悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、新人や部下の指導は難しいと悩んでいる人のためのビジネス書です。

■今回のお悩み
「新人の教育係が難しいです」(49歳男性/専門サービス関連)

  • 教育係が意識すべきことは(写真:マイナビニュース)

    教育係が意識すべきことは?


新人の教育に関する悩みも、連載初期から多く寄せられてきた"定番ネタ"です。などと書いてしまうと、ご相談者さんから「そんな簡単なことじゃない!」と怒られそうですが、つまりはそれだけ、悩める上司が少なくないということなのではないでしょうか。

そもそも人は、全員がそれぞれの環境で育ち、それぞれの価値観を身につけています。ましてや年齢が違う上司と部下であれば、いろんな意味ですれ違いが生じたとしても当然。それこそ考え方が異なっているのですから、必然的に教育は困難なものになるわけです。

そういう意味では、人が人である以上、なくなることのない問題であるとも言えそうです。とはいえ、目の前にある新人教育というハードルを越えなければなりませんよね。

そこで今回も、新人や部下を教育するにあたって参考になりそうな3冊を選んでみました。

正しい"ほめ方"をする

『一人でも部下がいる人のためのほめ方の教科書』(中村早岐子 著、西出ひろ子 監修、かんき出版)の著者は、部下の教育について悩むリーダーや上司の方々の相談にのってきたという実績の持ち主。

多くのリーダーや上司が「叱り方」の難しさで悩んでいるなか、あえて「まずは、ほめてみませんか」とアドバイスしているのだそうです。「叱る」のもひとつの手ではあるけれど、より大きな効果を発揮するのは「ほめる」ことだと考えているから。

とはいえ現実問題として、ほめることは意外に難しいものでもあります。具体的に、どうすればいいのでしょうか? そんな疑問に関連し、著者は5つの「ほめる人の基本心得」を明かしています。

  • 『一人でも部下がいる人のためのほめ方の教科書』(中村早岐子 著、西出ひろ子 監修、かんき出版)

ほめる人の基本心得(1) 相手をコントロールしようとしない(48ページより)

ほめるときにもっとも大切なのは、心を込めてほめること。そして、ほめることによって、相手をコントロールしようとすべきではないといいます。なぜならそれは、ほめているのではなく、おだてているだけだから。

ほめることの根底にあるのは、相手に対する敬意や感謝、応援しようという気持ち。だからこそ、ほめるときには事実に即し、自分が本心から思っていることを伝えるべきだという考え方です。

ほめる人の基本心得(2)まず自分をほめる(50ページより)

自己肯定感の強い人は、自分を信頼し、長所も短所も含め、ありのままの自分を受け入れることができるもの。それは、リーダーには不可欠の要因なので、まずは自分をほめて「自己承認」することが大切だということ。自己肯定感が高まれば、他者をも認めることができるようになるわけです。

ほめる人の基本心得(3) 2つの心の報酬を意識する(54ページより)

部下の自信や意欲を高めるためには、「心の報酬」をしっかり与えることが重要。「心の報酬」とは働く喜びのことで、おもに「成長の実感」「貢献の実感」があるそうです。

これらの報酬を得られた部下は働きがいを感じ、パフォーマンスがアップするというのです。

ほめる人の基本心得(4) ほめっぱなしにしない(60ページより)

たとえば「よくがんばっているね」とほめたら、「次は〇〇にチャレンジしてみてはどうだろう」と、次のスモールステップを提示する。

このように、ほめては次のスモールステップ、ほめては次のスモールステップと背中を押していくと、部下は小さな成功体験を積み重ねて自信をつけ、結果として自己肯定感も高くなるというわけです。

ほめる人の基本心得(5) ほめずにほめる(62ページより)

ほめことばを使わなくても、ほめることは可能。たとえば(1)アイコンタクト、(2)うなずき、(3)相槌を打つ、(4)復唱、(5)メモをとる、(6)要約する、(7)質問をする、(8)感情を込める、の8つが「ほめる聞き方」のコツだそうです。

たとえばこのように、とてもわかりやすく実用的な内容なので、参考にしてみてはいかがでしょうか?

