「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は前回に引き続き、アメリカ企業の情報発信を行う「アメリカ企業リサーチラボ」や、資産形成や投資、家計に関する疑問に答えるコミュニティ「FIRE研究会」を運営する加藤千明氏にインタビューを行いました。

加藤千明氏

幸せマネーライフの水先案内人-FPオフィスウィズ― 代表 CFP(Certified Financial Planner) 1級ファイナンシャル技能士 一種証券外務員 プライマリー・プライベートバンカー 1969年福井県生まれ。筑波大学第一学群社会学類(経済学専攻)卒業。 大学を卒業後、山一證券に入社し、本社企画部門勤務、個人営業に従事。東洋経済新報社に移り、入社後はエコノミスト・研究者向けの月刊誌編集部、業界担当記者(エレクトロニクス、化学)を経たのち、投資信託の情報提供とパフォーマンス評価を手がける。 その後、経済・マーケット情報の月刊誌編集長、都市情報ハンドブックの編集長を歴任。直近はアメリカ企業の調査や、アメリカ株・アメリカETFの情報を投資家向けに発信してきた。この間、東洋経済オンラインなど自社メディアでの執筆のほか、「月刊投資信託事情」「FPジャーナル」「地域開発」など外部メディア、他社機関誌への執筆多数。 2021年2月に、東洋経済新報社を退社し、独立。現在は、FP、経済アナリストとして執筆を中心に活動中。アメリカ企業の決算を中心とした情報提供を行う「アメリカ企業リサーチラボ」を運営するほか、「FIRE研究会」というコミュニティも運営している。

アメリカ企業が猛烈に成長し続ける3つの理由

――アメリカ企業が成長できるのには、どのような理由や背景があるのでしょうか?

加藤千明氏(以下、加藤氏):アメリカは世界ナンバーワンの経済力があり、数多くのグローバル成長企業を輩出してきた国です。新しいビジネスや新しい企業が、続々と誕生しています。移民を受け入れて発展してきた国なので、歴史的な背景も日本とは違っていると思います。アメリカ企業の株価は2022年になってから低迷していますが、長期では上昇していますから、投資先として有望だと考えています。

世界のGDPをみてみると、2000年の時点でも2020年の時点でも、アメリカがダントツで1位です。1990年代から安定成長が持続しています。その背景にあるのは、「移民による人口増加」「先端テクノロジーなどの競争力」「世界の基軸通貨であるドル」という、アメリカの成長を支える3つの主な要素です。

――確かに、グローバル企業と呼ばれる多くの企業はアメリカから輩出されていますし、アメリカで流行ったビジネスが数年遅れで日本に持ち込まれることも多いです。コカ・コーラもマクドナルドも、フェイスブックもYouTubeも、アップルもマイクロソフトも、グーグルもアマゾンもアメリカです。私たちの身近なところには、多くのアメリカ企業の商品やサービスがありますね。

アメリカ企業のスケールの違い

――アメリカ企業の場合、そもそも市場をアメリカ国内に限定していないと思います。いきなりグローバルに発想しているというか。日本のベンチャー・スタートアップ企業から「まずは日本市場で形にして、その後は海外展開を…」と事業計画の相談をされることがあるのですが、それでは遅いと思うのです。最初からグローバルでないと変化に対応できませんし、VCなどから資金調達するにしても、日本のVCからシード段階で調達していると、バリュエーションが高くてアメリカのVCが資金を出してくれない。結果、世界市場でスケールできない。web3やトークンエコノミー、リアルエコノミーの事業にしても、今はある意味で世界はフラット化しているわけですから、「日本発」とか「日本市場から段階的に」というのは、事業内容によっては不要な発想だと感じます。

加藤氏:アメリカ企業について調べていると、アメリカの寄付文化やダイナミックさに驚かされます。M&Aが非常に盛んで、上場していても買収されるわけです。VCも規模が違っていて、世界市場でスケールさせるにはアメリカのVCから資金提供を受けるのが近道なのではないでしょうか。

――ハイテク系の国際会議として知られるTEDで、2003年にこんなことがあったそうです。未完成の「グーグルアース」を開発中の2人の技術者が、TEDで10分ほどプレゼンテーションをしたみたいで。シリコングラフィクスという会社で開発を進めていたそうですが、部門が閉鎖されて解雇され、TEDに登壇したようです。10分ほどのプレゼンを聞いて、グーグル創業者の一人が小切手を取り出して「いくらでも書いてくれ」と言って技術者に渡したと。2人の技術者は戸惑っていて、結局グーグル創業者が書きこんだのが「5億ドル」という巨額の数字だったそうです。スケールが違いますよね。

