きょん

幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第120回はお笑い芸人のきょん(コットン)さんについて。『キングオブコント2022』で準優勝ながらも、今"テレビでしょっちゅう見る人"に躍り出た彼。バラエティー番組だけではなく、このたびついにドラマへ進出を果たした。わずかながらの出演シーンながらも、強めキャラを噴出していたので、応援の気持ちを込めてコラムを一筆。

強烈アパレル店員役に度肝を抜かれて

まずは出演中のドラマ『下剋上球児』(TBS系 毎週日曜 21:00~)のあらすじを。

実績ゼロの越山高校野球部が、甲子園優勝を目指して進んでいく物語。教員無免許騒動を経て、部員の熱烈なリクエストから監督に復帰した南雲脩司(鈴木亮平)。少しずつ実力をつけていく部員たちには、同時に緊張感に欠ける傾向が見られ始めていた。そんな部員を見ながら頭を悩ませる、南雲と部長の山住香南子(黒木華)……

熱血青春ドラマかと思いきや、主人公はまさかの犯罪者(教員免許偽造)という展開に、度肝を抜かれた『下剋上球児』。ただそんな事件も野球部の資質、結束力を高めるひとつのパーツに過ぎなかったようだ。放送中盤を過ぎて、野球部は改めて甲子園に向かって走り出している。またトラブルも起きるだろうけど、視聴者の私たちには、彼らの優勝歓喜する様子が見える……見えるよ、うん。

という、大人も参加の青春ドラマで、きょんさんが演じているのは青沼健太。ファミリーマートの店長である。第1話で彼の姿を見かけた瞬間「こう来たか……」と心で躍ってしまった。実は昨年、SNSで彼の動画を見かけて注目していたからだ。

きょんさんは、アパレル店員に扮して

「いらっしゃいませ~。店内商品すべて30%オフでございます。こちらからは必要以上に話しかけませんので、何かありましたら、お客様のほうからお聞きしていただければすべてお答えいたします」

と、アナウンスしていた。この女性らしい声色、抑揚、仕草が完璧で腹を抱えて笑い、数えきれないほど何度も再生マークをタップした。こういうショップ定員がいたらいいのに、と切に願う。ショップに足が遠のいて、ネットショッピングが増えているのは、よく分からない営業トークをされることもひとつの原因。それを一斉に除去するような動画だった。さらに動画はまだまだ続く。

いつか"キョン"との共演を

「イヤホンのお客様、けして話しかけませんので、そのまま音楽をお楽しみください。いらっしゃいませ」

そう、もう店員さんとコミュニケーションを取る元気のないおばさんは、AirPodsをつけて入店することが増えた。本当にきょん店員の言うように、必要なことだけ質問をしたい。そんな常日頃の小さなストレスが解消された動画、たぶん私は2022年で一番笑ったと思う。特に頼まれてもいないけれど、自分のSNSにも投稿したり、アパレルの友人に送ったりと喧伝を続けた。

普段、ほとんどバラエティ番組を見ないし、取材では散々お会いしたけれど、お笑い芸人さんのこともよく分からない。そんな私が生意気にも「この人絶対に売れるよな~」と思ったら『キングオブコント2022』で、コンビのコットンが準優勝を飾った。そして、青沼健太役につながるのである。彼の登場シーンは、野球部員が練習帰りの溜まり場になっている、ファミリーマート。部員たちを励まし、ときにはたしなめ……と、部員たちが将来「あのファミマのさあ……」と思い出す、大人になっている。わずかながらの出演シーンでも、あの強めキャラがそのまんま! で歩いているせいか、非常に目立っている。

すでに人気者のポジションは確立、次はどんな役を見せてくれるだろうかと今から、期待が高まる。彼のことなので、どんな癖が強い役でも憑依するなり、自分の術中にはめるなりしてくれるだろう。

最後に余談として。彼のことを調べていたら、どうやら同じ名前の鹿に似た動物がいることがわかった。危険でなければ、ぜひ動画で共演をお願いしたい。おそらくきょんさんなら、何かしらの演出をしてくれるはず。