コラムニストの小林久乃が、ドラマや映画などで活躍する俳優たちや、世間で話題の俳優たちについて考えていく、連載企画『バイプレイヤーの泉』。
第150回は俳優の迫田孝也(さこだ・たかや)さんについて。名前を聞いてもパッと顔は思い浮かばないかもしれない。でも『VIVANT』(TBS系・2023年)の丸菱商事・エネルギー事業部1課課長・山本巧役……といったら、何か脳内によみがえるものはないだろうか。そうそう、女性社員にセクハラ以上のことをしていた課長役で、オンエア中は一時期、炎上するほど話題になった方。でも今回、ご本人の情報を調べるために過去のSNS発信などを辿っていくと、とても愛らしい俳優さんらしいです。
カウント不能なほどの出演作
「迫田さん、いいよねえ。名バイプレイヤーの香りがする」 「私もずっと気になっています。彼が登場すると、物語が締まる」
ここ1年くらい、ドラマ好きの出版社のお偉いさんと私(要はおじさんとおばさん)で毎クール、ドラマ対談を配信している。お互いに好きなドラマや俳優について、ああでもないこうでもないと垂れ流すうように話しているだけなのだが非常に楽しく、最近、媒体としての人気もあがってきた。
バイプレイヤーの話題というと、これまでは野間口徹さんを応援していた。出演数がカウント不能なほどの活躍ぶりを見せていたけれど、ついに『VRおじさんの初恋』(NHK総合・2024年)で主演俳優へとジャンプアップ。もう我々が応援しなくてもスターだ……という状況を経て、目下の注目は迫田孝也さんだ。
鹿児島県出身、現在47歳。俳優として2002年の舞台デビュー以降、ドラマ、映画など多くの作品に出演している。注目はTBS系日曜劇場への出演本数がとても多いこと。日曜劇場といえば毎週末の21時から放送される、お父さんたちの活力を補給するドラマ放送枠だ。多くの話題作を排出して「ドラマのTBS」の名を支えている。
迫田さんは『99.9-刑事専門弁護士-』(2018年)、『集団左遷!!』(2019年)、『天国と地獄~サイコな2人~』(2021年)、『マイファミリー』(2022年)、『アンチヒーロー』(2024年)、そして現在放送中の『御上先生』と毎年のように、日曜劇場に役名つきで出演している。もう緑山スタジオの常連だ。
登場一発で「あ、怪しい」と思わせる存在感
『御上先生』では高校3年生の学年主任・溝端完役。どうやら国家公務員試験に落ちたという経歴がある。よって、ドラマの主役である文科省官僚であり、教師の御上孝(松坂桃李)の存在は気に食わない。御上がやろうとすることには逐一チェックを入れる。
「御上先生、(生徒の)神崎くんが理事長に詰め寄ったんです。なんで辞めたのが女性教師だったのかって。そのうえ、そのあと、行方をくらましています。(中略)まさかたきつけたのは御上先生じゃないでしょうね? 霞ヶ関文学ならもう結構です!!」
「何だってこう次から次へと(問題を起こす)!!」
勝手にライバル心を抱く相手に、全身でぶつかっていく溝端。そして上司である理事長には徹底的にゴマを擦るという、企業には必ずいそうな中間管理職である。こういった嫌味おじさんというのは物語には必要な存在だ。バイプレイヤーが嫌味であればあるほど、主役は引き立つ。時折、バイプレイヤーが目立とうとする精神を発揮して、中途半端な演技をしているシーンがドラマで散見されるが、彼に至ってはそういったことはない。立ち位置をよくわかっている。
だから人気の日曜劇場に愛されるのだと思う。毎年出演枠があるというのは、所属事務所の規模レベルの話ではない。「なんか嫌な学年主任の役……迫田さんだよね?」とスタッフの記憶に残っているからこその連続起用だ。
私は迫田さんが全身で不機嫌そうにしている様子、登場だけで怪しさを感じさせる存在感が大好きである。今後も各局から送られてくるドラマデータを見ながら「迫田さんいるかな」と名前を探す。そして五十路までには彼に主演作が巡ってきますように、と小さく祈る。