「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は、シンフォニーのアジアパシフィック地域 戦略・企画統括部長で金融マーケットインフラ・オタクの上原玄之氏に、「Web3時代におけるダイバーシティ」をテーマにインタビューを行いました。

上原玄之(うえはらつねゆき)氏

シンフォニーにて、アジアパシフィック戦略・企画担当として日本市場およびアジア地域での事業展開に従事。グローバル金融業界でのテクノロジーインフラやプラットフォームに関する経験を活かし、グローバルおよび日本の金融業界のコラボレーション・プラットフォームを通じた業務効率向上やイノベーションをサポートしている。 シンフォニー入社以前は、約20年間に亘りゴールドマン・サックス社にてグローバル規模のテクノロジープラットフォームの構築やワークプレースの変革に携わり、テクノロジープラットフォームを活用しての新しい収益の可能性の模索や組織の変革に貢献。2017年8月より現職。

Symphony Communication Services, LLC (本社:米国カリフォルニア州パロアルト、文中では「シンフォニー」と表記)

2014 年 10 月に世界の大手金融企業 15 社により共同設立されたシリコンバレー発のテクノロジー企業。効果的で安全性の高い単一のワークフロー・アプリケーションを提供し、企業やユーザーのコミュニケーション手段に変化をもたらしている。複雑なデータ・セキュリティの保護や、企業コンプライアンスを徹底しつつ、個人やチーム、あらゆる規模の組織の生産性を飛躍的に向上させるための支援を事業の目的としている。カリフォルニア州パロアルトに本社を置き、香港、ロンドン、ニューヨーク、パリ、シンガポール、ソフィア・アンティポリス、ストックホルムそして東京でもオフィスを開設して事業展開をしている。

金融DXを加速させるシンフォニーのテクノロジー

――上原さんは、「金融マーケットインフラ・オタク」と自称されており、長く金融業界に携わっていらっしゃいますが、「金融はアナログでDXが進みにくい」と言われがちな日本の現状について、どう感じていますか?

上原氏:金融業界は、顧客情報の漏洩リスクや、そのリスク対策の意識が非常に高い世界です。業界では、「セキュリティ・コンプライアンス」と呼ばれ、そのニーズが高い。情報そのものが価値であり、情報漏洩はあってはならないことです。その前提がありますから、コンシューマー(一般消費者)が日常的に使っているSNSが使えないという事情があります。

クラウドなどの技術の発展によって、コンシューマーが普段活用している技術の方が、金融業界の社員たちが業務で活用する技術よりも先進的になっています。技術的には素晴らしいものがたくさんあるのにも関わらず、それを活用できないジレンマです。前職のゴールドマン・サックスでもその問題に直面しており、社内ですら情報の流れが悪いことに課題を感じていました。2012~2013年頃のことです。それで、社内の情報共有プラットフォームを自分のチームで作っていたのです。

金融業界では、今でもコミュニケーション手段が電話やFAX、メールが主流だったりします。セキュリティ・コンプライアンスの観点からは、DXと相性が悪い。ですが、そこに居続けるのはナンセンスです。「社内の働き方を変えないといけない」という意識は、多くの金融機関であることですが、1社では解決できません。ですから、業界全体を巻き込む必要があります。

――そのときの問題意識や経験が、今に活きているわけですね。

上原氏:そうですね。この問題は1社だけの問題ではなく業界全体の問題だと。2014年に業界のコンソーシアムが立ち上がり、世界の最大手金融が共同出資してシンフォニーを立ち上げました。僕が担当していたゴールドマン・サックスの情報共有プラットフォームがシンフォニーの一部になり、金融業界をつなぐプラットフォームになりました。それで、2017年に僕もアジアや日本での展開をサポートするために移籍したという経緯です。

金融業界では、今でもコミュニケーション手段が電話やFAX、メールが主流だったりします。セキュリティ・コンプライアンスの観点からは、DXと相性が悪い。ですが、そこに居続けるのはナンセンスです。「社内の働き方を変えないといけない」という意識は、多くの金融機関であることですが、1社では解決できません。ですから、業界全体を巻き込む必要があります。

――「1社では解決できない」というのは、どのような事情があるのでしょうか?

