投資の初心者が知っておくべきこと、勘違いしやすいことを、できるだけ平易に解説しようと思います。為替レート、株価、金利など、過去の相場を知ることは投資判断に役立つはずです。今回は、個人の投資家にも人気のある新興国通貨を取り上げます。

  • 為替相場の歴史 - 新興国通貨編(写真:マイナビニュース)

    為替相場の歴史 - 新興国通貨編

高金利や経済成長が魅力の新興国

世界的な低金利環境のもとで、比較的高金利の新興国が投資対象として人気を得るのは不思議ではありません。経済成長率の高さも魅力でしょう。ただし、新興国の通貨や金融資産は総じて先進国のそれらと比べて価格変動が大きく不安定であり、時に大幅に下落するケースがあるため、とりわけ注意が必要です。

1990年代に頻発した通貨危機

実際、1990年代には新興国で通貨危機が頻発しました。通貨危機とは、「債務返済能力への懸念等からある国の通貨の対外的価値が急激に下落することや、その結果経済活動に深刻な影響が及ぶ状況を指します」(日本銀行の「教えて! にちぎん」より一部抜粋)。

1994年12月にはメキシコ危機(通称「テキーラ・ショック」)、1997年7月にはタイや韓国などでアジア通貨危機、1998年8月にはロシア危機が発生しました。いずれも自国通貨の為替相場を米ドルに固定、ないし連動させており、インフレの抑制や安定的な資金流入を目的としたものでした。

しかし、経常赤字の拡大により、自国通貨に下落圧力が加わり、外貨準備が大幅に減少するなどして、為替レートの固定や連動を維持することが不可能に。そして、変動相場制への移行を余儀なくされ、その結果、自国通貨が大幅に下落しました。

1990年代には、アルゼンチンが1ペソ=1米ドルに固定するダラライゼーションを実施、ブラジルはレアルの対米ドル相場の減価ペースを緩やかにする管理相場制(クローリング・ペッグ)を採用しました。しかし、いずれも維持が困難となってアルゼンチンは2002年、ブラジルは1999年に(完全な)変動相場制へ移行しました。

以上のケースはいずれも、数週間から数カ月の間に、通貨価値が1/2から1/4になりました。固定相場制(あるいは管理相場制)というタガが外れて短期間に通貨が急落するという特徴があったのです。

近年の通貨安要因

2000年以降になると、多くの新興国が変動相場制へ移行しており、1990年代型の通貨危機は発生しにくくなっています。ただし、それは新興国通貨の為替相場が大幅に変動したり、急落したりしないという意味ではありません。とりわけ、経常赤字や対外債務が大きく、外国資金への依存度が高い国は、何らかのきっかけによって大幅な資金流出に見舞われる可能性があります。そうした国は自国通貨を買い支えるための十分な外貨準備を保有していません。

資金流出のきっかけになりうるのは、独裁政権にみられがちな経済政策の失敗、クーデターや大統領暗殺など国内政治の不安定化、周辺国との軍事紛争の勃発・テロといった、いわゆる地政学リスクなど様々な要因があるでしょう。

投資家に人気のあるトルコリラも下落

近年、個人投資家に比較的人気があるトルコリラは、2017年末から2018年8月にかけて、対米ドルで5割近く減価しました。その後、トルコリラは反発して落ち着きを取り戻しましたが、それでも現時点(7月26日)で2017年末の水準を33% 下回っています。これは、主な新興国通貨のなかで2018年にIMFの支援を要請したアルゼンチンのペソ(57% 下落)に次いで2番目の下落率です。

トルコでは、2016年7月のクーデター未遂後に、エルドアン大統領が政敵を排除して専制政治を進めました。そのなかで、財政赤字や経常赤字の拡大や大統領による中央銀行への利下げ要求、諸外国との関係悪化などがみられました。そして、昨年8月には、クーデター未遂事件に絡んで拘束された米国人牧師の解放を求めて米国が経済制裁を発動。トルコから外国資金が流出する決定打となりました。今年に入っても、トルコのロシア製地対空ミサイル配備によって、米国との関係に改善はみられません。

冒頭で、新興国は高金利が魅力と紹介しました。ただし、少しずつ利益を積み上げても、一気に損失に転じてしまう「コツコツドカン」とならないように注意する必要があるでしょう。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクエア 市場調査室 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などを経て、 2012年にマネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトで多数のレポートを配信(一部は口座をお持ちの方限定で公開)する他、投資家のための動画配信サイト「M2TV」でマーケットを日々解説。