「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。

今回は、2011年頃からバングラデシュに注目し、現地で不動産事業や金融事業を展開してきた豊田善補氏にインタビューを行いました。

豊田善補氏

ベイトレイル株式会社CEO。新卒で株式会社パソナに入社し、VCや株式会社エス・エム・エスに転職。その後、起業したヘルスケア系HR会社を上場関連企業へM&Aで売却。現在、日本ではHR産業の次世代型エコシステムを作りながら転職や起業支援、M&A支援、スタートアップ・ベンチャー投資を行うほか、海外では中国とバングラデシュで不動産&金融投資を行っている。人生経験やビジネス知見のデジタル図書館『ユアログ』を運営中。

詐欺だと思われていたバングラデシュ投資

――豊田さんは11年も前からバングラデシュで事業をされていますが、よくその頃からバングラデシュに注目していましたね。なにかきっかけがあったのでしょうか?

豊田善補氏(以下、豊田氏):2011年頃は、「バングラデシュってどこの国?」というくらい、日本人にはあまり知られていない国でした。ASEANにも属していませんし、バングラデシュに関する情報もほとんどなかったと思います。

きっかけは、「海外でマイクロファイナンス事業をすると儲かるらしい。怪しいけど、とりあえずバングラデシュに行ってみて」と先輩に言われたことです。それで、現地を案内してくれたのが今では重要なビジネスパートナーで、JBS という現地法人グループを一緒に経営しているホセイン・カマルさんでした。カマルさんは、日本では株式会社クリエイティブの代表取締役を務めており、バングラデシュ進出支援やバングラデシュ不動産投資のセカンドオピニオンサービスなども行っています。

バングラデシュに来てみて最初に感じたのは、「経済状況や貧富の格差などの問題はあるけど、人口が多い。資本主義であれば、放っておいても伸びる。大国のインドの隣りにあって地政学的にも良い。これは、なにか現地でやっておいた方が良いのではないか」ということです。日本人はまだだれも来ていないし、面白いと思いました。ユニクロの柳井さんが「チャイナ+1」と言っていて、中国以外の国にも進出すべきと一部の人は当時からわかっていたと思います。それで、自分はバングラデシュにしました。

最初はアパレルのOEMを始めたのですが、全然儲からなくて。それでKamalさんに「どんな事業なら儲かるか?」と聞いて不動産事業を始めました。騙されるつもりでスタートしたのですが、良い誤算で土地の売買が成立して。正直、利回りはどうでも良かったですね。海外でなにか事業をするのがとにかく楽しいという感覚でした。

その後、ミャンマー投資ブームとともに2013~2015年頃に日本でもバングラデシュ投資ブームがありました。日本人コンサルタントがバングラデシュの人や企業と組んで日本人に不動産投資案件を勧誘・販売していたのですが、数年が経過してトラブルになっているケースもあります。私たちも10名以上の日本人から相談を受けています。「5~6年で倍になると言われたが、不動産会社と連絡が取れない」「不動産登記がおかしい」など、海外不動産投資ではよくあるトラブルです。少し取り戻せているケースもありますし、投資元金を回収できたケースもあります。

私たちのバングラデシュでの事業も約11年間、詐欺だと思われていたと思います。しかしコツコツと実績を積み重ねてきて、ようやく信用を得られるようになりました。

首都ダッカでプロジェクト数第1位を誇るまでに成長

――地道に積み重ねてきた実績が信用となり、商業銀行の設立にもつながったわけですね。バングラデシュでは、1つのライセンスでさまざまな事業ができるとか。私たちはインドネシアでデベロッパー事業を行っていますが、外資法人(PMA)にはさまざまな規制があります。「ネガティブリスト」と呼ばれる外資規制業種に関する情報があり、インドネシアでは外国法人・外国人が出資者 (株主) として事業展開する際の外資規制が定められています。外資の参入が全く許されない業種や、外資の上限出資比率が定められている業種もあれば、外資100%での事業参入が認められている産業もあります。バングラデシュはそのような規制はないのでしょうか?

豊田氏:もちろん規制はあるのですが、インドネシアよりも自由度が高いのかもしれません。バングラデシュでは、ローンサービスなどの銀行業、建設や物件管理などの不動産業を1つのライセンスで全てでき、自社グループで行うことができます。不動産事業からスタートしましたが、今ではBengal Commercial Bankという商業銀行も共同オーナーとして展開しています。首都のダッカでは、不動産開発のプロジェクト数で第1位になり、100名以上の投資家にJBSグループへ投資していただいています。

現地での雇用も多く創出できており、総勢700名ほどのグループになりました。SDGsやESGの観点からも、雇用創出ができたことはバングラデシュへの貢献という面でも意義があると感じています。バングラデシュ政府の信用もつき、「日本人ががんばってくれているね」と、進出して8年目くらいからは好感を持ってもらえるようになりました。

バングラデシュは人口も多いですし、勤勉な気質もあって経済成長する要素はたくさんあると思います。資源はないのですが、人が最大の資源ですね。商業銀行はIPOを目指していきますし、不動産開発もバングラデシュでシェア1位を目指していきます。

バングラデシュは、「投資」よりも「実業」

――海外進出しても早々に撤退するケースは、大手や中堅、中小零細、個人など企業規模に関わらず多いと思うのですが、豊田さんたちが現地で事業を続けられている理由はなんだと思いますか?

豊田氏:投資というよりも「実業」と捉えているからだと思います。自分たちがしている事業はソーシャルベンチャー事業で、現地で雇用も生んでいく実業です。海外投資で撤退するのは、「投資で騙された」と捉えるから。お金のつながりはしょせんお金だけなんですよ。

2016年に起きたダッカのテロで、その前にバングラデシュに進出していた外資はみんないなくなりました。でも自分たちは撤退しなかった。目的がお金儲けだけだと、すぐに撤退すると思います。自分たちは実業として経営をしているわけで、従業員の生活がありますし、サービスも提供していてお客様もいる。それなら、事業を続けて利益を生んで現地に還元することが重要です。そこはブレないし、ブレてはいけない。

事業に熱意を持って、その国の社会の仕組みや価値観、文化の違いを楽しみながら続けていけば現地で信用を得られるようになって、人的なネットワークや日本人に対する良いイメージなどが資産になっていきます。それをバングラデシュで体感している最中です。

高度成長期をバングラデシュで体感中

――豊田さんとお話していると、現地で本当に楽しんで事業をされているのがわかりますね。

豊田氏:日本にもかつてあった高度経済成長期をバングラデシュで体感できてますね。躍動感というか、「渋沢栄一が銀行をつくったときって、こんな感覚だったのかな」とか「戦後の高度成長の頃って、こんな光景が広がってたのかな」とか。歴史の1ページを現地で体感できるのが本当に楽しいですね。この経験は、他のビジネスや投資にも活きると思います。

お金儲けだけが目的なら、最近であれば暗号資産でも良いわけですけど、それだけではつまらない。知らないことを知るのも楽しいですし、語学や社会、ビジネス、異なる価値観を学べるので収益以外の豊かさも得られます。

経済が成長していれば不動産の価値が落ちるはずがないし、人口が増えている国で、今は1億7000万人ほどですがやがては3億人を超える可能性もある。しかも65%が20代という良い形の人口ピラミッド。それでいて国土が狭い。親日なので現地に行っても仕事がしやすいですし、外資100%で進出できる。これほど良い環境は、なかなかないと思います。

――バングラデシュの情報はまだまだ少ないですが、豊田さんの積み重ねてきた実績がバングラデシュへの投資や進出を加速させるかもしれませんね。