トマト缶で作るパスタソースはおいしいですよね。アンチョビとかパンチェッタ(塩漬け豚肉)等を足して豪華方向に振るのもいいけど、逆に引いていってミニマルな材料で作るとどうなるか? 実はこれが濃厚・美味ソースになるんです!
そこで今回は、少ない材料でささっと作れて、トマト缶本来のうまみを楽しめる缶たんトマトソースをご紹介します。ついでにトマト缶"もやもや問題"も解決しちゃいます!
「カット」と「ホール」何が違うの? もやもやを解決!
世に出回っているトマト缶は、大きく分けて「カット」タイプと「ホール」タイプの2種がある。カットは文字通りカット済みだから「調理するのにラクだな……」なんて理由で選んでいる人、それはNGですぞ。
実はカットとホールでは違う品種のトマトを使っている。カットとホールの違いについて、モヤモヤを解決しておけば、用途にあったトマト缶を選べるようになるというわけだ。
まず、カットは丸みをおびたトマト(普段見慣れているやつ)から造られる。歯触りがあって酸味もほどよく、そのまま食べても美味しい。だからサラダに入れたりオムレツの具にするといい缶じ。
一方、ホールは細長いトマト(いかにもイタリアっぽいイメージ)で造られていて、グルタミン酸の量が多くうまみが濃い。煮込むと美味しくなるので、トマトソースを作るならホールを選ぶのが正解なのだ。
ミニマルな材料で作る缶たんトマトソース
まずはにんにくをみじん切りにしてオリーブ油で炒める。何だかイタリアンの基本儀式のようだが、これで香ばしさと味の奥行きが出るのだ。焦げない程度に火を通したら一旦火を止めよう。
そこにホールトマトを入れる。ただちにヘラで崩したくなるが、ホールトマトは火が通らないとけっこう固い。火にかけてしばらく置いておけば缶たんに崩れるようになる。
このあとは終始弱火で15分煮詰める。この"煮詰める"という行為が、アルファにしてオメガなのであります。弱火でも汁がかなり跳ねるのでフタをし、端をずらして蒸気が抜けるようにしておく。ときどき底からかき回しながら15分ほど煮込むと約2/3の量まで煮詰まってくる。
この段階で塩を加えて好みの塩梅に調整すればソースの缶成! 使ったのはホールトマトにオリーブ油、にんにく、塩のみ。玉ねぎすら加えない。「せめて唐辛子を入れてくれ」とか「お願いしますチーズだけでも」と懇願する声も聞こえるが、ダメ。とにかくミニマルにいきます。
そして、茹であげたスパゲッティにトマトソースを絡め、黒コショウを振れば缶成! 彩りにバジルを乗せたけど、これもなくても良かったかも。
こんなにシンプルに煮詰めただけで美味しくできるのは、グルタミン酸のおかげ。トマト缶に使われるトマトは、完熟した真っ赤な実だけなので、生食用トマトよりグルタミン酸量が多いのであります。同様に、リコピンは約3倍、β-カロテンとビタミンCは約2倍。使わない手はない。
最後に、赤は強者の色でもある。武田信玄もウルトラマンも、シャア・アズナブルも赤を好んだ。巣鴨のお年寄りが元気なのも赤パンツのおかげだ(?)「明日のプレゼンが勝負!」というあなた。真っ赤なトマトパスタを食べて臨んでみてはいかが?
※今回のレシピは、トマト缶のメーカーや商品のこだわりはないので、缶詰情報はナシです。
黒川勇人/缶詰博士
昭和41年福島県生まれ。公益社団法人・日本缶詰協会認定の「缶詰博士」。世界50カ国以上・数千缶を食している世界一の缶詰通。ひとりでも多くの人に缶詰の魅力を伝えたいと精力的に取材・執筆を行っている。テレビやラジオなどメディア出演多数。著書に「旬缶クッキング」(ビーナイス/春風亭昇太氏共著)、「缶詰博士が選ぶ!『レジェンド缶詰』究極の逸品36」(講談社+α新書)、「安い!早い!だけどとてつもなく旨い!缶たん料理100」(講談社)など多数。
公式ブログ「缶詰blog」とFacebookファンページも公開中。