販売やビストロなどソフト面のサービスも見逃せない。車内ではWi-Fiサービスを無料で使うことができ、ロシア国鉄のホームページから車内販売の商品を注文できる。
筆者はホームページから同列車の写真が入ったチョコレートを注文した。1分も経たないうちにスタッフが来て、商品を届けて……と思いきや、残念ながら売切れ。代わりのチョコレートを勧められ、カード決済で購入した。
昼食の時間になったので、中央部にあるビストロを覗いてみた。車内には他の長距離列車と同様、食堂車とビストロがある。ビストロはカウンター式になっており、2つの簡易テーブルが設置されている。メニューはチョコレートから本格的な肉料理まで、じつにさまざまだ。
筆者はロシアのクレープといえる肉入りのブリヌイと紅茶を注文した。温かいブリヌイはおいしいが、簡易テーブルが2つしかないため、落ち着かない。ゆっくり食べたい人は食堂車をおすすめする。
モスクワ・クールスキー駅を発車して約4時間後の13時20分、サンクトペテルブルク・モスコフスキー駅に到着した。同駅はサンクトペテルブルクの目抜き通りにあたるネフスキー通り沿いにあり、地下鉄とも接続する。