幼少期から熱血ドラマオタクというライター、エッセイストの小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第72回は俳優の竹財輝之助さんについて。現在『にぶんのいち夫婦』(テレビ東京系)に出演中の竹財さん。失礼ながら名前を聞いても「……はて?」と思う人が多いはず。ただ顔を見たら間違いなく「あ、この人!」と反応する、名バイプレイヤーなのです。

インテリスーツや嫌味っぽい役がきたら、竹財の出番

  • 竹財輝之助

最終的にぐっちゃぐちゃな人間関係になってきた『にぶんのいち夫婦』のあらすじでおさらい。

中山文(比嘉愛未)はパート勤務の主婦。夫の和真(竹財)と子どもを作って、幸せな未来を築こうとしていた矢先、夫の不倫に気づく。相手はおそらく会社の部下だろうと睨んでいたら、なんと相手は文の友人、畑野さやか(黒川智花)だと判明する。果たして夫婦はどんな決断をする?

テレ東の深夜帯にして、東海テレビ制作の昼ドラの香りがする雰囲気がたまらん『にぶんのいち夫婦』。爽やかなイメージの比嘉愛未さんが"サレ妻"を演じるのも新鮮で、毎週楽しみにしていた夏ドラマだ。ただこの作品、浮気要素のあるドロドロ感が面白かった理由ではない。物語全体を猛プッシュしていたのが、竹財さんの存在だった。

今回のコラムで芸能通の担当さんに「竹財さんって面白いですよね、演技について書いてみたいです」と話した。きっと顔を見なければ存在を知らないだろうと思っていたら「ああ、彼、ライダー系からデビューしましたよね」と、私よりも詳しかった。そう、細いボディラインに端正な顔立ちはライダー系の役がよく似合ったと思う。

彼の「何……この人……」という面白さに気づいたのが、私はだいぶ遅かった。デビューは2004年なのに、まじまじと気づいたのは『きみはペット』(フジテレビ 2017年)で蓮實先輩の役がきっかけだ。この作品は原作漫画も、TBS系で小雪さん主演として放送されたときも「この生き方は素晴らしい!」と食い入るように見ていた。放送中はドラマの主題歌だったV6の「Darling」を勝手に、自分のテーマ曲にしていたものだ。そのリバイバルであれば期待度は高まる。

竹財さんが演じていたのは、主人公のキャリアウーマン・巌谷澄麗の恋人役。蓮實先輩となって登場した彼は、前放送で演じた田辺誠一さんよりも大ハマりしているではないか。

ダブルヘッダーで浮気男を演じた、2021年夏

『きみはペット』をきっかけにして、竹財さんをチェックするようになった。あくまでインターネットだけの情報だけど、彼はとんでもない作品数にバイプレイヤーとして出演している。"職人俳優"という呼び方がふさわしいほど、あちこちに存在感のある名前がある。最近は『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)で、とわ子(松たか子)の初恋の人で登場したと言ったら思い出す人も多いはず。

彼はこの2021年の夏も光りまくっている。『ナイト・ドクター』(フジテレビ系)では、救命チームの女性ドクターの恋人・青山北斗を演じていた。「この人すっごいな(笑)」と笑ったのは、青山役でも恋人を裏切って、インフルエンサーと浮気。自身が経営するレストランのPRに利用していた。浮気……となれば、前出の『にぶんのいち夫婦』の和真役も同じく。しかも妻の友達に手をつけるどうしようもないクズ男。つまり、彼はこの夏ダブルヘッダーで浮気する男を演じていたのだ。

スーツ、インテリ、浮気男。クセのある役を次々と消化できる俳優もなかなかいない。おそらく彼の演技の伝説はまだまだ続く。できればもっと深掘りをした嫌味な役や、トリプルヘッダーの浮気男とか、二刀流のクズ男などをさらりと演じてほしい。