悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「若い頃のように自分の成長を実感することができない」と悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「若い頃のように自分の成長を実感することができずなんとなく不安です」(45歳男性/その他技術職)


あくまで個人的な見解なのですが、「成長」については思うところがあります。成長を実感することって、能動ではなく受動的な行為なのではないかと感じるんですよね。

「よし、しっかりがんばって成長するぞ!」と意気込んで努力し、その延長線上で「がんばったかいがあって成長できたな!」と感じることだって、まったくないとはいえないでしょう。

しかし現実的にはむしろ逆のケースのほうが多く、努力したからといって成長を実感できるわけではない。むしろ、実感しづいかもしれない。けれど、たとえ成長しているのかどうかわからなかったとしても、成長という報酬を期待せずにがんばる。

すると、あるときふと、「あ、考えてみると、いつの間にか成長してた気がするな」と感じたりする瞬間に出会ったりする。

そういうものではないかと思うのです。

成長は能動的に実感しづらいものであり、あくまで「いつの間にやら成長できてた」と、あとから漠然と感じるものではないかということ。少なくとも僕は、そう感じながら生きてきたように思います。

ただし多少なりとも成長したいという意欲があるのであれば、「成長の実感」に期待するか否かは別としても、"適度に"自分を鼓舞する必要はあるかもしれません。もちろん"適度"であるべきで、"過度"になってしまうとリスクが伴うことになってしまう可能性があるでしょうが。

自分で「気合い」を入れる

『自分を熱くする』(横山信弘 著、フォレスト出版)の著者も、毎日のように意図的に自分を鼓舞しなければならない場面に遭遇するのだとか。つまり、それをチャンスと捉えて活用しているのでしょう。

  • 『自分を熱くする』(横山信弘 著、フォレスト出版)

人は、難局を乗り切ろうとする際、自分を奮い立たせる必要があります。
逃げたくても、逃げられないとき、どう立ち向かっていくのか。
超えなくてはならない壁があったとき、どう越えていくのか。(中略) 自分自身を鼓舞するしかないのです。
(「はじめにーー今、くすぶっているあなたへ」より)

成長を実感できないのであれば、(先述したように「成長の実感」を受動的なものと捉えたうえで)多少なりとも自分を鼓舞すべきだという考え方。

ポイントは、「必要なときに、必要な分だけ。奮い立たせればいい」ということ。目的は勢いづくことなので、必要に応じて「熱い人」になればいいわけです。それを繰り返していけば、やがて成長を実感できることにもなるかもしれないのですから。

とはいえ成長を実感できないのだとしたら、熱い人に必要な「情熱」を持つことができない状態になっている可能性もあります。ならば、情熱のない人はどうすれば情熱を持てるのかを知りたいところ。

著者によれば、そんなときには「外発的動機づけ」からスタートするといいのだそうです。「強制」とか「義務」といった外発的な動機づけがきっかけで、やっているうちに興味がわき、自らモチベーションを高めるようになるというのです。

また、もし外部からの強制や義務がないとしたら、自分でつくるしかないのだともいいます。

最も身近で、手っ取り早くできるのが「気合い」です。気合いを入れるのです。「やりたいことか」とか、「好きなことか」は関係がなく、何らかのきっかけでやらなくてはならなくなったことがあれば、一所懸命にやりましょう。そのために「気合い」を入れるのです。そして「限界だ」と思えるほどに徹底してやり、その事柄を探求するのです。(97ページより)

最初は「やらされ感」しかなくても、まったく問題はないそう。なぜなら勉強し、探求し、考え、創意工夫し、目標に向かって行動し続けることで「炭」のように鍛えられるから。

そして、いつしか自己の内部に「種火」ができあがり、なにかのきっかけで突然それに火がつき、情熱の炎が燃え上がるというわけです。

著者のまわりにもそういう人たちがたくさんいるそうですが、これは理にかなった考え方だといえそうです。種火に火をつけて燃え上がらせることさえできれば、やがて必然的に自分の成長を実感できるようになるはずだからです。

自分を痛めつけること=努力ではない

脳科学者である『努力不要論――脳科学が解く! 「がんばってるのに報われない」と思ったら読む本』(中野信子 著、フォレスト出版)の著者が在籍していたフランスの研究所には、アメリカ・オランダ・ベルギー・イスラエル・イラン・メキシコ・ブラジル・スペインなど、いろいろな国の人たちがいたのだそうです。

