昔からバイク乗りの間ではヘッドライトを明るくするのは「定番のお手軽カスタム」でしたが、近年はヘッドライトのLED化が普及し、たくさんの製品が市販されています。

明るくて省電力なうえに長寿命、交換も簡単でタイムラグもなく即時に点灯……と、良いことばかりが聞こえてきますが、ちょっと不安もあるのでは? 今回はLEDのしくみや製品の選び方を紹介します。

■LEDに至るまでのヘッドライトの歴史

バイクのヘッドライトはクルマ同様、かつては「シールドビーム」という、巨大な白熱電球のようなものでした。これが1980年代ころから、ガラス管にハロゲンガスを封入してフィラメントの長寿命化と光量をアップさせた「ハロゲンバルブ」が普及し、現在も多くのバイクで使われています。

ハロゲンバルブが主流の時代はイエローバルブやハイワッテージ化といったカスタムが流行しましたが、90年代に入るとヘッドランプハウジングのレンズと反射鏡を樹脂にした「マルチリフレクター」や「プロジェクターランプ」が登場し、配光効率のアップと同時にデザインの自由度も広がりました。

. 1990年代半ばになると、フィラメントを持たずに電極間の放電で点灯する「HID」、いわゆる「ディスチャージ」や「キセノン」と呼ばれる光源が登場します。バイクでは純正採用されたモデルは少ないですが、省電力で長寿命なうえ、ハロゲンをはるかにしのぐ明るさが注目を集めました。

純正ハロゲンからHIDへの交換は、イグナイターとバラストの設置や電装ハーネスの加工を必要とするため、それなりのDIYスキルを必要とするカスタムでした。また、有名なパーツメーカー製のほかにも、ネット通販で安価なノーブランド品が出回っていましたが、すぐに壊れる粗悪品も多く、純正リフレクターでは配光が乱れるなどのトラブルも多発しています。

  • ヘッドライトの歴史

■ハロゲンやHIDとは異なる「LEDが光るしくみ」

HIDの次にヘッドライトの光源として注目を集めているのが「LED=発光ダイオード」です。LED自体は古くからありましたが、自動車用のヘッドライトとして利用のめどがついたのは白色LEDが開発されてからで、市販車で初めて採用されたのは2007年の「レクサスLS600h」でした。

その後、クルマやバイクではウィンカーや室内灯などでLEDの普及が進んだあと、HID同様にノーブランド品を含めたLEDヘッドライトバルブが市場に出回り始めます。やはり初期のころは故障も多かったようですが、現在は高品質で安価な製品も増え、メーカーでも多くのモデルに純正採用が進んでいます。

LEDがハロゲンバルブやHIDと違うのは、フィラメントを白熱させたり電極から放電するのではなく、電気を直接光に変換する「LED=発光ダイオード」を利用している点です。光源は黄色いチップ(素子)ですが、ここにある2種類の半導体に電気を通して「正孔」と「電子」が再結合する際に、電子が持っていたエネルギーの一部が光に変換されるというしくみです。

現在のLEDヘッドライトは明るさこそHIDにはかないませんが、ハロゲンバルブに比べれば十分すぎるほどの光量を持っています。HIDよりも省電力で長寿命ですが、スペースの少ないバイク用としては、イグナイターやバラストといった機器の設置がいらず、交換は一般的なハロゲンバルブ並みに簡単なことも大きなメリットでしょう。

  • LEDが発光するしくみ

■圧倒的な長寿命といわれるLED、でも壊れるのはなぜ?

LEDの寿命は非常に長く、電機メーカーでも約40,000時間以上と紹介されることがあります。その理由はフィラメントなどの消耗がなく、半導体上で電気を直接光に変換しているためですが、必ずしもその寿命が保証されているわけではありません。初期のノーブランド品などは非常に短い期間で故障してしまうケースもありました。

LED電球に手をかざしてみるとわかりますが、光からは白熱球のような熱は伝わってきません。これはLEDの光には赤外線がほとんどないためですが、チップ周辺や基板は発熱します。メーター照明やウィンカーバルブなどの小さなものと違い、ヘッドライトに使えるほどの強い光を出すLEDになると、その熱量はかなり大きくなります。

LEDが故障するのは、この熱で発光素子や基盤の劣化が進んでしまうことが原因です。そのため、LEDヘッドライトのバルブには放熱のためのさまざまな工夫がされています。

家庭用のLED電球でもレンズ以外の部分にはヒートシンク(放熱フィン)が設けられていますが、ヘッドライト用はさらに大きく、風を当てて冷却するための電動ファンがついているものがあります。また、基板自体を熱伝導率の高いアルミや銅を使ったり、ユニットを構成する素材に耐熱性の高いシリコン系を採用するなど、大光量化と並行して放熱効率を上げるための改良が進められています。

  • 長寿命の必須条件は「冷却」

■さまざまなタイプのLED、どんなものを選ぶべ?

HIDに比べて取り付けも簡単なLEDヘッドライトですが、どんなバイクにでも装着できるわけではありません。LEDヘッドライトのバルブは後端にヒートシンクがついているため、バイクの種類によってはカプラーが接続できなかったり、ほかの部品と干渉してしまうこともあるからです。

また、ただのヒートシンク式よりも電動ファン付きのほうが放熱性能は高いですが、ファンのユニットがある分、バルブの後端はさらに大きくなってしまいます。バイク用の製品はクルマ用よりもコンパクトなものが多いですが、取り付け前に製品やライト裏のスペースを確認しておいたほうがよいでしょう。

そのほか、放熱フィンやファンを前面のLEDチップ周辺に備えた製品もあります。これならバルブ後端はスッキリしますが、大きくなったバルブがヘッドライトハウジングの中に収まらなかったり、チップから発した光がヒートシンクやファンの陰になって配光が崩れるほか、放熱に外気を使わないため熱がこもりやすい、といった不具合もあるようです。

さまざまなLEDヘッドライトが低価格で売られていますが、夜間の走行中に切れてしまうと非常に厄介ですので、やはり国内の有名メーカー製をおすすめします。

  • LEDバルブは後端の大きさに注意

■LEDの次はレーザーの時代が来る?

明るさ、耐久性、省電力性、そして小型で取り付けもしやすいLED。バイク用のヘッドライトとしては最適なのでさらに普及が進むのは間違いありません。LED自体も進化を続けているので、もうこれ以上は必要ないと思えますが、すでに新しい技術が注目されています。

それが「レーザーヘッドライト」といわれるもので、すでにドイツの自動車では実用化がされています。特徴としては、「レーザー」の名が示すとおり「半導体レーザー」を用いたもので、普通の光源が四方八方に拡散するのに対し、強い指向性の光を照射します。小さな電力でLEDよりもさらに遠くを明るく照らし、ユニット自体も小型化できるというメリットがあるそうです。

現在はユニットのコストや、高出力のレーザー光が人間の目に対して悪影響を及ぼすことが懸念されているため、ドイツで採用されたクルマでもハイビームの補助光にとどめていますが、これらの問題が解決されれば、センサーなどで制御して任意の対象を個別に照射したり、文字や図柄などを道路に投影することが可能になるかもしれません。