アメリカ株インデックス投資はブームなのか

――「ジェイソン流お金の増やし方」(厚切りジェイソン著/ぴあ)のベストセラーや、インデックスファンドの優位性について書かれた「投資の大原則 人生を豊かにするためのヒント」(バートン・マルキール、チャールズ・エリス著、鹿毛雄二、鹿毛房子 訳/日本経済新聞出版)などの書籍の影響もあって、アメリカ株のインデックス投資はブームになっている感もあります。「投資の大原則 人生を豊かにするためのヒント」には、投資・資産運用をするうえでの基本ルールについて以下のように書かれています。

【9つの基本ルール】
・お金は若いうちから定期的に貯めよう
・会社と国に資産形成を手伝ってもらおう
・不時の出費に備えて現金は用意しておこう
・保険をかけているか確認する
・分散投資をする
・クレジットカードのローンは使わない
・短期運用への衝動を無視しよう
・低コストのインデックスファンドを使う
・オーソドックスな分野に注目

金融教育や「貯金から投資へ」という国策もあり、投資・資産運用への関心は高まっていると思いますが、加藤さんはどう見ていらっしゃいますか?

加藤氏:マネーフォワードが行った2022年夏前の調査によると、投資・資産運用を検討している人は増えており、その投資先として「1位 投資信託」「2位 アメリカ株」「3位 日本株」と、日本株よりもアメリカ株が上位にきています。また、大手メディア誌でもアメリカ株に関する特集が毎月のように組まれるようになりました。私がアメリカ企業について調べ始めた2018年は、まだアメリカ株の特集は少なかったです。

投資先としては、やはりプロが目利きしてくれる投資信託は人気です。個別株に投資する人は一定数いますが、NISAやiDeCoなどの制度をフル活用したあとで検討する人が多いようです。日本株の投資信託よりはグローバル株の投資信託が良く、グローバル株の投資信託よりもアメリカ株の投資信託が良い、という人が多い傾向があります。

過去のパフォーマンスがエビデンスや投資先を選ぶ理由になっており、しっかりと調べて検討したうえで投資先を選んでいる人も増えました。「投資はギャンブル」と思っている人も、減ってきているのではないでしょうか。

投資信託のなかでもインデックスが人気で、書籍にもあるように長期投資の王道であり常識になってきています。積立設定をすればあとは放置して良いので、精神衛生的にも良いと思います。

ただ、ある程度投資の知識や経験のある人は、インデックス投資だけだとつまらなくなってしまいます。

――それで、個別株やよくわからない怪しげな投資に手を出してしまう人も多いですね。コツコツ長期で積立投資をしてきて、せっかく築いた資産を一瞬で失ってしまう人もいます。自戒の念も込めて。そうならないように、FPやIFAといったある種のコーチ的な伴走者が必要だと思います。2022年に入ってからは世界的に株価が下がっていますが、2023年以降もやはりアメリカ株インデックス投資が王道なのでしょうか?

加藤氏:2022年は良くありませんが、長期的にはそうだと思います。「ベトナム株ブーム」「インド株ブーム」「中国株ブーム」と、各国の株ブームは起こるのですが、まわりまわってアメリカ株に落ち着くのではないでしょうか。アメリカの企業に比べると、他の国の企業の情報は日本に入って来にくいと思います。情報が少ないなかで投資をするのは、かなりのリスクです。アメリカ企業は日本人にとっても身近な企業が多いですから、業績などの情報も収集しやすいです。

インデックスであれば、市場の成長に任せるということなので、長期的な資産形成につながります。ただ、レバレッジを利かせた商品はリスクもあるので注意が必要です。リスクを理解したうえで投資する分には良いのですが、「流行っているから」「インフルエンサーが紹介していたから」と安易に投資するのは危険です。

資産形成には長期的な視点は欠かせませんし、客観的な視点も欠かせません。そのためには、金融リテラシーを上げていく必要があります。FIRE研究会を通じて、そんな活動もしていきたいと考えています。FIRE研究会は、教えるというよりも楽しく一緒に学ぶスタンスです。わからないことをお互いに聞いたり、自主勉強をしたり。また、FPとしての得意分野を活かし、ライフプランニング・ゴールベースアプローチについてもしっかりと伝えていきたいと思います。