新型コロナ禍により、テレワークという働き方が広く定着して早半年。新しい働き方とは、すなわち社内コミュニケーションの新しい形であるとも言えます。毎日会う事を前提に成り立っていた仕事が、会わない前提の働き方に急変した結果、社内コミュニケーション、特に後輩との関係構築に、今迄以上に難しさを感じているのではないでしょうか?

後輩のモチベーションアップのコツについてご紹介をしてきたこの連載も最終回。withコロナの今も、そしてやがてくるアフターコロナの時代にも使える、共感力コミュニケーションスキルを駆使して、先輩も後輩もごきげんに仕事を続けられる日々を重ねていきましょう。

  • 後輩のモチベーションを上げるには?

    後輩のモチベーションを上げるには?

モチベーションアップの仕上げには「インパクトある視点」を!

モチベーションをアップするには、地図、すなわちヴィジョンと、辞書、すなわち言葉の表現力が必要であることを前回までにご紹介しました。

最後に必要なのは、「眼鏡」です。眼鏡とは、すなわち「視点」。物事をどんなレンズを通して見るかによって、仕事のモチベーションは大きく変わります。後輩と自分の目の前に見える景色(現実)について、後輩が持っていない視点、物事の見方を見せてあげる事で、一気にモチベーションをあげる事ができます。

後輩が「思ってもいなかった」「考えもみなかった」「全く知らなかった」ことを示す事で、本人の心が軽くなり、新たなやる気が出て仕事への取り組み方が変わるなど、大きな変化が起きるのです。この眼鏡の威力は大きく、3つのS(Shounin、Shousan、Shourei)を同時に伝えられることさえあります。

インパクトのある「眼鏡発言」はこうして作る

例えば、「後輩と一緒に進めるプロジェクト」の企画プレゼンでまさかの敗北、になったとします。資料作成を担当した後輩は当然落ち込むでしょうし、自分を責めるかもしれません。そんな時、「そういうこともあるよ」や「また次がんばればいいよ」というなぐさめは、あまり役に立ちません。

これだとプレゼンの敗北にフォーカスしているので、後輩は「敗北した」ことをさらに意識してしまい、なかなかそこから抜け出せなくなるからです。こういう時こそ、眼鏡を取り出し、別の視点を探します。

「それにしても、今回の資料、何ページあった? 卒論より長かったんじゃないの? こんなに短時間で、これだけ大量の資料を作るなんて、できないよね。プレゼンに負けたのは、資料が原因ではなく企画内容だったと思うし、その意味では、今回の経験で君の資料作成のレベルは上がったね。これはすごい成果だよ。今後は誰もが安心して資料作りを任せられる実績を作れた。それだけでも、価値のあるプロジェクトだったよ」というように、プレゼンに負けた事以外の部分に視点を持っていく事で、後輩は自分の心の整理がつき、次に進んでいけます。

まさに、承認、称賛、奨励の3つを同時に伝えられた例ですね。

眼鏡と他責は違う

眼鏡とはすなわち視点ですが、ちょっと注意したいのが、他責との区別。眼鏡をかけるのはポジティブに前向きになる視点を持つためで、他者に責任をなすりつける事とは全く違います。相手を慰めようとして、思わず、上司やクライアントのせいにするのは、「かけてはいけない眼鏡」を使う事と同じで、後輩に間違った思考習慣を植え付けかねない恐ろしい事です。

悪口を言いたくなるような上司や、持て余してしまうようなクライアントにさえ、新たな視点を見せてあげられるのが、先輩の役目と言えます。「○○部長には、たいていのスタッフが論破されちゃうけど、ああいう論理的な人が側にいると、たいていの議論が怖くなくなるよね。論理的思考のトレーニングマシーンだと思うと、感謝さえしたくなる」と、理屈っぽい上司の存在は「論理性の学びの機会」になるという視点を与えるのも眼鏡の使い方の一つです。

「あのクライアントさんは、契約ギリギリの回数の直しを入れてくるけど、おかげで、webページの修正のスピードはあがるよね。クライントさんのおかげで、仕事のスピードアップができたのは、感謝だな。クライアントさんに育てもらうって、こういう事なのかもしれないね」と、要求が多いクライアントの仕事に巡り合うことによって、実は自分のスキルアップにつながっていた、という視点を見せる。

「あのクライアントの部長さんは、なんでもゴルフに例えてくるでしょ。ゴルフなんてやったことないし、最初は意味わかんなくて苦手な相手だったんだ。それで仕方なくゴルフ中継なんか見るようになったら、部長さんの言うこともわかるようになったのはもちろん、他のクライアントさんの営業でも、ゴルフの話題振られても困らないようになった。部長の世代はゴルフ好きの人が多いから、ゴルフの知識は営業に役立つ。部長のおかげで、思いがけず知識を増やす事ができた。ある意味感謝だね」と苦手な相手にもプラスの側面があったという視点を見せる。

これが眼鏡を活用した、モチベーションアップの事例です。

一見ネガティブに見える対象を他責にせず、視点を変えて全く違う価値に変換し、新たなモチベーションを生むことができます。眼鏡と他責は、似ているようで正反対のアプローチ。混同しないようにしたいですね。

「やる気にさせる」より「やりたくならせる」がゴール

ここまで、地図、辞書、眼鏡という3つの道具で後輩のモチベーションを上げるためのコミュニケーションを紹介してきました。

「モチベーションを上げる」と聞くと、「やる気にさせる」という言葉につながりますが、「やる気にさせる」という表現は、ずいぶん上からの目線で、かつ強引な印象があります。

教育の世界には、3人の教師がいると言われています。
一人目の教師は「やり方を教える人」、つまり口だけの人。
二人目の教師は、「やり方を教えて、やってみせる人」。多くの指導者はこのタイプのようです。
三つ目の教師は、滅多にいませんが、「やり方を教えて、やってみせて、そして、やりたくならせる人」。

英語で言えば「inspire」という言葉がこれにあたります。「やりたくならせる」指導の結果「やりたくなる」。これがまさにモチベーションのあるべき姿です。

「やる気にさせる」ではなく、「やりたくならせる」先輩になりたいものですね。やりたくならせる指導者になるのは、そう簡単ではありませんが、絶対に必要で、すぐにできる事が一つあります。

それは、教える人がいつも楽しそうにしている事。

笑う門に福来り、と言いますが、「笑う先輩に後輩来たり」とも言えるのではないでしょうか? 先の見えないコロナ禍ですが、テレワークやフレックスが定着しようとも、同じ会社で働く先輩と社員は大切な仲間。コミュニケーションの基本はどんなメディアを使おうとも同じです。

相手に共感すること。共感力コミュニケーションを磨くことで、ニューノーマルな社会を後輩達と共に歩んでいってください。