先日、『四十九日のレシピ』という映画のトークイベントに出ました。「子供を持たない女」の人生についての作品なので、一緒に出演してくれた日経エンタテインメント!の編集長の品田さんが、トーク前に初対面の私の気持ちを理解しようと、楽屋で結婚や出産についての質問を投げかけてくれました。

「結婚していて、子供もいるいわゆる勝ち組の女性から見下されているように感じるか?」「結婚してないことで、モテない女だとバカにされているように感じるつらさがあるのか?」……。それらの質問を聞いていると、自分でも思いがけない言葉が出てきました。

「そうじゃないんです。友達に結婚も出産もしている人はたくさんいるし、彼女たちからバカにされているなんて感じたことはありません。むしろ、周りからの『独身女と既婚女はわかりあえないに決まってる』『お互いにバカにしあっているに決まってる』という視線がきつい。女同士の格付けで上に上がりたいから結婚したいと思ってるわけじゃないし、今までだってモテてこなかったのに、モテない差別があるから独身がつらいっていうこととも違う。独身女には、社会に居場所がないんです。そのことがつらいんです」。

産まない女は社会のお荷物?

噴き出した言葉は止まりませんでした。「毎日毎日、テレビでもネットでも生涯未婚率がとか、少子化がとか、そんなことばかり言われていると、日本に未来がないのは女が子供を産まないからだ、と言われているような気持ちになります。ちゃんと働いて、税金も年金も健康保険も払って、真面目に暮らしているのに、まるで国に対して何の貢献もしていないみたいな扱いを受けている気持ちになる。好き勝手に生きて子供も産まず、老後を引き受けるのは誰だと思ってるんだ、という論調の非難を見たこともあります。働いているから、仕事の場では居場所がある。友達もいる。でも、独身女という存在が、堂々と生きていていい存在だと、社会から認められている感じはしません」。

そこまで言っても、言えなかった言葉がありました。続けようと思ってやめた言葉はこうです。「独身女がどんなことを考えて生きてるかわかりますか? 早く死にたいって思ってるんですよ。老後、施設に入るとしても、今って簡単に人は死なないでしょう? どんなに貯金をしても、五年も十年も払えるほどのお金なんてないですよ。社会に迷惑をかけないために、できるだけ早く死にたいって思ってるんですよ」。

「早く死にたい」は、私の個人的な意見なのであまり一般性はないと思いますが、そう感じているのは事実です。社会から認められるとか、認められないとか、そんなことはどうでもいいことだと私はずっと思ってきましたし、そんなことはどうでもいいから、社会的に価値が認められにくい職業を平気で選びました。けれど、社会的に認められないということが、これほどまでに人から力を奪うのか、ということを最近は少し感じています。「少子化が問題」だと責められているうちは、もしかしたらまだいいのかもしれません。実質「産めない」年齢になれば、どう感じるのでしょうか。

ただ、こういうことに慣れていると、多くの人が老人になったときに感じる「社会から必要とされていない無力感」にはすでに慣れっこになっているので、老人になってからは意外と心が折れずに強く生きていけるような気も、しなくはないのです。

<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。その「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』(ポット出版)を昨年上梓。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『POPEYE』などで連載中。

イラスト: 野出木彩