テレワークでも築いていける後輩とのコミュニケーション

この連載では、後輩のモチベーションを上げる共感力コミュニケーションについてご紹介してきましたが、新型コロナ感染拡大で、世界中のコミュニケーションスタイルが変容しました。

想像もできなかったスピードでオンラインコミュニケーションが浸透している中で、この半年で見えてきたのは、オンラインでもオフラインでも、コミュニケーションの基本が共感力にあることは同じであるという事実。むしろ、オンラインコミュニケーションでは、今迄以上に共感力が必要になっているようです。

特にテレワークが基本になっている職場では、孤独感や不安感に苛まれている後輩も多いはず。オンラインでも役立てられる後輩とのコミュニケーションについて、考えていきましょう。

  • 後輩とのコミュニケーションで注意すべきことは?

モチベーションアップに『言ったよね』は厳禁の理由

モチベーションをあげる3つのS、Shounin(承認)、 Shousan(称賛)、 Shourei(奨励)を後輩に伝えるには、当然「言葉」が必要になりますが、言葉選びは慎重にしないと、モチベーションがあがるどころか、下がってしまう事もあります。自分は伝えたつもりでも、そこで使った言葉が機能していない事も多々あるのです。

例えば、半期ごとの人事アンケートで、後輩のコメントが「先輩が自分を認めてくれない」だったりすると、「そんな事ないじゃない! 言ったよね? 『よくやってくれている』と言ったよね?」と逆上してしまう先輩を見かけますが、モチベーションアップは結果なので、何を言おうと言うまいと、「あがった結果」がなければ、言ったとしても伝わってない事になります。

3つのSは、慎重に言葉を吟味し、選んで伝える。これをしっかり実践していきましょう。

「ははずし」というポジティブ表現のルール

辞書で「ははずし」という言葉を引いても見当たりませんが、共感力コミュニケーションの辞書にはあります。

ははずしとは、文字通り「は」をはずす、という事です。以下のセリフを比べてみましょう。先輩が後輩を称賛している場面です。

「鈴木さんの仕事って、スピードが速いね」
「鈴木さんの仕事って、スピードは速いね」

この2文は、助詞の一文字だけが違います。上のセリフは称賛になっていますが、下のセリフは実は称賛になっていなのです。助詞が「が」なのか「は」なのかで、意味に違いがでてきます。下のセリフを聞いた後輩は、言外の意味を感じ取ります。

鈴木さんの仕事って、スピード「は」速いね、と「は」が入ると、自然にスピード「は」速い「けど」という逆説に受け取れるのです。

「鈴木さんの仕事って、スピードは速いけど、雑だよね」、「鈴木さんの仕事って、ススピードは速いけど締め切りギリギリに始めるよね」など、言外の言葉が聞こえてしまいます。

つまり、「は」はほめることをあえて限定しているニュアンスを含んでいます。ですから、褒める時にははずしを心掛けると、ポジティブな表現になります。たった一文字で、こんなに意味が違ってくるのですね。後輩へのコミュニケーションに限らず、日々役立てることです。

伝わらないのに使ってしまう「つもりワード」

共感力コミュニケーションの辞書には、使用厳禁の「つもりワード」という言葉があります。つもりワードとは、具体性にかける曖昧表現に使われる言葉です。

「鈴木さんのおかげでいろいろ助かってます。知識も豊富だし、いつでも笑顔だし、なんでも嫌がらず引き受けてくれる……」というセリフには、いろいろ、豊富、いつでも、なんでも、というつもりワードが使われています。

伝え手は「エクセル処理が早いし、資料の誤字脱字チェックもしてくれるし、いろいろ助かってる」という具体的な内容が見えているのですが、受け手には、全く見えません。「いろいろ」では、漠然としすぎて、自分が褒められている、とはイメージできないのです。

これが伝わるようで伝わらない「つもりワード」乱用のコミュニケーションの典型と言えます。3つのSを伝えるときは、つもりワードは厳禁です。

「知識が豊富」を伝えたいなら、「鈴木さんは、ITリテラシーが高いだけじゃなくて、本をよく読むから小説も詳しいんだよね。知識の幅の広さには脱帽だよ」となりますし、「いつでも笑顔」を伝えたいなら「鈴木さんは、早朝出勤だろうが、残業だろうが、7連勤だろうが、どんなに忙しい時でも笑顔がなくらないよね」となります。

「なんでも引き受けてくれる」を伝える時は、「広報部なのに、土日の店舗のヘルパーもイヤな顔ひとつせずに引き受けてくれるし」などとなります。共感力コミュニケーションのコツは、具体的な表現をすること。

その人にしか使えない表現を心掛けると、今以上に伝わりやすいコミュニケーションが生まれます。自分のつもりワードをチェックしていきたいですね。

さて、いよいよ最終回となる次回は、「後輩のモチベーションを作る3つの道具、めがね編」について、共感力コミュニケーションに必要なめがねとは、一体どのようなものなのかをご紹介します。