悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「仕事中、集中力が続かない」という人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「仕事中なにかと気が散ってしまいます。集中力が続く方法はありますか?」(27歳男性/事務・企画・経営関連)


なにしろ刺激の多い時代。

ですから、集中力を持続できないというお悩みにも共感できる部分は大いにあります。

そもそもオフィスワークの際には、「あの人は、いまなにをやってるのかな?」というように、なにかと周囲の動きが気になってしまったりするものです。本当は、自分のやるべきことに意識を集中させなければいけないはずなのに。

あるいは目の前の仕事に集中したいにもかかわらず(しかも、そういうときに限って)、ふいに声をかけられて作業を遮られてしまうということも少なくはないでしょう。

しかも、在宅ワークなら大丈夫かといえば、決してそうともいい切れません。在宅の場合は周囲の人に悩まされることはないでしょうけれど、それでもなにかと、いろいろなことに気を取られてしまったりするものだからです。

集中しなくてはいけないのに、気がつけばいつしかネットサーフィンをしてしまったり、YouTubeを眺めてしまったたりとか。

ましてや現代においては、誰もがスマホに縛られています。着信音が鳴るたびに、集中を阻害されてとしてもまったく不思議ではないのです。

つまり集中力のあるなしに関係なく、多かれ少なかれ誰もが"集中しづらさ"を感じているはずだということ。

であれば、それはなんとかしなければいけませんね。でも、具体的にどうすればいいのでしょうか?

「マルチタスク幻想」を捨てて順番にこなす

この問いに対して『すぐに結果を出せる すごい集中力』(荘司雅彦 著、秀和システム)の著者は、「マルチタスク幻想」を捨てるべきだと主張しています。

  • 『すぐに結果を出せる すごい集中力』(荘司雅彦 著、秀和システム)

現実的に、たったひとつの仕事だけにじっくり集中できるというような状況は少ないもの。むしろ必然的に、マルチタスク状態になってしまいがちであるはずです。

しかし、どんなにたくさん仕事を抱えていたとしても、同時にこなせる仕事はひとつだけだということを忘れてはならないというのです。また、「マルチタスクができる人がいる」ということも、実は幻想にすぎないのだといいます。

基本的に人間は、同時に複数のことはできないのです。マルチタスクをやっているように見える方は、AのタスクとBのタスクを交互にやっているだけです。Aをやっているあいだは、決してBをこなせません。(187ページより)

つまりマルチタスクができるように見える人は、単にスイッチングが得意なだけだということ。だからこそ、視点をそちらに向けるべきではないのです。

むしろ重要なのは、「どんなに大きな山でも、少しずつ崩していけばいずれはなくなってしまうもの」であると理解すること。

たとえば、大量の仕事を秒刻みでこなさなければならないような状態にあると、知らず知らずのうちに恐怖心を抱いてしまうかもしれません。しかし、そんなときこそ、ひとつひとつの仕事を順番にこなしていくしかないのです。それこそがベストな選択なのです。

順番にこなしていけば、大きな山に見えたものが、お昼ごろには半分以下になっています。そうなると"もう半分以上崩したんだ"と光が見えてきます。午後は残りの山を崩すだけです。(189ページより)

午前中に半分以下にしてしまえば、残りを崩すめどもある程度はつくはず。そのため、残りを落ち着いて崩していくことが可能になるわけです。

なお、そんなサイクルに慣れるためには、"その日にこなすべきタスク"を決めておくことが大切だそう。少なくとも、その日の仕事を開始する前には決めておくようにするのです。

また、1週間単位で区切ったとしても、必ずそれを1日単位に落とし込むべき。優先順位があるのなら、優先すべきタスクを先にこなすことも大切であるようです。もし優先順位がないのであれば、着手しやすいタスクからでOK。

加えて、もうひとつポイントが。

出社したら、すぐにタスクに取りかかってください。コーヒータイムのような儀式は決してしないこと。ともかく一刻も早く着手する、これが肝心です。(190ページより)

