会社をやめるとき、「どれを選べばいいかわからない」との声が多い退職後の公的医療保険(健康保険など)。家族の扶養になれない場合、今まで加入していた健康保険の任意継続被保険者制度を利用すべきか、役所で国民健康保険の手続きをしたほうがいいか、判断に迷います。その選択をする際の注意点と、失業などによる住居費負担を軽減する制度について紹介します。

(3)国保と任意継続、選択する際の注意点

退職すると、会社の健康保険の被保険者資格を失います。配偶者などが働いていれば、その扶養になることを真っ先に検討すべきですが(詳しくは第14回コラムをご覧ください)、それができない場合は、(1)任意継続被保険者制度、(2)国民健康保険、のいずれかを選択することになります。

「会社のせいでやめることになったのだから、会社の保険に残りたくない!」と、安直に考えないでください。わずかな手間で、毎月の負担が大きく変わる可能性があります。まずは、次の(A)(B)を調べましょう。

(A)任意継続被保険者制度を利用した場合の保険料(会社に聞けば教えてくれます)

(B)国民健康保険の保険料(お住まいの役所の国民健康保険課に聞いてみましょう)

国民健康保険料の試算は本人確認がとれれば計算してくれる自治体が増えましたが、ダメなケースもあります。そのときは面倒かもしれませんが、国民健康保険料の計算式を入手して自力で計算しましょう。計算式は市区町村役所のホームページに掲載されています。

東京都葛飾区在住のAさん(40歳、協会けんぽ加入、退職した年の標準報酬月額30万円、退職前年の年収450万円、妻38歳専業主婦、子8歳)のケースで計算してみましょう。

葛飾区の国民健康保険料は、医療分保険料と支援金分保険料(後期高齢者支援金等賦課額)および介護分保険料(40歳以上65歳未満の方のみ)の合算額になります。

医療分保険料

  • 所得割額(加入者全員の旧ただし書き所得×6.28%)+均等割額(30,000円×加入者数)=年間医療分保険料(賦課限度額は51万円)

支援金分保険料

  • 所得割額(加入者全員の旧ただし書き所得×2.23%)+均等割額(10,200円×加入者数)=年間支援金分保険料(賦課限度額は14万円)

介護分保険料

  • 所得割額(第2号被保険者全員の旧ただし書き所得×1.60%)+均等割額(14,100円×該当者数)=年間介護分保険料(賦課限度額は12万円)

国民健康保険の保険料の計算のもとになる所得(旧ただし書き所得)は前年の所得をもとにしたものです。前年の年収から給与所得控除などの経費を差し引いた「総所得金額」から基礎控除33万円を差し引いて算出します。Aさんの場合は273万円になり、それをもとに計算した国保保険料は図表の通りです。

Aさんの国民健康保険料(平成24年度)

一方、任意継続被保険者制度の保険料は「退職時の標準報酬月額」または「加入している公的医療保険グループ(協会けんぽ又は各健康保険組合)の標準報酬月額の平均額」のうちいずれか低いほうの金額を使って計算します。協会けんぽの標準報酬月額の平均は28万円。Aさんの退職時の標準報酬月額は30万円ですが、28万円で算出することになります。よって、40歳のAさんの任意継続保険料は月3万2256円です。

協会けんぽ(東京)の任意継続被保険者保険料

Aさんの場合、扶養家族が2人いることもあり、任意継続を選択したほうが月額1969円節約できることがわかりました。ただ、妻も40歳以上であったり、子供や配偶者がいない人であれば結果は違います。Aさんがシングルの場合、国保保険料は年間33万303円になり、月に換算した額が2万7525円になります。こうなると明らかに国保有利です。

それともう1つ。任意継続できるのは最長2年です。しかも保険料の計算のもとになる標準報酬月額は2年間変わりません。一方、国民健康保険は「前年の所得」をもとに計算するので、翌年は保険料が大幅に安くなる可能性があります。退職時は任意継続を選択したとしても、失業期間が長引いた場合は国民健康保険への切り替えを検討しましょう。

(4)いまの収入では家賃が払えない! そんなときは…

ハローワークに登録して就職活動を行っているのになかなか決まらず、預貯金が底をついてきた。そんなときは「住宅手当」を利用できないか、地方自治体の住宅手当担当窓口かハローワークに相談しましょう。

住宅手当とは、離職者であって就労能力及び就労意欲のある人のうち、住宅を喪失している人または収入の減少により喪失するおそれのある人を対象にした給付金です。

支給額は「家賃相当額」ですが、地域ごとに上限額および収入に応じた調整があります。たとえば東京都区市在住の単身者なら、月5万3700円が上限となります(収入8万4000円以下の場合)。支給期間は原則6カ月で、一定の条件の下、最大9カ月受給が可能です。

詳しくは厚生労働省HPをご覧ください。

(5)住宅ローンは「払えそうにない」とわかった時点で交渉を!

失業や病気、ケガ等により収入が減ってしまい、住宅ローンが払えそうにないと思ったら、すぐに融資先の金融機関に連絡し、ローンの条件変更ができないか交渉しましょう。金利の高い時代に借りていたものであれば、ローンを借り換えることで返済額を減らすことも。いずれにしても、落ち着いて、すみやかに対処することです。

ローンの条件変更には、「一定期間の支払いを毎月返済額の利息のみにする(または元金返済を減らす)」「返済期間の延長による返済額の軽減」「ボーナス返済の減額・とりやめ」などがあります。フラット35の場合、生活状況の変化などが生じた場合でも安心して返済が続けられるよう、さまざまな返済方法変更メニューが用意してあります。払えないことがわかったら、滞納する前に住宅ローンの融資を受けた金融機関の窓口あるいは住宅金融支援機構各支店又はお客様コールセンターに問い合わせ、自分が置かれている状況と要望をはっきり伝えましょう。

その他、銀行や労働金庫、信用金庫などのその他金融機関で借り入れた場合も条件変更の交渉は可能です。絶対にやってはいけないのは、滞納のまま放置したり、キャッシングなどを利用して返済すること。融資先の銀行との交渉が決裂した場合には銀行協会の相談窓口である「銀行とりひき相談所」に相談するのも一案です。

執筆者プロフィール : 柳澤 美由紀(やなぎさわ みゆき)

財布にやさしく、家計に役立つ知恵を発信するファイナンシャル・プランナー(CFP(R)/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/株式会社家計アイデア工房 代表取締役)。毎日感謝をモットーに、お客様のわくわく生活を全力でサポートしている。得意技は社会資源と各種シミュレーションを駆使したアドバイス。著書には『人生の引継ぎを考える方にアドバイスしたい70のこと(きんざい)』、『書き込み式 老後のお金の『どうしよう?』が解決できる本(講談社)』などがある。

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