  • 『努力不要論――脳科学が解く! 「がんばってるのに報われない」と思ったら読む本』(中野信子 著、フォレスト出版)

そんななかで感じていたのは、「日本人には、自分を痛めつけることを努力だと感じている人が多い」ということだったのだとか。おおざっぱな比較かもしれないけれど、そういう傾向はあるというのです。

一方、他国の人はみんな、「努力とは目的をスムーズに達成するためにやるものだ」という考え方を持っているそう。「努力」に対する考え方は、どうやらかなり違うようです。

フランスだからかもしれませんが、彼らには「楽しんでこそ人生」という透徹した考え方がありました。(中略)
努力という言葉を広義にとらえてみますと、彼らは、人生を楽しくするために非常に努力しているということがいえるでしょう。(102ページより)

そんな環境に放り込まれた当初、多少の違和感ややりづらさを感じはしたものの、やがて無理なく彼らの習慣や工夫を受け入れられるようになったと著者は振り返っています。

それは、「努力をし、成長し続けなくてはいけない」という呪縛のようなものに縛られがちな僕たちが学ぶべきことなのかもしれません。

セロトニントランスポーター(筆者注: 不安遺伝子。日本人の保有率は欧米諸国の人々よりも高い傾向にある)の差があるので欧米人のように振る舞うのは無理、とお思いになられたかもしれません。
でも、ちょっと待ってください。
江戸時代の日本人たちは「遊びは粋なこと」と考えていたことをお忘れですか? 人種に関係なく、個人の意識の持ちようで、いくらでも人生を楽しく前向きにとらえることだってできるのです。(103ページより)

江戸時代の日本人のように遊べといわれても難しいところではありますが、重要なのは「個人の意識の持ちよう」という部分。たしかに成長を実感する機会は減ったのかもしれないけれど、あまり重たく考えず、「年齢を重ねていくに従って変化していくものなんだな」という程度に受け止め、"いま、できること""いま、すべきこと"に注力できていれば、それで充分だということです。

年齢に関係なく「挑戦する」ことの重要性

ところで、自分の成長を実感することができない状態が続けば、次第に「どうせダメだ」というネガティブな気持ちが肥大化していってしまうものです。

しかし、それはもったいないこと。『自分を熱くする』の著者が「気合い」の重要性を強調していたことからもわかるように、「できるか、できないか」は結局のところ自分の意識の問題だからです。

そこで、「どうせダメだ」から脱するためにぜひ読んでいただきたいのが、『カーネル・サンダースの教え 人生は何度でも勝負できる!』(中野 明 著、朝日新聞出版)。

  • 『カーネル・サンダースの教え 人生は何度でも勝負できる!』(中野 明 著、朝日新聞出版)

いうまでもなく、ここで焦点が当てられているのは、世界的ファストフード・チェーンであるケンタッキー・フライドチキン創設者のカーネル・サンダース。彼が65歳で起業し、フランチャイズ制度を世界で初めて構築したことは有名ですが、ここでは決して順風満帆ではなかったその人生をなぞり、年齢に関係なく「勝負する」「挑戦する」ことの重要性を説いているのです。

34歳でアセチレン・ライト事業に失敗して全財産を失い、ミシュラン・タイヤのセールスマンになったり、36歳のとき吊り橋から自動車ごと転落したり、47歳で開業した「サンダース・コート&カフェ」がその2年後に消失したり、66歳で無一文になるなど、たしかにその人生は波瀾万丈どころの話ではありません。

しかし、それでも決してめげないのがこの人のすごいところ。そして、その原動力になっていたものが「信念」であることは本書を読んでみても明らかです。たとえばケンタッキー・フライドチキンのフランチャイズビジネスに乗り出したころ、カーネルは次のように述べているのだそうです。

その頃ワシが抱き続けていた思いとはケンタッキー・フライドチキンは素晴らしいという信念じゃった。レストランのオーナーにとっても素晴らしいし、とりわけそれを食べるお客にとって素晴らしい、と。(152ページより)

端的にいえば、こうした揺るがない信念があったからこそ、彼は紆余曲折を経ながらも成功にたどり着くことができたのです。こうしたスタンスは、どんな仕事に携わっている人にとっても参考になるのではないでしょうか?

苦難があったとしても、信念を貫けば必ず結果が出るもの。そこに到達できたときには間違いなく成長を実感できるでしょうし、やがてそれが大きな自信につながってもいくということです。