エンタメライターのスナイパー小林が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。第4回は女優の木村多江さんのことを書いていきます。現在放送中のドラマ『あなたには帰る家がある』(TBS系 毎週金曜 22:00~)では家庭に尽くす専業主婦だったはずなのに、不倫の恋に走ってしまった専業主婦・茄子田綾子を演じる木村さん。ストーカーと化した姿が、ホラー並みの怖さを誇ると巷で評判の女優さんについて。

声量も体重も低いのに、なぜか存在感だけは70キロ級

木村多江

木村多江

ほんの一瞬の気の迷い、出来心。不倫のことを男性はそう都合良く呼ぶけれど、その小さな優越感が本物の恋愛だと感じてしまったのが『あなたには帰る家がある』の茄子田綾子。木村さん演じる様子が「怖い」「(女として)うざったい」など話題を呼んでいる。

浮気が相手の妻・佐藤真弓(中谷美紀)にバレてしまうと

「妻の務めを果たさないくせに、要求ばかり不満ばかり。何を被害者ぶっているの?(中略)あなたじゃ癒してあげられない。かわいそう……秀明さん(玉木宏)、かわいそう……」

と、悪ぶりもせずむしろ秀明を被害者化。

茄子田夫妻との修羅場を経て、結果的に佐藤夫妻は離婚へ。すぐにでも秀明は自分と再婚すると信じて疑わない綾子は

「私、あなたを手放せない。たとえ、あなたに嫌われても。愛しているんだもん……私、秀明さんと生きます。そう決めたの」

と、逆プロポーズ。相手から嫌われていようと関係がない。

第8話の放送では秀明のアパートの合鍵を入手する綾子。部屋を訪ねてきた真弓よりも猛ダッシュで先回りして、お出迎えするというホラー映画の一幕を見せてくれた。

もう書いているだけでも恐怖である。けして一連のシーンでも木村さんは無駄に大声を上げることもしていない。もちろんオーバーな効果音だって利用していない。静かにそして艶やかにグイグイと相手に迫っていくだけなのだ。しかも彼女はいわゆる目が大きい、華やかな顔立ちではなくすっきりとした純正の日本顏。細面で声量も低めなのに、なぜかものすごい存在感だけを彼女から感じるのが私だけだろうか。

"薄幸女優"を外れない、敢えてのニッチ路線が功を奏する

"薄幸女優"のパイオニアを呼ばれている木村さん。どこかに華やかさが求められる女優という職業でありながら、敢えて彼女は静寂さを表現することにしているのが強いと思う。それが選んだものなのか、流れ着いたものなのかは分からないけれど、日本で唯一無二のポジションについたわけだからやっぱり彼女は……強い。

思えば『救命病棟24時』(フジテレビ系・2001年)のただならぬ雰囲気を醸し出す看護師役から、彼女独特の魅力が発揮されたというのが私の彼女の記憶。そして『カレ、夫、男友達』(NHK総合 2011年)では今回も夫婦役を演じている、ユースケ・サンタマリアと共演。DV夫からマヨネーズをかけられるという衝撃シーンを披露した。

"不幸=木村多江"のような縮図が出来上がったのを実感したのは朝ドラ『とと姉ちゃん』(NHK総合 2016年)の母親役だった。笑顔の優しい母親として日本の良妻賢母を演じていたのだけれど、物足りなさがあった。彼女はやっぱりしたたかに怖くあってほしい。木村演技のファンとしてはそう思ってしまった。だからこそ今回の綾子役は楽しくてしかたないし、原作を読むのももったいないとさえ思ってしまうのだ。

さて『あなたには帰る家がある』も最終回へ突入した。8話までの放送を見ていて、気になったのが綾子による"手作り料理攻撃"のしたたかさ。ここまで、主婦らしさをアピールするプロ級のバーベーキュー仕込み、秀明との別れ話を食い止めるためのトルティーヤ。そして自分の存在を示すメンチカツと、さまざまな料理で狂気の愛を表現してきた綾子。これ、昔でいう『東京ラブストーリー』(フジテレビ系 1991年)でさとみがカンチのために煮込んできた、おでんだろうか。次はどんなメニューが飛び出してくるのか放送が楽しみでならない。

スナイパー小林

ライター。取材モノから脚本まで書くことなら何でも好きで、ついでに編集者。出版社2社(ぶんか社、講談社『TOKYO★1週間』)を経て現在はフリーランス。"ドラマヲタ"が高じてエンタメコラムを各所で更新しながら年間10冊くらい単行本も制作。静岡県浜松市出身。正々堂々の独身。