「自分ごと」だと思わせる

さて、次にご紹介したいのは、『「自分ごと」だと人は育つ 「任せて・見る」「任せ・きる」の新入社員OJT』(博報堂大学 著、編集 日本経済新聞出版社)。

博報堂での新入社員OJT(on the job training=上司や先輩が、部下に対して仕事を通じてノウハウを教えること)の取り組みをまとめたものです。

本書のポイントは、「人が育ちにくい時代」であることを認識したうえで、「では、どうすべきか」を考えてみようという発想。たとえば、そのひとつとして著者が強調しているのは「自分ごと」の重要性です。

いうまでもなく、「自分ごと」とは主体性。それがあれば、常に自分の力で考えて発言し、自分からやるべきことを見つけ、前に進めるための行動をとれるということです。

「自分ごと」の意識を持って新人が仕事に取り組み始めると、新人の動きは目に見えて変わってきます。そして新人の気持ちの持ち方1つが変わるだけで、指導する側の気持ちにも同様に変化が起き始めます。次に掲げる工程的な変化が生まれてくるのです。

仕事→ 経験への捉え方の変化
失敗→ 学び への捉え方の変化
指導者・評価者→ 支援者 への捉え方の変化
(56ページより)

  • 『「自分ごと」だと人は育つ 「任せて・見る」「任せ・きる」の新入社員OJT』(博報堂大学 著、編集 日本経済新聞出版社)

こうした考え方を軸に、本書では新人に対していかに「自分ごと」という意識を持たせるか、そのメソッドを紹介しているのです。やや専門的な内容ではありますが、説得力は文句なし。じっくり読み込めば、新人を育て上げるためのスキルを身につけることができることでしょう。

成長を促す「4つの要素」

『OJTで面白いほど自分で考えて動く部下が育つ本』(松下 直子 著、あさ出版)も、OJTに焦点を当てた一冊。ただし、"OJD(On the job Development=職場内能力開発)"を新OJTと位置づけているところが特徴だといえます。

OJTはその職場内で先輩や上司がもっている知識や技術を部下に伝えることが基本ですが、OJDはどちらかというとその人のもっている良さを引き出すことに重点が置かれます。OJDのDであるDevelopという言葉は、もともとは「包んであるものを取り外す、覆われていたものを取り外し中身を引き出す」という意味です。つまり、それぞれの仕事・職場を通じて、各人が本来所有している素晴らしい能力を隠れた場所から引き出していくことが、OJTの本来の目的です。(56ページより)

  • 『OJTで面白いほど自分で考えて動く部下が育つ本』(松下 直子 著、あさ出版)

なお、部下の成長を促すために、重要な4つの要素があるのと著者は言います。

まず1つ目は、「モデル」があること。"ありたい姿"が身近にあることで、目指す方向が明確になり、次の自分の行動につながるわけです。

2つ目は、「問い、ことば」があること。本人の行動に対し、内省を促す問いやことばが投げかけられれば、それが新たな「気づき」を経て、次の自分の行動へとつながるということ。

3つ目は、「励まし」があること。日常の言動に対して励ましや勇気づけがあったとしたら、部下は失敗を恐れず、行動する勇気を持てるのです。

そして4つ目は、「目標、目標設定」があること。目標や目的が問いかけられ、部下自らがそれを考え設定する――。つまり上司からのサポートがあることで、それが部下の行動につながっていくという考え方です。

以後はさらに専門的に語られていく本書もまた、新人や部下のやる気を引き出すために大きく役立ってくれそうです。


いうまでもなく、新人教育は決して簡単ではありません。でも、だからこそ大切なのは、必要以上に深刻にならないことなのではないでしょうか。「そういうものなのだから」と現場を受け入れ、少しでもうまくいく策を探し、試していくことが重要なのではないかと思うのです。

もちろん、それだって楽なことではありません。しかし真摯に取り組んでいれば、その意気込みはいつか必ず新人や部下に伝わるはず。そして、そんな積み重ねが、少しずつでも状況の改善につながっていくはずだと考えるのです。

印南敦史

作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)ほか著書多数。4月8日発売の最新刊は、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)。