ヨーロッパでは多数の国際夜行列車が運行されている。一時期、日本と同じく国際夜行列車の減便が相次ぎ、2016年にはドイツを中心に運行されてきた「シティナイトライン」が運行を終了した。このまま国際夜行列車は消滅するかと思われたが、近年は息を吹き返しているという。

  • チェコ・プラハとポーランド・ワルシャワを結ぶ国際夜行列車に乗車。前方の車両は、中央に「Sleeping Car」と大きく書かれたチェコ鉄道の車両。後方に見える色の異なる車両はポーランド鉄道所属の車両

今回、日本ではあまり知られていないと思われるチェコのプラハとポーランドのワルシャワを結ぶ中欧の国際夜行列車について紹介したい。

■ワルシャワ・コシツェ方面⾏の夜⾏列⾞、70分遅れで発⾞

現在、オーストリアを中心とする国際夜行列車は、「シティナイトライン」の一部路線を引き継いだオーストリア鉄道とそのパートナー会社によって運営されている。列車種別に関して、オーストリア鉄道が運行する列車は「ナイトジェット NJ」、パートナーの鉄道会社が運行する列車は「ユーロナイト EN」となる。筆者が乗車した列車は、チェコ・プラハ発ポーランド・ワルシャワ行の「EN443」だった。

  • チェコ領内プラハ~ボフミーンは「スロバキア号」、ポーランド領内ボフミーン~ワルシャワ間は「ショパン号」として運行される

この列車はチェコのボフミーンまでスロバキアのフメンネー行の列車と併結し、ボフミーンでウィーン、ブダペストからの列車を併結する。なお、プラハ~ボフミーン間はEN443「スロバキア号」、ボフミーン~ワルシャワ間はEN406「ショパン号」と列車番号が変わるが、当記事では便宜上、「EN443」で統一したい。

EN443はプラハ中央駅22時15分発だが、なかなか電光掲示板に列車名が表示されない。22時頃になって、駅の電光掲示板に「50分遅れ」と表示された。日本のように遅延の詳細な説明はなく、電光掲示板に新たな情報が表示されるのを待つしかない。最終的に遅延は70分まで拡大した。

  • 美しいプラハ中央駅の3階。かつては切符売り場だったが、現在はカフェになっている

  • 筆者は日本の代理店からEN443の切符を購入したが、チェコ鉄道のホームページからも切符を購入できる

  • EN443の欄に遅延時間を表す「70」が灯る。詳細な説明はなく、ひたすら待つしかなかった。プラハ中央駅にて

23時を回り、ようやく車内に入ることができた。列車は座席車と寝台車(1等寝台、2等寝台)を混合した編成で、車両はチェコ鉄道所属だった。筆者が乗車した2等寝台車は3段ベッド。ベッドメーキングはセルフサービスとなっていた。

3段ベッドなので寝台時は座席として使用できないが、中段ベッドを折りたためる。寝る分には上部が狭くなるだけで、2段ベッドでも3段ベッドでも変わりはない。テーブルの下にコンセントが2口あり、スマートフォンなどの電子機器を充電できる。

  • 2等寝台は3段ベッドとなっており、中段ベッドは収納できる

  • 車内は清潔だった。ベッドメーキングはセルフサービスとなる

  • 金具を使った鍵があるものの、操作性は良くない。黒い2つの取っ手を使い、鍵を開錠する

寝台内で驚いたのが二重ロック。ポーランド人に尋ねたところ、ポーランド~チェコ間の夜行列車は昔から盗難が多いという。寝台内に二重ロックはあるものの、室外から鍵をかけることはできない。金属の簡易式ロックは操作性が悪く、車内から「ガチャガチャ」という音が聞こえ、乗客が鍵の操作に悪戦苦闘していることがうかがえる。

車内にアメニティーグッズなどはなく、ミネラルウォーターのボトルだけが置かれていた。2等寝台車では車内販売や朝食サービスもなかった。

  • チェコ鉄道の車両にも関わらず、カーテンにはオーストリア鉄道の車両であることを示す「OBB」の文字が見られた

  • 2等寝台車の通路。外国人観光客も見かけた

カーテンを見ると、オーストリア鉄道の略称「OBB」の文字が読み取れる。現在はチェコ鉄道所属の車両だが、もしかするとオーストリア鉄道からの転籍組かもしれない。

■車内のトイレは垂れ流し式だった

23時25分、EN443はプラハ中央駅を発車し、ワルシャワに向けて走り始めた。車内はどの部屋も複数人が利用しており、全体の乗車率は7割程度といったところか。ただ、どういうわけか筆者の客室は筆者以外、ワルシャワまで誰も乗り込まなかった。

ほどなくしてチェコ鉄道の車掌による車内検札が行われる。チェコ、ポーランドともにシェンゲン協定に加盟しているため、国境審査はない。車掌から鍵の操作方法についてレクチャーされ、「車内は公共の場所なので盗難に注意するように」と念押しされた。

列車の走行速度は100km/hほどで、揺れは少なく快適そのもの。時間帯が深夜にさしかかったせいか、車内は寝静まった。

  • ポーランド第2の都市、クラクフの玄関口であるクラクフ中央駅

2等寝台車で一夜を過ごし、目が覚めると朝の6時30分頃になっていた。EN443はポーランドに入り、同国第2の都市、クラクフに向けて走っている。チェコとは異なり、きしみ音と警笛が頻繁に聞こえてきた。

6時55分、クラクフ中央駅に停車し、ここで多数の乗客が降りる。ダイヤではクラクフ到着時刻は6時17分となっていたので、まだ30分以上の遅れがあった。クラクフからはスピードが増し、路盤の良さを感じさせる。現にクラクフ~ワルシャワ間では、イタリア産の高速列車「ペンドリーノ」を使用した特急列車が運行されている。

  • クラクフ~ワルシャワ間は路盤も安定しており、駅も整備されている

  • 垂れ流し式トイレだが水回りは清潔に保たれていた

  • トイレ内には「ドアを閉めてください」と日本語でも書かれている

ところで、EN443に乗車する際にはトイレを利用するタイミングに注意したい。トイレ内には駅停車時に利用を禁じるステッカーが貼られており、日本では絶滅した垂れ流し式トイレであることがわかった。

■ビジネス利用は少なかったEN443

ポーランドの長距離列車を運営するポーランド鉄道の車掌が各部屋をノックし、列車が25分遅れで走行していることを伝える。プラハ中央駅を70分遅れでを発車したことを考慮すると、回復運転が功を奏したと判断していいだろう。結局、EN443はワルシャワ西駅に17分遅れの9時40分に到着。終着駅・ワルシャワ中央駅の手前にあるこの駅で筆者は降車した。

EN443は2等寝台車に限ると、車内は女性客や家族連れ、外国人観光客が多かった一方、ビジネス利用は少ないように感じた。ポーランド鉄道の乗務員によると、プラハ〜ワルシャワ間の夜⾏列⾞は遅れが頻発するという。遅延の問題を考えると、旧社会主義国間の夜行列車でのビジネスマン利用はしにくいものと思われる。余談だが、チェコ航空ワルシャワ19時35分発プラハ行き最終便はビジネス利用者で満席であった。