仕事でメールを送ったのであれば、相手に開封されることが第一歩。開封されなければ、何も始まりません。メールが開封されるかどうか、その鍵を握るのが「送信者名」と「件名」です。受信者はこの二つの情報によって開封の優先順位を決定したり、時には「開封するorしない」の判断につなげたりもします。

特に「送信者名」は「開封するorしない」を大きく左右する要素。受信者は送信者名によって「誰から」のメールなのかを知ります。「信頼できる人からのメール」と分かれば、相手も安心してメールを開きます。一方、メールの送り主に心当たりがなければ開封をためらうものです。「自分には関係のない人からのメール」と判断されてしまえば、開封されないまま削除されることさえあります。

ここで、読者の皆さんに質問です。

「自身が送ったメールの送信者名は、相手の受信ボックスにどう表示されているでしょうか?」

実は意外と多くの方が、この答えを把握できていません。実際、セミナー中に受講者に同じ質問をしても、半数以上の方が「分からない」と答えます。

それでは自身の受信ボックスに表示されている相手の「送信者名」はいかがでしょう。「日本語の名前」「英語のフルネーム」「メールアドレス」など、きっと数多くのバリエーションが存在するはずです。

「送信者名」は自由に設定ができます。ひょっとしたら適切な「送信者名」の設定ができていないばかりに、知らず知らずのうちに損をしていたかもしれません。この機会に、ぜひ自身の設定を見直してみましょう。

「送信者名」設定のポイント

メールのやり取りが日本語のみであれば、送信者名も日本語で設定しましょう。英語表記がかっこいいと感じる方もいるかもしれませんが、大切なのは、誰からのメールなのかを相手が瞬時に判断できることです。ビジネスメールであれば、送信者名を自身の名前(フルネーム)と会社名(または所属する組織、団体名)に設定するのがお勧め。それによってどこの誰であるかが瞬時に判断できます。

例: 井上賢治(日本ビジネスメール協会)

家族や友人など、プライベートな関係であれば、相手をフルネームで認識しているでしょう。しかし仕事上のつながりであれば、それほどフルネームは意識していないはず。むしろ「A社の田中さん」のように、勤務先と名前を合わせて認識しているケースがほとんどではないでしょうか。メールの送信者名がフルネームだけでは、相手は「どこの田中さんだろう」と迷うかもしれません。

さらに、近年、ウェブマーケティングの活用により、ファーストコンタクトがメールになる機会が増えました。昨年から続く新型コロナウイルスの影響により非対面が求められ、その傾向はさらに強くなっています。フォームからの問い合わせなど、初めての相手にメールを送る際、送信者名が個人のフルネームだけでは、当然、相手は誰であるかが認識できません。開封のきっかけが件名だけになるので、やはり優先順位が下がる、メールが開封されないといった危険性が高まります。

もし会社の規定、あるいは海外とのやり取りがあるなどの理由から、送信者名を英語表記にせざるを得ないのであれば、初めての相手にメールを送るときに限り、件名に用件と併せて会社名や名前を記載しておくなどの工夫をすると良いでしょう。

「送信者名」がもたらす心理効果

送信者名を適切に設定するメリットは他にも。「ザイオンス効果」という心理効果を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。相手に何度も繰り返し接触することによって、だんだん好感度や評価などが高まっていく心理効果です。「単純接触効果」とも呼ばれ、営業マンが「とにかく顔を見せに行く」のも、この効果を期待してのものです。

コロナ禍では対面接触を控える傾向があり、メールを使う機会も増えていると聞きます。受信ボックスを開くたびに、少なからず「送信者名」は相手の目に入るはず。「送信者名」に自身のフルネームと会社名が分かりやすく表示されていれば、それだけでも「ザイオンス効果」は期待できます。ここにメールアドレスが表示されていたのでは、とてもこの効果は期待できませんよね。相手が瞬時に判断できることが大切な理由は、ここにもあります。

メールの「送信者名」は、信頼できる相手から届いたメールであることを知らせてくれるだけではありません。時には相手との信頼関係をより深めてくれるなど、重要な役割を担っています。メールの文章だけではなく、このような設定一つを見直すことも、コミュニケーションを円滑に進めるために役立つのではないでしょうか。