「ポジティブな言葉を話すことがチームのルール」
今年も残りわずかとなりました。1年の締めくくりに、今年の流行語大賞の年間大賞に選ばれた「そだねー」について振り返ってみたいと思います。2月の平昌五輪で銅メダルを獲得したカーリング女子日本代表チームのあの明るく、のんびりした言葉と雰囲気は日本中を温かい気持ちにさせてくれましたが、その奥に非常に深い意味を感じます。それは日本経済の在り方や日本の今後を考えるうえで重要なヒントがあるからです。
流行語大賞の授賞式で、受賞者を代表して本橋麻里選手は「チーム内ではポジティブな言葉だけを話すことをルールにしていた」と語っていました。試合中は緊張の連続でしょうし、失敗することもあるでしょう。しかしそれを口にするのではなく、前向きにとらえて「そだねー」と声を掛け合う。これが銅メダル獲得の原動力になったことは間違いないでしょう。
このことは実は現在の日本経済についても当てはまることです。日本経済はバブル崩壊以来長年にわたって経済が低迷し、少し景気が上向いたと思ったら、長続きせずにすぐに景気が悪化する……こんなことを繰り返してきました。そのため多くの人々はなかなか前向きな気持ちになれないという状態が続いていました。メディアもエコノミストも、政策当局でさえ、そうでした。厳しい現実を考えれば、それもある程度やむを得なかったと言えるかもしれません。
この数年間で大幅に改善した日本経済
ところがこの数年間で日本経済は一般的なイメージ以上に良くなっているのです。いわゆるアベノミクス景気が始まる前の2012年11月に有効求人倍率は0.82倍でしたが、今年9月には1.64倍まで改善しました。有効求人倍率とは求職者の数に対して求人件数が何倍あるかを表す指標で、雇用情勢を敏感に反映するデータです。6年前の0.82倍という数字は、求職者100人に対し求人件数が82件しかなくて就職難だったことを意味します。しかし現在では、賃金や待遇などを別にすれば、100人の求職者は164件の求人の中から選べるわけです。これほどの有効求人倍率はなんと1974年以来44年ぶりの高水準。バブル期よりも高いのです。
雇用情勢がこのように歴史的な改善を達成できたのは、求人が増えていることが最大の要因です。これは企業の生産や販売などが増えて多くの人手を必要とするようになったこと、しかも企業の業績が回復して実際に雇用を増やすことができるようになったことが背景にあります。企業の業績はここ数年、過去最高の利益を更新し続けています。
こうした変化を反映して株価もこの数年間で大幅に上昇しました。2012年11月までの日経平均株価は8,600円台でしたが、今年は一時、24,000円台まで上昇しました。これは実に約27年ぶりの高値水準です。年末にかけて株価は下落傾向となっていますが、それでもこの数年間で大幅に上昇したという基調は変わっていません。株価については短期的な動きに目を奪われがちですが、こうした長期的視点も忘れてはなりません。
バブル崩壊後これまで何度か景気回復がありましたが、それらと比べても現在のこれらの変化は過去の景気回復局面には見られなかった現象です。このような前向きな動きをもっと伸ばしていけば、日本経済は本格的に復活を遂げる可能性は十分あるとみています。
ポジティブな変化にもっと目を向けよう
それでもメディアの報道も多くの経営者も、このような「歴史的な雇用改善」「過去最高の企業業績」というポジティブな評価ではなく、「人手不足が深刻化」「経営環境は厳しい」というネガティブな評価が中心となっているのが実情です。
一例を挙げると、日本の景気回復が戦後2番目の長さになったというニュースが先日、報道されました。2012年12月から始まった景気回復が2017年9月までの時点で、高度成長期だった1965~1970年の「いざなぎ景気」を超えたというもので、さらにちょうど20日には茂木経済財政・再生相が「現在の景気回復期間がこの12月で73カ月となり戦後最長に並んだ可能性が高い」と述べました。この景気が来年1月まで続けば戦後最長となります。
しかし多くのメディアは、これまでどのくらい景気が回復したのかについて具体的に伝えるよりも、「実感がない」「成長率が低い」などとする内容が中心でした。確かにそれは事実ですが、景気回復の現状をきちんと伝えずに「実感がない」「成長率が低い」などの問題点ばかりを前面に出す報道が、日本経済の正しい姿を正しく伝えていると言えるでしょうか。
このような報道が繰り返されているうちに、多くの人の頭の中でマイナスイメージだけが膨らむことになりかねません。そこからは「経済を元気にしていこう」というような前向きな気持ちは生まれにくくなってしまいます。カーリング女子チームとは逆の効果です。
もちろん国際情勢の変動は激しく懸念材料が多いのは事実で、当然のことながら日本経済もその影響を受けることは避けられないでしょう。それでも現在の日本経済は前述のように、これまでには見られなかった変化が出始めているのです。そこに目を向けなければ、前向きな動きを伸ばす努力も出てきません。今の日本に必要なのは、カーリング女子日本代表チームのようなポジティブ思考ではないでしょうか。逆に言えば、私たちがもっとポジティブになれれば、日本経済を本格的に復活させる力になりうると確信しています。
執筆者プロフィール: 岡田 晃(おかだ あきら)
1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。