サーキットのように、すべての車両が同じ方向に走っていればほかの車両と正面からぶつかることはありませんが、公道では対向や左右の車線から車両が行き交います。そのため、事故の多くは「交差点」で発生します。

交差点で起きるバイク事故の中で多いのが「右直事故」。直進しているバイクと、対向車線から右折したクルマが衝突する事故ですが、今回はその原因やリスクの高さを中心に解説します。

■右直事故の起きる原因

右直事故の大半はクルマのドライバー側に過失がありますが、ライダー側の過失が少なかったとしても、以後の生活に影響する大ケガを負ったり、最悪の場合は命を落とすリスクもある恐ろしい事故です。

原因は右折待ちのドライバーが対向から走ってくる小さなバイクの姿を見落としたり、距離感を誤ってしまうことが挙げられますが、ドライバー側も対向車線に注意していたつもりでも、うっかりミスをしてしまう落とし穴があるというわけです。

たとえば、信号が黄色に変わったり、後方の車両を詰まらせていると、対向車両や交差する横断歩道の歩行者がいないタイミングで素早く右折しようと焦りがちになります。バイクはヘッドライトを点灯させていても、周囲の風景や朝夕の逆光、夜の街灯などに溶け込んでしまうこともあります。この「右直事故」は、信号のある交差点だけでなく、右折して入る施設などの駐車場でも起こることです。

ライダー側も、直前の信号が黄色になると赤に変わる前に交差点を抜けようと焦ったり、右折待ちのクルマは見えていたものの、直進が優先だから曲がってこないと思い込むことも多いようです。後方の車列から離れていたり、前方との車間を必要以上に広くとって単独の状態で走っているときも、対向車から見落とされたり、距離を誤られる原因になります。

  • 右直事故は互いの姿を見落としたり、予測を誤るなどのミスが積み重なって発生する

■右直事故がなぜ恐ろしいのか

右直事故の恐さは、目の前にクルマという金属の塊が壁のように立ちはだかることです。あわててブレーキをかけたとしても、十分に速度を落とせずに衝突してしまいますが、その衝撃がどれくらいかご存じでしょうか?

バイクは250ccクラスでも100km/h位は簡単に出てしまい、高速道路でその速度域に慣れてしまうと、一般道はずいぶん遅く感じてしまうものです。しかし、60km/hで衝突した場合、ビルの5階(約14m)から落下したときと同じ衝撃が加わります。ブレーキで速度を40km/hまで落とせたとしても、ビルの2階(約6m)です。(これは教習所でも教わるはずですが、念のための復習です)

サーキットでプロのレーサーが100km/h以上で転倒しても大きなケガをしないのは、ヘルメットや革ツナギといった装備だけではなく、転倒した後は何にも衝突せずに滑走しているからです。何かに衝突して1秒にも満たない時間で0km/hに急減速したら、ヘルメットやプロテクターが平気でも、強烈な減速Gで身体の内部が破壊されてしまいます。

昔は衝突したクルマのボンネットをライダーだけが飛び越え、数メートル先の路面に叩きつけられて骨折や打撲のケガをした、などという話もよく耳にしましたが、近年は車高も高くて大きなクルマが主流になっています。バイクも昔に比べれば格段と乗りやすくなり、高い速度でも安心できるスタビリティを持つまでに進化しました。しかし、人間の身体は昔のままということを覚えておく必要があります。

  • 走行中は気にならないが、高所から落下した場合を考えればスピードの出し過ぎがどれだけ危険かが分かるはず

■大型車との事故にも注意

バイクが巨大で何十トンもある大型トラックと事故を起こせばひとたまりもありません。死亡事故もよく報じられるため、バスやトラックに近寄りたいと思うライダーはまずいないでしょう。大型トラックは死角も大きいため、ドライバーからしても近くにバイクが走っているのは煩わしいはずです。

なるべくトラックから離れて走るように心がけていたとしても、公道ではどうしても並走することもあります。後ろについた場合、車線を変えて追い抜きができればよいですが、長く続く一本道なら、無理な追い越しやガマンして後ろを走るより、「あちらは仕事をしているのだから……」と、休憩して先に行ってもらうのがよいでしょう。

また、大型トラックは交差点で右折や左折をする際に、リアタイヤから後ろのオーバーハングがせり出てきます。トラックの種類や道路状況によっては、隣の車線にまではみ出しますので、走行中の追い抜きだけでなく、信号で停止しているときも注意が必要です。

昔は大型トラックの後ろに張り付いて冷たい風を凌いだり、スリップストリームで燃費を伸ばすといったことが言われたこともありますが、これは絶対に勧められません。重いものを運ぶトラックには強力なブレーキが装備されており、空荷では強烈な制動力を発揮します。

  • 大型トラックやバスなどはリアのオーバーハングにも注意。隣の車線に停止していても巻き込まれることがある

■ライダーとバイクの装備は大事! けれど過信は禁物

身を守る装備品の中で、頭を守るヘルメットはとても大事です。「フルフェイス」は衝撃を受けた際の帽体の強さが特長ですが、「ジェットタイプ(オープンフェイス)」は危険を未然に防ぐ視認性の高さがあります。そのほか、足のくるぶしや、ヒジ、ヒザ、肩などの間接部のケガも多いですが、近年は胸部・腹部の損傷による死亡事故も増加しているため、胸部プロテクターも注目されています。

オートバイ自体の安全性も高まっていますが、2021年10月1日から生産される車両には「ABS」(小排気量車はCBS=前後連動ブレーキ)が義務化されました。ABSはブレーキを強くかけた際にロックしないため、パニック時のブレーキや雨天などの滑りやすい路面で効果を発揮します。

しかし、ABSが付いているからといって過信は禁物。ブレーキが苦手な人でも、バイクのタイヤやブレーキの性能を十分に引き出せますが、瞬時にピタリと止まれるものではなく、間に合わなければ衝突やオーバーランをしてしまいます。

さらに重いバイクになると慣性力が強いため、短い距離で止まることができません。アメリカンやクルーザーのようにゆったり走るようなバイクでも、アクセルを捻っていれば簡単に100km/hくらいは出てしまいますし、下り坂や濡れた路面では思った以上に制動距離が長くなるので注意が必要です。

  • ABSが付いていても過信は禁物。重いバイクは停止距離も長くなるため、オーバーランにも気をつけたい

■一見、安全そうな単独走行時に潜むリスク

バイクはクルマよりもスタートダッシュが速いため、信号待ちの先頭からスタートすると、法定速度に達するまでに後方のクルマを大きく引き離し、単独で走る状況になることもあります。

前後左右をクルマに囲まれるのは神経も使うため、単独で走るのは安全にも思えますが、これも対向の右折車が距離感を誤る原因になります。また、左右の路地や駐車場からバイクの存在に気がつかずにクルマが出てくることも少なくありません。

  • 交通量の多い都市部はリスクも高い。無理をせず、周囲の状況をしっかり把握することが大切

単独で走っているときに右折待ちの対向車や鼻先を出しているクルマがいた場合、『こちらの存在に気がついていないかも』と身構えておくべきでしょう。速度を落としてブレーキレバーに指をかけておいたり、クルマの雰囲気やウィンドウ越しに見えるドライバーの動き、信号や渋滞といった周囲の状況などを見ることも大事です。

とても気を使いますが、こうした事故に巻き込まれないための心構えやテクニックはクルマを運転するときにも役立つはずです。