この観点から、一つの取り組み例をご紹介しましょう。それは私の古巣であるテレビ東京が実施している対策です。
テレビ東京は2009年の新型インフルエンザや2011年の東日本大震災などの経験からBCP(事業継続計画)を策定していましたが、それに基づいて新型コロナウイルスに関する対策本部を立ち上げ、いち早く今年2月の段階で「出社2割(在宅勤務8割))という目標を打ち出しました。
それ以来、段階的に在宅勤務者を増やしてリモートで会議や意思疎通を図り、出社の場合も通勤による感染リスクを減らすため時差出勤やフレックスタイムを活用しました。社長・役員以下、社員を2班体制に分け、もしA班が自宅待機になってもB班だけで業務が遂行できる体制にしています。
そのうえで「いざというときに、放送を継続しながら、どこまで出社を減らせるか」についてシミュレーションを重ね、3月には特定日を決めて全社を挙げ「出社2割」を模擬的に実行しました。
社内の感染防止対策も徹底してきました。本社の出入りの際の体温チェックや消毒液設置、マスク着用を徹底し、社内で「3密」を避ける工夫もしています。たとえば、生放送ではスタジオ内の人数を減らすだけでなく、OAの進行をつかさどるサブ(副調整室)にも人が密集しがちなのですが、その人数を減らすとか、映像素材を編集する編集室内の人数も減らすなど、テレビ画面に映らない部分でも接触を減らす努力をしています。
テレビ局というところは、普通の会社のオフィスに比べて格段に人口密度が高いと思います。私の現役時代の経験から考えても、こうしたことを実行するのは並大抵のことではないと実感しています。
番組の作り方も変えました。報道以外の番組で他局に先駆けてロケや多人数でのスタジオ収録を中止したのは、その代表例です。テレビ東京のバラエティ番組と言えば「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」「モヤモヤさまぁ~ず2」「家、ついて行ってイイですか?」など、ロケで成り立っている番組が多く、それを中止するというのは相当な決断だったと思います。
一連の対策によって、出社率は3割程度に減らしてきたということですが、これに加えて4月15日~20日を臨時休日にしました。報道局のニュース番組の担当者以外は基本的に全員休みとし、その結果、社員の出社率は約17%となり、目標の2割を下回りました。今後は感染収束が長期化する可能性を見据えて、業務の中長期的な見直しに着手するとのことです。
これらは同社の小孫茂社長が主導して実行しているそうで、3月の定例記者会見では「最終的には1割の出社でも可能ではないかと思っている」と語っています。