後輩たちは地図がないから歩き出せない

あなたは、出社する時に自宅の玄関を出たら右に行きますか? 左に行きますか? 毎日、自宅を出る時に、「右か左かどっちへ行こうか」と悩んだりしますか? ほとんどの人はそんなことを考えずに家を出ますね。

なぜ? なぜ考えないのでしょう? それは会社がどこにあるかを知っているから。会社に行くために乗る鉄道の駅がどこにあるか知っているからです。行き先を知っているから、自然に行く方向が分かり、迷わずに歩いていけるのです。

これはビジネスでも同じこと。後輩達は、行き先を知っているでしょうか? 今日の行き先、明日の行き先、1年後の行き先が分かっているでしょうか? 行き先も分からずに歩いていると感じていたら、不安でたまらないはずです。

後輩達が不安になるのは、自分の仕事の『行き先』が分からないからなのです。就職活動では、人事担当者が企業理念を熱く語ってくれます。その熱さに共感し、この会社で働けば、世界だった変えられる、社会の役に立てる、という大きな夢を描き入社します。

ところが、時間が経つにつれ、日々の仕事と企業理念との間に大きな隔たりを感じるようになります。企業規模が多くなればなるほど分業化されていくので、『今日の自分の仕事』と『社会貢献』のつながりがまったく感じられなくなり、こんなはずじゃなかった、と思うようになるのです。

  • 自分の仕事について違和感を感じることがありますか?(写真:マイナビニュース)

    自分の仕事について違和感を感じることがありますか?

先輩の役割の一つは、日々の仕事がどのように社会につながっているか、人の役に立っているのかを伝えていくことです。大きな目標に対し、自分達がどこに立っているかを明確にしてあげ、地図を広げて指さしてあげること。

キャリアマップや、キャリアパスという大げさな地図を広げる必要はありません。後輩の目に見える範囲の地図を広げてみせてあげるだけでよいのです。以下、どんな地図が必要なのかをご紹介しましょう。

仕事の行き先とは?

仕事の行き先について、分かりやすいエピソードがあります。その昔、石切り場で働いている人達がいました。朝から晩まで、灼熱の山奥で重たい石を切り出す作業は相当に苛酷なものだったはずです。

その石切り場で働く二人の作業者に「あなたは何の仕事をしているのですか」と聞いた人がいました。一人目の作業者は「こんなにつらい仕事はありません。朝から晩までただただ石を切り出し運んでいるのです。重くて、熱くて、ただただつらいだけです」と答えました。

ところが、同じ仕事をしているもう一人の作業者に聞いてみたところ、まったく違う答えが返ってきました。その作業者は、流れる汗をぬぐいながら、キラキラと輝く笑顔で「私は世界で一番美しいお城を作る仕事をしているのです」と答えました。

自分が切り出す石が自国の王が住むお城を作る、という大きな目的に気付いているからつらい仕事にもやりがいを感じられた、ということなのですね。

同じ仕事でも、その仕事が何につながるのか、何の役に立つのか、という事に気付けるだけで、モチベーションは上がる、という分かりやすい例です。

後輩の仕事にも、必ず『行き先』があります。それを思い出させてあげること。今日の自分の仕事が何に役立っているのか、何につながっているのかを実感できるかどうかが、モチベーションを生むのか否かの分かれ道です。地図を広げ行き先を告げる事ができれば、後輩のモチベーションは自然と上がっていくはずです。

仕事の行き先作り

そうはいっても、毎日の仕事がどこに向かって、誰の役に立っているかというのは、なかなか見えづらいものです。エクセルへの単純な入力作業やグラフ作成のような業務を続けていれば、行き先を見失うこともしばしばあるでしょう。

そうならないためには、後輩への『結果報告』を怠らないことです。

「○○さん。入力作業ありがとうね。おかげで、3月の売り上げ分析も無事完了しました」とか、「○○さん。グラフ作成ありがとうございました。わかりやすい配色のグラフだったので、いつもなら質問攻めにあう社長プレゼンも今回は質問もなく、すんなりいきました。これで自部署の予算は確実に取れそう」というような、一つひとつの小さな仕事が何につながっているのか、それがどんな結果をもたらしたのか、つまり、行き先にたどり着いた、ということを、こまめに伝えていくことを心掛けましょう。

このような小さなコミュニケーションを重ねるだけで、後輩のモチベーションはアップします。その際、共感力コミュニケーションのメソッドに沿うとすれば、できるだけ具体的な表現を心掛けることです。

「みんな助かってるよ」や、「お客さまも喜んでいらした」のような曖昧な表現ではなく、「プレゼンにはデータが不可欠だから、○○さんの入力データがないと企画書は作れなかった」や、「お客さまは、電話でしか話したことがないのに、○○さんの名前を憶えていてくださったよ。接客に直接出ていないのに、すごいね」というような具体的な仕事の『行き先の景色』を見せてあげることです。

こうした地図を見せるというコミュニケーションでも、相手のことをよく知っている、見ている、ということが前提になるようです。共感力コミュニケーションは、相手への興味なしには成立しないのですね。

次回は『後輩のモチベーションを作る3つの道具 2.辞書』についてご紹介します。