「もう少し余裕が欲しいなあ」と思われるかもしれませんが、つまりはスタートの時点からリズム感を持って仕事に臨むことが必要なのでしょう。

集中できないのは「忙しさ」のせいかも

ところで、集中できない理由のひとつとして"忙しさ"が挙げられるのではないでしょうか? 忙しいから余裕が持てず、余裕が持てないから集中できないという悪循環に陥ってしまうわけです。

つまり"忙しさ"とは業務量の物理的な多さではなく、主観に左右されるものだということ。『時間最短化、成果最大化の法則──1日1話インストールする"できる人"の思考アルゴリズム』(木下勝寿 著、ダイヤモンド社)の著者は、そのように主張しています。

  • 『時間最短化、成果最大化の法則──1日1話インストールする"できる人"の思考アルゴリズム』(木下勝寿 著、ダイヤモンド社)

その証拠に、同じ作業量であったとしても、ある人は「忙しい」と感じ、ある人は「暇だ」と感じたりするものです。

だとすれば、"忙しさ"は自分の感情でコントロールできるということにもなるはずです。

なお著者によれば、そのために有効な2つの方法があるのだとか。

(1)「忙しい」と感じたら、逆にやるべき仕事量や作業量を「3倍」に増やす。その後、元に戻すと暇に感じる。
(2)もっと忙しい人を見る。すると「忙しいと思っていたけれど、所詮あの人の3分の1だ」と思うと、少なくとも忙しさのイライラはなくなる (311〜312ページより)

つまり大切なのは、本当の意味での「ゆとり」を持つこと。そうすれば、忙しさに追いかけられて集中力を失ってしまうというようなこともなくなっていくのです。

それもまた、考慮すべきポイントのひとつなのではないでしょうか。

「めんどくさい」から脱却するために

あるいは、「めんどくさい」と感じることが集中できない原因であるという場合もあるかもしれません。そこで参考にしたいのが、『「めんどくさい」が消える脳の使い方』(菅原 洋平 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

  • 『「めんどくさい」が消える脳の使い方』(菅原 洋平 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

作業療法士である著者が、「めんどくさい」から脱却してサクサク行動できるようになるためのコツを明かした一冊です。

たとえば、作業中に声をかけられるなどして、やっていたことを中断せざるを得ない状況に追い込まれることはあるものです。

そのため「中断されて集中が途切れやすい人」は、作業が乗ってきたところで自ら区切りを入れ、席を立って10秒歩いてみるべきだと著者は勧めています。ちょっと意外な気もしますが、それだけで集中力を鍛えることができるというのです。

やっていることを忘れてしまうのでは、と思われるかもしれませんが、心配はいりません。自ら作業を区切る場合は、一旦脳内に作業内容がストックされます。
席を立って歩くと、ストックされた情報と脳内にある情報が照合されるので、席に戻ったときには、すんなり続きの作業ができますし、違った角度からその作業を眺めてさらに質を高めることもできます。(108ページより)

作業を始めると、代謝率を上げるアドレナリンが上昇するのだそうです。そして作業を続けていくなかで疲労していくと、ノルアドレナリンが上昇し、低下していく集中をなんとか維持すようとすることに。

つまり、ここで声をかけられたりすると、応答するために代謝率を上げなければならなくなり、負担がかかってしまうわけです。

この負担は、グリア細胞の炎症反応によるもので、この炎症を抑えるために、コルチゾールというホルモンが上昇します。このコルチゾールが増えたタイミングで、私たちは「めんどくさい」と感じます。
原因は、声をかけられたこと自体ではなく、その前にノルアドレナリンが上昇した状態がつくられたことです。そこで、普段から作業を細かく区切り席を立ってみましょう。(109ページより)

ノルアドレナリンが上昇する場面をつくらなければ、声をかけられたとしても「めんどくさい」と感じなくなる。そういう意味で、作業を細かく区切って席を立つことには根拠があるということです。

これもまた、集中力をより高めるため参考にしたい情報だといえるでしょう。