ビジネスメールにおいて、多くの方が「簡潔にやり取りをしたい」と望んでいるのではないでしょうか。読むのに時間がかからず、すぐに内容が理解できる。簡潔で分かりやすいメールは相手にも好まれますよね。一方、「メールが多くて、対応が追い付かない」「メールを書く時間を短縮したい」といった悩みを抱えるビジネスパーソンも多いはず。一言で物事を完結できたらどれほど楽だろう。こんな考えが頭をよぎることもあるかもしれません。
「了解しました」
「ありがとうございます」
「よろしくお願いいたします」
確かに、一言で用件が済むとしたら、これほど合理的なことはないでしょう。しかし、ビジネスメールは用件を伝えるだけのツールではありません。相手とコミュニケーションを取ること。この役割を担っていることを忘れてはいけません。
気持ちは具体的に伝える工夫を
「ありがとうございます」は、言うまでもなく感謝を表す言葉です。メールにこう書いてあれば、相手も自分が感謝されていると理解できます。ただ、場面によっては、この一言だけでは不十分にも感じます。メールは用件が伝われば十分という意見もありますが、果たして本当にそうなのでしょうか。
作成を依頼した資料がメールで届いた場面を例に考えてみましょう。一口に資料と言っても、簡単なものから難易度の高いもの、短時間で仕上げなければならないものなどさまざまです。仮にそれが多くの労力を費やした資料、あるいは他の仕事を後回しにしてでも仕上げた資料だったとしたら。「ありがとうございます」の一言で相手の心を満たすことができるでしょうか。
対面や電話と違い、メールには表情や声の調子といった副次的な要素がありません。どれだけ気持ちを込めて「ありがとうございます」と書いたとしても、相手からすればすべて一緒。読み取れる情報に変化はありません。むしろ冷たい印象すら抱くかもしれません。副次的な要素がない分、気持ちを表現するには、より具体的に伝えることが大切なのです。
資料の作成ありがとうございます。
とても分かりやすくまとまっていました。
これなら初めてのお客さまでもイメージしやすいですね。
迅速にご対応いただきありがとうございます。
おかげでプレゼンの予行演習もできそうです。
本当に助かりました。
感謝の対象や、ありがたいと感じるポイントを明確にしたり、どのような好影響がもたらされるのかを伝えたり。具体的な返信こそが、相手の心にも響くことになります。
簡潔さが合理的とは限らない
一言で伝えるよりも、具体的に書く方がもちろん時間はかかります。ただし、それはあくまでも短期的な視点での話。相手に感謝の気持ちが十分に伝わらなければ、次に依頼した際には、無意識のうちに対応品質が低下してしまうかもしれません。時間がない仕事であれば、最悪の場合、引き受けてもらえないことも。目先の数分を惜しむことが、未来の大きな損失へとつながる可能性すら秘めています。とても合理的とは言えませんよね。
周囲への影響も考慮に
同じ部署内のメールや、親しい間柄でのやり取りであれば、一言でのメールが許容されることもあるでしょう。ただし、それはお互いの共通の認識があればこそ。あくまでも特別な状況であること、加えて一定のリスクがあることは理解しておく必要があります。
特に相手が部下や後輩であれば、簡易的なやり取りに対して「これでいいんだ」と誤解される恐れがあります。若手社員が同様の書き方で社外にメールを送ってしまえば、取引先との関係が悪化したり、場合によっては謝罪などの対応が必要になったりすることもあります。また、メールは本人の意思とは関係のないところで第三者に転送される可能性もあります。限られた空間だけだったはずの型を崩した簡易的なメールが、思わぬ形で人の目に触れ、自身の評価を下げることにもつながりかねません。
単調なメールが印象を落とすことも
取引先へのメールであれば、さすがに一言だけのメールは送らないかもしれませんね。それでは以下のようなメールでは、どのような印象を受けるでしょうか。
〇〇様
お世話になっております。
△△株式会社の□□です。
ご注文いただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
冒頭や結びの挨拶、宛名、名乗りなども書くことで、一見すると丁寧な印象にも受け取れます。しかしながら、用件としては「ご注文いただきありがとうございます」の一言だけ。もちろん、これで十分なケースもあるかもしれません。問題なのは、日頃から一言だけのメールが習慣化している人は、得てして毎回同じ文面になりがちなことです。短い一言は、良くも悪くも大抵の状況下で使用できます。どれだけ大口の注文をしようが、何度もリピートで注文をしようが、まるで判で押したように毎回同じメールが送られてきたとしたら。次第に相手の心も離れていってしまうかもしれませんよね。時には、繰り返しの注文に感謝の気持ちを表したり、納期など注文に対する補足情報に触れたりすることが、相手の安心にもつながります。
簡潔で分かりやすいメールは好まれますが、簡潔さだけを求め過ぎると、思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。相手に冷たい印象を持たれたり、やる気を疑われるようなことがあったりすれば、長い目で見たときに不安がつきまといます。その場の合理性だけにとらわれず、適切なコミュニケーションを心がけましょう。円滑なコミュニケーションが、効率的な業務の進行を助けてくれるはずです。