上原氏:金融業界とひと口に言っても、銀行や信託銀行、証券会社、保険会社などさまざまな企業があります。それぞれの金融機関は、1社だけで業務が完結するわけではありません。例えば、仕組債を購入したいと顧客が思ったとき、顧客からIFAに連絡が行き、IFAから証券会社の担当窓口に、証券会社の担当窓口からさらに社内の担当者へ…と情報がつながっていくことになります。1社だけがDXを実現してもダメで、金融業界全体がDXしないと顧客へのエンドユーザーフレンドリーも、金融業界内のユーザーフレンドリーも実現しないというわけです。

――なるほど、確かに部分的にDXしてもアナログな部分が残っているとシームレスとは言い難いですものね。上原さんがゴールドマン・サックス時代に作っていた社内の情報共有プラットフォームは、どのようなものだったのでしょうか?

上原氏:社内ツイッターのようなイメージです。当時、社内の情報の流れに非効率さを感じていて、人づてにほしい情報を探す必要がありました。ところが、社内では「ほしい情報を検索して探す」という普段していることができない。それで、社内情報を共有できるようにしました。そのプラットフォームが、シンフォニーのベースになっています。

――導入しているのは、メガバンクなどの大手金融機関ですが、プラットフォーマーであるシンフォニーに情報を見られてしまうリスクなどを金融機関側は感じていないのでしょうか?

上原氏:シンフォニーはエンドツーエンドの暗号化の技術を活用しており、顧客が暗号化の鍵を所有する仕組みを持っているので、安心してご利用いただいています。当時は、最近でいう「Web2」や「Web3」という言葉はなかったのですが、フェイスブック(メタ)やグーグル、アマゾンなどのプラットフォーマーが現れたWeb2時代ではなく、分散型・非中央集権型のWeb3にも適応していくことができるのがシンフォニーだと今となっては感じています。

シンフォニーでは、金融のあらゆる社内・社外のプロセスを効率化することを目指してます。金融で数少ないオープンで、ヒトとヒト、ヒトとアプリ、ヒトとデータなどをつなぎ、業務を効率化、自動化できるプラットフォームです。各企業様が自社のデータやカウンターパーティとのつながりなどを活用して、業務の効率化や顧客に対して今より良いサービスを提供できる仕組みを持っていますので、どんどん活用していただきたいです。

――シンフォニーのプラットフォームは、時代に先行している仕組みですね。プラットフォーマーと聞くと、どうしても「情報を盗られている」感覚を覚えてしまうところもあるのですが、Web3時代のプラットフォーマーを体現しているのがシンフォニーなのかもしれませんね。

オープンAPIでビッグデータを活用できるように

――現在どのくらいの金融機関が導入しているのでしょうか?

上原氏:世界で1000社以上の金融機関に活用されており日本でもメガバンク3行、大手証券、オンライン証券、信託銀行、運用会社などを接続しています。各エリアで、今まで可能でなかった社外とつながったフローの効率化、自動化が進んでいるところです。メガバンクですと銀行、証券、信託や、システム的につながっていなかった海外法人との接続であったり、運用会社と業務をアウトソースしている信託銀行や運用会社と証券会社なども接続できるようになっています。

――Web3では代替金融や新しい金融として暗号資産を含むさまざまなトークンエコノミーが生まれているのですが、既存の金融に比べればまだまだヨチヨチ歩きなのだと思います。Web3企業に対する規制緩和などが日本でも議論されていますが、まだどうなるかわかりません。今後は、暗号資産取引所などの新しい金融と、銀行・証券会社・保険会社などの既存金融との橋渡し役をシンフォニーが担うという期待も感じるのですが。

上原氏:既存の金融には、マネーロンダリング防止などこれまで築き上げてきた歴史があります。経済圏が壊れないようにするために規制があり、何重ものプロテクションをかけているわけです。規制があるがゆえに不便さを感じることもありますが、良いところもありますから、お互いから学んで良いところを活かし合う関係性が良いと思います。

海外では、暗号資産のETFなどの金融商品化が進んでいますが、そうなるとシステムでつなぐ必要も生じてきます。良いところを学び合いながら、歴史と革新の融合ができると良いですね。

――暗号資産の経済圏を含めてビッグデータが集まるようになれば、金融サービスの幅も広がりそうですね。

上原氏:シンフォニーはオープンAPIを持っているので、異なるシステム同士をつなげることができます。クラウドにつなげると、チャットボット(ロボット)を活用できるようになります。広大なデータを活用できるようになれば、今は思いつかないような新しいサービスが生まれる可能性も高まりますね。

(後編に続きます)