また最近、芸能界に空前の薬物ブームである。

ただ、今になって薬自体が芸能界で流行り出したというわけではなく、前々から「密かな大ブーム」だったのだろう。それが下世話なニュースサイトによく挟まっている「あのモデルが宿便どっさりで大炎上!」みたいな、微妙に言葉の使い方を間違っている気がする広告レベルでカジュアルに公になりはじめただけ、という感じもする。

つまり、薬物ブームというより「逮捕ブーム」なのかもしれない。

特に話題になったのは、沢尻エリカ、田代まさし、オリンピック元日本代表の国母選手、といったところだろうか。

もはや、そんじょそこらの芸能人の薬物逮捕では驚かなくなっている我々である。

しかし、田代まさしでステージが温まったところに沢尻エリカが登場した際は、目の肥えたオーディエンスもさすがに失神せざるをえなかった。

よってこのタイミングで沢尻エリカが逮捕されたのは「陰謀」だとさえ言う人もいる。「宇宙人の仕業」という、モルダーが疲れている案件ではない。

今話題になっている「桜を見る会」の話をうやむやにするため、ここぞとばかりと沢尻エリカが逮捕されたのだという。

いつもどおりのワイドショーもあれば、ずいぶん変わった部分もあり

確かに、新婦が昭恵婦人でも、新郎友人席に沢尻エリカが座っていたらみんな横目でそっちを見てしまうだろう。しかし、大きな芸能ニュースが出る度に「これはあの政治問題をもみ消すための陰謀だ」という言う者が出てくるのは常である。

しかし今回の「沢尻エリカ逮捕陰謀説」を元首相も唱えているという点が、余計スカリーの言葉を失わせている。あなた疲れてるのよ。

芸能人の薬物ニュースがワイドショーを席巻するたびに「他に話題にすべきことはある」という声も上がる。

確かにそうなのだが「薬物という誰も傷つけない犯罪よりも、他に罰するべき人間はいる」という話にまで及んでいる時がある。ドラマの降板や差し替えなので、傷つけたかどうかは別として、他人に迷惑をかけているのは事実である。他にもっと罰するべき奴がいるのだから、薬物ぐらいは不問、というすり替えではなく、もっと罰すべき奴も、薬物も等しく処せ、というのが正しいだろう。

また今回の薬物逮捕ラッシュでわかったのは、薬物ニュースの報道の仕方も、ずいぶん変わってきている、ということだ。

田代まさし逮捕も、三回目ぐらいまでは「神降臨」と、ネットでは完全におもしろニュース扱いだった。テレビでもコメンテーターが「意志が弱い」と糾弾し、旧知の仲の芸能人にインタビューし「あいつは大馬鹿野郎です」と言わせるのが定番だった

だが現在のニュースでは「意志が弱い」「もっと厳罰にしては」という意見よりも「薬というのはもはや意志の問題ではない」「厳しい罰を与えれば治るものではない」と専門家がコメントしていることが多い。「シャブ中って本当に嫌ですね」という他人事方向から「薬はマジで怖い」「病気なんだから治療が重要」「誰でもはまる可能性がある」という当事者方向にシフトしてきているように見える。

これは、長年薬物依存の更生に携わる人が「薬はそういうものではない」「お前ら根性論とか大嫌いだろ、薬物依存治療もそれと同じだ」と再三言い続けてくれた成果だろう。

そして、どんな言葉よりも薬物の怖さを知らしめてくれたのは、やはりエリカ様だ。

33歳となったエリカ様の姿を見た瞬間「こんなに美人でも薬をやってしまうのか」というバカ田大学8浪みたいな感想がでた。

美人なだけではなく、今では女優としての地位も築いている人である。そんな人ですらやっている、と考えると、自分がクスリをやっていないのがもはや「不思議」のレベルですらある。

そういう、美貌や地位を持っている人でも、全て失うリスクがあるとわかって薬をやり、やめられない、というのは、何よりも雄弁に「薬は意志や心の問題ではない」というのを表している。

ちなみにエリカ様の美貌を見て「10年前から常用してあの美貌は、よほどストイックに己を律して使っていたのだろう。ライフスタイル、というのもあながち吹かしではないかもしれない」という、逆に意志が強い説、すら出ている。

意外と誰でも一寸先は闇になるのかもしれない

ともかく意志が関係するのは「最初の1回に手を出すか否か」までで、1回手を出してしまえば、抜けだすのは容易ではないということが良く分かった、今回の逮捕ラッシュである。

またその「初回」も「クスリをやるぞやるぞやるぞー!」という確固たる意志でやっているわけではなく「軽いノリ」「興味本位」「半ば騙されて」というケースが多い。誰でも手を染めてしまう可能性があるのだ。

先日ツイッターで「『MDMA』はこういうカワイイ形をしているから女の子は気をつけて!」というカラフルな錠剤の写真が流れて来た。

それに対し「女は可愛かったら、よくわからん錠剤を口に入れると思ってんのか」という怒りの声もあがっていた。

全くその通りだ。私のように可愛くなくても、とりあえず道に落ちている食い物は口に入れる奴だっているのだから、それは失礼である。

しかし、それも薬に対し「クラブとかで、陰茎の裏にまでタトゥーが入っていそうな男が、これマジでヤバいから」と勧めてくるもの、というイメージがあるから「そんなもの自分は口にしない」と思えるのだろう。

しかし、それこそエリカ様みたいなVERY妻のママ友に美容相談したら「このサプリすごく効くよ」と言って渡されたら、何の疑いもなく飲んでしまうのではないだろうか。

もやは、薬物というのは、怪しい場所で怪しい人間が勧めてくるものではなく、このぐらいカジュアルに日常に潜んでいるものなのではないか。

今回の薬物ニュースも「他人の祭」などとは思わずに「いつ自分が神輿に乗せられるかわからない」という当事者意識を持った方が良いだろう。