外科医でありながら、「オペ室より愛をこめて」などを執筆して漫画家としても活躍するさーたりさんによる連載「メディクショナリー」。言葉の意味は「medical」+「dictionary」ということで、さーたりさんが時にコミカルに、時に鋭く医療用語・略語を解説します。今回紹介するのは、患者さんの大切な情報を収集する「アナムネ」です。

アナムネ(病歴聴取)


初診前患者を診察する前に、これまでに患ってきた病や使用している薬などを尋ねることで、医師が患者をスムーズに診察するために必要。服用している薬が多くてなかなか覚えられない場合は、日ごろからお薬手帳などに記入して持参すれば、アナムネ時に役立つ。


使用例: 「学生さん、初診患者さんのアナムネとってきて」

ドクターさーたりの解説

「アナムネ」の語源はドイツ語の「Anamnese=既往歴」という単語です。花のアネモネや刀剣の名工・正宗に響きが似ていますが、アネモネの語源はギリシャ語、マサムネは日本語です。「アナムネ アネモネ マサムネ」ってまるで早口言葉のようですね……。

ただし、既往歴だけではなく主訴や現病歴、家族歴、アレルギーの有無、内服薬の有無、産婦人科であれば妊娠歴や出産歴、小児科であれば予防接種歴など、患者さんが受診するにあたって必要な情報を聞きだすこと=「病歴聴取」という意味で使われます。

「使用例」のように、医学生や看護学生がアナムネをとることもよくあります。慣れていないと大事な内容を聞き忘れたり、話が長く余談の多い患者さんからうまく聞き出せなかったりしますが、だんだんコツをつかんでいいアナムネがとれるようになっていきます。

アナムネは非常に重要で、これだけで病気がわかることもありますし、少なくとも考えうる病気を絞っていくことができます。NHKの番組「ドクターG」は、まさにアナムネから病名を探っていく番組ですが、あのように医者はアナムネを読み解きながら情報を整理して、頭の中の引き出しから病気を推測しているのです。

アナムネをとるときは、患者さんと初めて会うケースが多いです。患者さんも病院に来て緊張していると思いますが、実は医者や看護師も初対面の人から根掘り葉掘り聞くことで患者さんが気分を害されはしないかと緊張しながらアナムネをとっています。なので、アナムネ時は少し温かい目で医療従事者を見ていただけると助かります。

筆者プロフィール: さーたり

某大学病院勤務の消化器外科医。2児の母の生活、外科医の日常、漫画・アニメへの溢れる愛を描き散らしたブログ「腐女医が行く!!~外科医でママで、こっそりオタク~」を絶賛随時更新中。また、Twitterもしており、アカウントは「@gogofujoy」。