近年は大規模な災害が日本各地で頻繁に起きている。2019年だけ見ても、10月の台風19号はいくつもの河川で氾濫を引き起こしたし、9月の台風15号では電柱の倒壊などが原因で1カ月以上もの停電生活を余儀なくされたエリアが出た。千葉県や福島県を震源地とするM6以上の地震も頻発し、九州での豪雨による災害が激甚災害に指定され、「命を守る行動を」が「新語・流行語大賞」にノミネートされた。

このような災害大国・日本では、いつ自分が大規模災害に見舞われるかわからない。いざ、大雨や地震などに遭遇した際に被害を最小限に食い止めるには、日頃からの備えが肝要となる。そこで今回、東京都墨田区にある本所防災館の今村均館長に各種災害への対策などについてうかがった。第3回のテーマは「津波」だ。

  • 東京都墨田区にある本所防災館

    東京都墨田区にある本所防災館

はるか遠くの地の地震でも津波は起きる

津波は地震などにより海底が隆起や沈降することで、その海域の海水が上下に変動して起きる現象だ。

■津波

海底から海水が動き、海水が巨大な塊となって押し寄せてくる。波長(波の山から次の山までの長さ)は数㎞から数百㎞と非常に長く、海水が巨大な水の塊となって沿岸に押し寄せる。津波が引く際は長時間にわたり強い力で引き続けるため、破壊した家屋などの漂流物を一気に海中に引き込むという特徴も持つ。

津波は地震に伴って起こるが、もし体感できる地震ではなかったとしても、津波が発生する可能性はある。過去には、1960年に南米のチリで発生したマグニチュード9.5の地震によって、日本にも最大で6mもの高さの津波が襲来した記録がある。自分の住んでいる地域の地震ではなかったとしても、津波を警戒する必要は十分にある。

津波の被害に遭わないためには

地震が頻発するエリアおよびその近郊エリアでは、津波の被害を受けやすいことが予想される。いざというときに自分の身を護るためのポイントを教えてもらった。

(1)とにかく高い場所に逃げる

津波が発生したら、とにかく安全な場所に逃げることが第一。気象庁は地震が発生したら約3分で津波警報や注意報を発表することを目標に掲げているが、状況によっては間に合わないケースも考えられる。海はもちろん、河川も逆流してくる可能性があるので、速やかに離れて高い場所に逃げることを心がけよう。

(2)避難場所を事前に確認しておく

津波のリスクが高い地域では避難場所が指定されているので、事前に確認しておくことが大切だ。他の災害とは避難経路や場所が違っている可能性もあるので注意してほしい。地形によっては局所的に高くなるケースもある。たとえ予報が1mや2mと低い水位であっても、津波は脅威であることを認識しておこう。

(3)早め早めの避難を心がける

津波のスピードは沿岸で時速40㎞近くになることがあり、沖合ではジェット機や新幹線並みにもなるため、目視できてから避難をしても間に合わない。興味本位で沿岸などに見に行くことは絶対にしてはならない。注意報や警報が発表されたら、できるだけ早く状況を確認し、避難をしてほしい。

(4)「高さ」を意識した避難をする

津波で避難する際は水辺から離れることも大事だが、「遠く」よりも「高く」を意識する必要がある。「津波避難ビル」や、できるだけ頑丈で高いビルや丘などの高い場所に避難することを心がけよう。もし、予想されている津波の高さが2mとしても、2m以上の場所であれば安全とは限らない。日本気象協会によると、津波はその高さの2倍から4倍ほどまで遡上する可能性がある。できるだけ高い場所に避難することが重要だ。

(5)避難は車ではなく徒歩で

渋滞などで結果的に逃げ遅れてしまうことを避けるため、避難は徒歩が基本となる。高齢者や車いす使用者らサポートが必要な人には、早期から協力して避難の手助けをしよう。

(6)避難後は安易に元の場所に戻らない

そして、一度避難したら戻らないことも重要なポイントだ。津波は第1波、第2波と複数回にわたって押し寄せてくることがあるうえ、後からくる津波のほうが規模が大きいケースも少なくない。第1波が予想よりも大したことがなかったからと自宅などに戻ってしまうと、後から来た津波で被害に遭ってしまうかもしれない。

実際、東日本大震災のときには函館で第1波を観測した後、最大となる239cmの津波が来るまでに約7時間を要している。津波警報が解除され、安全が確認されるまでは、絶対に戻らないことが命を守る行動となると覚えておこう。

水の重さに衝撃

今回、取材に協力してくれた本所防災館では、浸水被害などでドアの外に水が来てしまった場合、どれほどの圧力がかかってしまうのかを体験できる施設もある。実際に試してみると、たった10cmの水位であっても、女性ではドアを開けるのが難しい人もいるのではないかと感じられた。水位30㎝になると、男性でも力に自信のある人が腰を入れないと開けるのは困難。開けられない人も多くいるだろう。これは車のドアでも同様で、水位が上がる前に避難することの重要性を実感した。

  • たとえ10㎝の水位でもドアを開けるのは難しくなってくる。早めの避難が肝要だ

    たとえ10㎝の水位でもドアを開けるのは難しくなってくる。早めの避難が肝要だ

  • 家のドアだけでなく、車のドアも開けるのは困難

    家のドアだけでなく、車のドアも開けるのは困難

津波が発生してしまったら、もはや逃げる以外の手段は残されていない。津波のリスクがある地域には「津波注意」の標識が掲示されているほか、津波避難場所、津波避難ビルを示す標識も設置されている。日頃からハザードマップを確認し、自宅や職場などからの避難経路を含めて事前に確認しておくようにしてほしい。