世間を騒がせた大手飲食チェーンでの迷惑動画事件では、投稿者だけでなく企業側も重大な損失を被ったことは記憶に新しいところ。採用においても、企業は候補者の人間性やネットリテラシーに、よりセンシティブになっています。この連載では現役の調査員が、採用調査や問題社員のリスク調査といった「企業調査のリアル」をお伝えします。
「採用前調査」を導入する企業が増えている
現在の日本では、国内企業の半数近くが終身雇用制度を導入しているといわれているが、それも年々減少傾向にあるようだ。定年の引き上げや、労働年齢がどんどん長くなっている今、やりがいのある仕事や身に着けたいスキルを求め、短期間で転職を繰り返す若い世代も増えてきている。企業は、時間や労力をかけて採用したにもかかわらず、短期間で離職されてしまう傾向に頭を抱えているようだ。一方で、経験者の採用を求める企業は、ある一定の職務経験を持つ候補者を採用したいと考える。
面接や経歴書の印象もよく、即戦力として採用した人物が、期待したほどのパフォーマンスを発揮できず、問題を起こして辞めてしまうことも少なくない。それらを踏まえ、転職者のパーソナリティをより深く知るため採用前調査を導入する企業が増えている。前職での実績やコミュニケーション力を知ることで、入社後のイメージを掴む目的で利用する企業も多いが、根底にあるのは、問題を抱えているかどうかの見極めであり、よりよい良い人材を安定的に確保したいというのが企業の本心のようだ。
コロナ禍でリモート面接が増え、対面での面接に比べ候補者の人間性がわかりにくくなったという背景もあるが、転職回数が増え経歴や実績の確認が難しくなっている。企業がこれまでとは違った難しさを抱えるようになったことで、申告との整合性など自社で収集しにくい情報が取得可能な採用前調査に、今注目が集まっている。
新卒採用と中途採用における「採用前調査」の違い
新卒採用の場合は、候補者と面接した時の印象や、学生時代の活動から行動力や発想力などを検証し、将来性やパーソナリティを重視するが、中途採用の場合は、一定の職務経験とそのスキルも判断基準になる。職歴の数が多くあれば、転職を繰り返している理由が重要になり、候補者側も転職理由に何か隠しておきたい事情があれば、面接の場でその件に触れることも少ないであろう。
即戦力としての採用となれば、重要なプロジェクトに参加する以上、信頼のおける人物かどうかの見極めも重要になってくる。職務内容に合った人物を選んで採用しても合わなければ辞めていくが、今の時代、機密情報の取得目的で転職してくる人物が存在するなど、面接での印象や応募してきてくれた人物を無下にできないといった感情論では、もはや企業防衛の観点からも難しい状況になってきている。そのような状況を踏まえ、候補者が申告している経歴やパーソナリティも含め、詳細にバックグラウンドを把握する必要性が高まってきており、採用前調査を導入する企業が増えてきている。
次回は、採用候補者の調査依頼でつき止めることが出来たヤバイ事例を紹介する。