こんにちは、人事・戦略コンサルタントの松本利明です。私はPwC、マーサー、アクセンチュアなどの外資系大手のコンサルティング会社で24年以上、600社を超える企業の人事コンサルティングをしてきました。
その経験から就職活動の現場をみると、「就活のセオリー」と言われている内容には、実はドツボにはまってしまうものもあるのです。この連載では「人事の『裏」」を知り尽くした視点から、本当に使える就活のコツを解説します。
自己PRに慣れていないのは前提
前回の記事では、ゼミやアルバイトなど、学生時代の経験が似ているため、他と差別化する強みが見つかりにくい。それを踏まえ、面接官の立場に寄り添い、「考える順番」に沿って話すことが最初のコツとお伝えしました。
話す順番をクリアしたとして、次に気になるのは自己PRです。「強み」ではなく、何をPRすればいいのか。そのコツを解説します。
そもそも、皆さんは自分をPRすることに慣れていないでしょう。「好きです、付き合ってください」と愛の告白をする時以外は、自分をPRする機会が多くはないと思います。
日本の教育現場は自分をPRしてメリハリをつけるより、手をつないでゴールイン! のように「差をつけないこと」を重視してきたので、仕方ないのです。
さらに本番の面接では緊張するのが当たり前。冷静ではいられません。周りが強みを自己PRするので、その雰囲気に飲まれて、ついつい自分も同じような強みをPRして撃沈、となっては悲惨です。
実は就活では「用意した自己PRを上手に話すこと」がキーではありません。面接官に「我が社に合いそうで、この人と一緒に働いてみたい」と思われたら「勝ち」なのです。
私をよく魅せようとするとドツボにハマる
自己PRというと「自分」を「PR」してよく魅せなくていけない、と考えるのが普通でしょう。ここに罠が隠れています。
自分をよく魅せよるようにPRすると、「根拠なき自慢大会」になるからです。合コンでイケメンが「俺って、こんなにイケメンで、ファッションセンスがよくて、スポーツもできて、実家が金持ちで六本木のタワマンに住んでいて……」と言われたら、あなたはどう感じますか?
無茶苦茶マウンティングされている気分になりますよね。それが事実であっても余計に感じ悪いと感じますよね。その通りです。
これが面接の局面で行われるのです。「私は、リーダーシップがあります」「私はコミュニケーション力が高いです」等々。それも、強みをアピールするので内容は似たりよったり。
たくさんの就活生にPRされまくったら、面接官の立場で考えれば、「また同じか~」とうんざりするイメージはわくでしょう。では、どうすればいいか。主語を「私は~」から発想するのをやめることから始めましょう。
「私は」から話すのを止めると変なPRにならなくなる
私から始める自己PRを一旦やめる理由は3つあります。
(1)私は~という言葉を発すると意識が自分の内側に向かいます。すると、自分の中にある「PRすべきこと」に全集中し、よく魅せよう、暗記したことを全部は話そう、に流れがち。結果、面接官の質問の意図を捉え、普通に会話すべき場面で一方的に話してしまい、印象を悪くすることにつながりやすいのです。
(2)私は~から話すと、そんな意図はないのに「上から目線」に取られやすくなります。企業と就活生は「対等な関係」ですが、「私は、御社のビジョンに共感して……」など、就活生側が評価した表現になりやすくなります。
そして面接官にそれを突っ込まれ、評価理由を話せば話すほど、「御社のここが素晴らしい(評価しました)」というように、上から評価目線がどんどん積み重なります。さらに悪いことに、実務経験がないので「自分が考える仕事のイメージ」で評価すると内容は抽象的で軽いものになるのです。
面接官の立場であれば、事前準備なしの就活生よりましですが、「上から目線」学生が選ばれるか、となると微妙になるのでお勧めしません。
(3)私は~から始めて、自分をPRしようとすると「協調性があって……」「リーダーシップがあって……」など、誰でいいそうな曖昧な言葉でPRしてしまうリスクがあります。
人は、想いが強い時や、とっさの時は、曖昧な言葉や、「すごい」「いつも」など「形容詞」や「副詞」を多発しがちだからです。これらの言葉は人により解釈にブレがでる上、根拠が含まれていません。
結果、「その程度でリーダーシップあると言えるのかな?」と大きくみせようとしている印象を与えてしまうのです。
面接の時は相手が怪訝そうに感じたら手に取るように分かります。やばい! と焦れれば焦るほど緊張するので、余計に「形容詞」「副詞」「曖昧な言葉」を使ってしまう悪循環に陥るのです。
「でかい」「すごい」など曖昧な言葉を連発すると、伝わりにくくなるだけでなく、幼稚な印象を与えてマイナスです。
いかかでしょう。「私は~」と自分をよく魅せようと自己PRすると、ドツボにはまるのですが、面接対策本では「正解」と書かれています。結果、誰もが同じ自己PRになるのです。
では、どうすればいいか。話す時に焦点をあてる場所を変えればいいのです。
自分がPRしたいことではなく、面接官が「この人と働きたい」と思う判断材料を事前に準備し、整理しておくことで、ライバルから頭二つは抜き出せるでしょう。そのノウハウとコツは、次回解説します。