漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。

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久しぶりに全くピンとこないテーマが来たので、いつも通り、カスのようにググったところ、日本で「発泡酒」というのは主にビール風アルコール飲料のことを指すことがわかった。

そして、ビール風飲み物にはもう一つ「第三のビール」と呼ばれる、額や古傷が痛む飲料があるらしいのだが、当然アルコールなので中学2年生は飲んではいけない。

よって、先ほどからウィキペディアの「ビール」と「発泡酒」と「第三のビール」の項目を反復横飛びしているのだが、何一つ頭に入ってこない。

このように人間というのは、興味がないことになると脳が急に「今日は自習」と言われた小学2年生男子が取り組んだプリントぐらい雑になってしまい、平気でチワワとポメラニアンぐらいなら「同じもの」と判断してしまう

ビール好きからすると、ビールとそれ以外は、小便と橋本環奈の小便ぐらい違うのだろうが、そういう「わかってない奴」に対し怒るのはほどほどにしておいた方が良い。

興味というのは人それぞれなので、おそ松さんを見て「全部同じ顔じゃん」と言った瞬間、いつもは呼吸しているのかすら不明な痩せギスの女が、突然、愚地独歩の顔になって襲い掛かってきたら「困惑」の一言だろう。

他にも「お好み焼きと言えば大阪と広島があるね」と言ったら間髪入れず大阪人に「広島のは広島焼きです」と何故か標準語で訂正を入れられたりと、誰もが1つぐらい「これとこれを一緒にされては困る」というこだわりを持っているものだ。

しかし、「このおこだわりお前にもやるよ!」と言っても大体の人間には困惑されるか、迷惑がられることの方が多い。

むしろ万人に理解できないからこその「こだわり」であり、元々こだわりとは自己満足なのだ。

わからない奴に怒ったり、わからせようとするのではなく、こいつには全部一緒に見えても、俺には松が全部違って見えてるし、この松とこの松がつきあっているように見えているならそれで良いじゃないかと自己が満足できていればそれでよいはずだ。

よって、わかってない奴のわかってない発言はスルーすべきであり、刃物を取り出していいのは、わかってない奴が、さもわかっている風に語り始めた時だけである。

よって、ビールを飲めない私は、この3つの飲料の違いが全くわからないのだが「ビールは高い」ということだけは辛うじて知っている。

おそらく、発泡酒や第三のビールが魔法陣から召喚されたのも、ビールが高いため、安価かつビール気分を味わえるものの需要があったからだろう。

つまり「発泡酒」はカニカマ的なもので、カニカマがカニカマという食べ物としてもはや独立しかけているように、発泡酒もビールではないが、これはこれでアリな飲み物になってきているのだろう。

しかし、何せビールが飲めないため、発泡酒の良し悪しもわからない。

和製マイケルジョンソンと言われても、ジョンソンを知らなければ何も思い浮かばないし、ジャクソンの顔が思い浮かんだらもうそれを消すことはできないし、寂聴が出て来たらその日はもう寝るしかない。

ビールを飲んだことがないわけではなく、何回か飲んだことはあるのだが、一度も美味いと感じたことがないため最近ではトライすらしなくなっている。

そもそも今年になってからアルコール類自体口にしていない気がする。

私が酒を飲むのは専ら仕事上の酒席なため、コロナウィルスの影響でおいそれ集まれなくなって以来全く飲んでいない。

そもそも私が酒を飲むのは酒の味が好きなのではなく、酒を飲むことにより周囲とのコミュニケーションを円滑に行うためだったのだが、最近「酒の力によりコミュニケーションが円滑になっている幻覚が見えていただけ」という説が有力になっており、他人からはやたら便所が近いコミュ症にしか見えていなかった可能性が高い。

よって最近では酒席でもあまり飲まないし、まして1人の時は、ただ自宅の便所と部屋を往復するだけになるので、いよいよ飲まない。

もはや酒から卒業しかねない勢いなのだが、みながストロング○を飲むのは、味が好きだからではなく、むしろ味含めてすべてをわからなくさせるためということは、私の中であまりにも有名である。

今後酒の味がわかることはなくても、何もかも忘れたくなる可能性は十分にあるのでその時はまたお世話になろうと思っている。

しかし「ビール」は割と「覚醒型」とも聞いている。

違法という意味ではなく、ある日突然飲めるようになることがあり、30半ば過ぎてから飲めるようになり、好物になったという者もいる。

人間、年を取ると「成長」はしなくなるが、いくつになっても「覚醒」はする、ということである。

しかし1本200円以上もするような飲料を今更好きになるのも困る気がする。

法に触れているような性癖なら、一生覚醒しないままの方が良いように、私もこのままビールには覚醒せず好きな飲み物は「水道水のロック」と答える人生の方が幸せなのかもしれない。