「会社」は、人が集まって働く場所です。人が複数人で集まれば、そこには必ず人間関係が生じます。しかも、会社における人間関係は、趣味のサークルにおける人間関係などとは違い、ほとんどの場合ポジションによる「序列」が存在します。

たとえば、部長は課長よりも「えらい」と普通は誰もが思いますし、また、同じ部長でも花型部署の部長と日陰部署の部長では、花型部署の部長のほうが「すごい」と多くの人が感じます。僕はもともとインターネット系の企業に勤めていたのですが、そこでは新規開発のチームにいる人たちは花型で「すごい」人たち、既存サービスの運営部隊は「ふつう」の人たち、惰性で運営している非注力サービスの運営部隊は「微妙」な人たち……とみなすような空気が社内になんとなく存在していました。同期が花型の新規開発チームに異動になったりすると、結構なうわさになったものです。

こういった社内のポジションによる「序列」の話に、夢中になってしまう人たちがいます。「◯◯さんが✕✕部の部長になったらしい」とか、「同期の◯◯が今度海外勤務になるそうだ」といった情報を仕入れるスピードが異様に速く、ランチや飲み会の席でそんなうわさ話ばかりしている人があなたの周りにはいないでしょうか。うわさ話だけで済んでいるのであればまだいいのですが、時にはそのまま本格的に社内政治の世界に足を踏み入れてしまう人たちもいます。これはどうしようもなく不毛ですし、社畜的でもあります。

社内政治に執念を燃やす「腰巾着型社畜」

会社内でのポジション確保のために、社内政治に執念を燃やす社畜のことを僕は「腰巾着型社畜」と分類しています。この名前は社内政治のために「腰巾着」のように上司や先輩に媚びへつらっている姿からつけているのですが、別に誰かに媚びへつらうことがなくても、社内政治にばかり夢中になっている人はこの腰巾着型社畜に該当します。前述のように、社内の異動や昇進の話に関心を抱きすぎてしまうのは、腰巾着型社畜の予備軍と言ってもよいかもしれません。

そもそも、社内政治や派閥争いといった会社の中での権力闘争は、会社がずっと存続し続け、かつその会社に長期間勤め続けることを前提として行われるものです。こういったことに夢中になるということは、自分が「会社と自分を切り離して考えることができていない」ことを自ら証明しているのと一緒です。

社内政治の世界はどうしようもなく狭い

実際には、このような組織内のポジションによる序列は、その組織内だけのものでしかありません。花型部署にいようと日陰部署にいようと、一歩会社の外に出てしまえばそんなことはどうでもいいことです。その会社と特に関係がない他人には絶対にわかりません。

日本には現在400万社以上の企業が存在しています。あなたが勤めている会社は、その400万社のうちの1社でしかありません。そんなどうしようもなく狭い組織の中で「出世した」とか「花型の仕事を任された」とか言ったところで、世の中全体から見れば本当にささいなことです。自分が感じているほど、客観的には大事なことではありません。

他の会社に就職した大学時代の友人と久々に会って飲んだりすると、「社内の関心」と「社外の関心」のギャップがとても大きいことを実感することがあります。自分の会社における重要トピックは、多くの場合他の会社の他人にとっては「どうでもいい」ことです。それに気づかずに自分の会社のことばかり話していると、きっと相手はうんざりすることでしょう。会社という狭い世界にばかり閉じこもってしまうと、対外的に見た場合に「話のつまらないやつ」になってしまうかもしれません。

「出世」よりも「自分自身をどうするか」のほうが大切

企業の栄枯盛衰が早い現代では、社内で出世することの価値は大きく低下しています。昔であれば社内で出世することが自分の可能性を広げることに結びついたのかもしれませんが、今はそうではありません。「出世競争に勝ち抜いたと思ったら、会社が没落していた」ということだって普通に起こりえます。

こういう時代には、社内で出世することよりも個人としての自分をどうしていくかのほうが大切です。今所属している組織の存在を前提にした価値観に縛られるべきではありません。「この会社がなくなったらタダの人」という状態は、どんなに現時点で会社のいいポジションにいたとしても危険です。ある日突然、本当にタダの人になってしまうかもしれません。

そうならないためにも、時には社内からではなく、社外から自分がどう見えるかを考えてみるべきです。「他の会社でもやっていけそうだ」というイメージがまったく持てないのだとしたら、危機感を持たなければいけません。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。

(タイトルイラスト:womi)

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