悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「老後のお金が不安すぎる」という人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「老後のお金が不安すぎる」(37歳男性/専門サービス関連)


老後のお金についてのご相談は、これまでにも何度かご紹介してきました。つまり、"やがて訪れる将来のお金"に関する不安を抱えている方がそれほど多いということなのでしょう。

予想がつきにくいことなので当然でもありますが、そうでなくとも物価が高騰する日々。さらに不安が大きくなったとしても、まったく不思議ではないわけです。

いや、人ごとのように書いていますけれど、もちろん僕だって同じ。老後がどうなっていくのか、果たして暮らしていけるのかなどの漠然とした不安は、いつも身のまわりにつきまとっているような気がしています。

でも、多くの人がそんな不安のなかにいるからこそ、少しでも"できること""できそうなこと"を見つけていきたいものですね。

「いつまで働き続けるのか」計画を立てる

「人生100年時代」といわれる今、「60歳で定年退職して、あとはのんびり」などと考えているとしたら正直見通しが甘すぎます。90歳まで生きるとして30年、100歳まで生きたら40年もの余生があるのです。(「はじめにーー『定年後の資産寿命』が不安なあなたに」より)

  • 『会社も役所も銀行もまともに教えてくれない 定年後ずっと困らないお金の話』(頼藤太希 著、だいわ文庫)

マネーコンサルタントである『会社も役所も銀行もまともに教えてくれない 定年後ずっと困らないお金の話』(頼藤太希 著、だいわ文庫)の著者も、このように指摘しています。

でも、この期間を乗り切るだけの老後資金は用意できているかと問われたとき、自信を持って「用意できている」と答えられる方は少ないのではないでしょうか。

しかも老後資金を貯めるのであれば、当然のことながら収入が必要です。したがって、まずは「いつまで働き続けるのか」についての計画を立てることが大切。著者も本書の冒頭で、まずはそのことを強調しています。

どんな働き方を選ぶにしても、大切なのは「60歳以降もなるべく長く働く準備をしておくこと」だとも。

60歳での退職を機に仕事をしなくなったとしたら、以後の定期収入は年金だけになってしまう人が大半であるはず。ところが、国民年金や厚生年金といった老齢年金の受け取りは原則的に65歳からです。

年金を早めに受け取れる「繰上げ受給」もあるものの、その場合に受け取れる額は65歳時点での受給額よりも減ってしまいます。しかも、そもそもベースとなる年金額自体が少ないのです。

そのため、貯めてきた資産や退職金を切り崩すことになるでしょう。が、資産を使い切ってしまったら、あとは年金だけで生活しなければならないのです。そこから働こうとしても、60歳で退職後、ブランクがある人の働き口は限られています。また、仕事がなくて働けないのなら、健康面や生きがいにも影響が出てきそうです。

けれど、60歳で定年を迎えたあとも長く働いていれば、収入が得られて老後の生活が安定します。また、年金をあとから受け取る「繰下げ受給」にすれば、受け取る額を増やすことも可能。

老後資金が潤沢なら、60歳で定年退職を迎えたあとも悠々自適な生活を送ることができるかもしれません。しかし老後資金がないまま60歳で退職しても、5年間の空白期間が生まれてしまいます。繰り返しになりますが、年金受給は原則的に65歳からだからです。

年間の生活費が300万円かかったとして、まったく働かずに収入がなかったら、生活するだけで1500万円もかかってしまいます。しかし、働いて年200万円の収入があれば、5年間の支出は500万円で済むわけです。(18ページより)

そう考えてみても、働けるうちに働くことがいかに大切かを実感できるのではないかと思います。また、ブランクなく働くことができれば、仕事そのもののおもしろさに改めて気づくこともできるでしょう。

そういう意味でも、できれば70歳、さらにその先まで働く準備をしておくことが大切なのだと著者は主張しているのです。

支出は収入から貯蓄を引いたもの

ファイナンシャルプランナーである『とっくに50代 老後のお金どう作ればいいですか?』(長尾義弘 著、青春出版社)の著者も、老後資金の重要性を訴えています。「できることはすべてやっておいたほうがいい」と。

  • 『とっくに50代 老後のお金どう作ればいいですか?』(長尾義弘 著、青春出版社)

そこで本書では、毎月の出費を効率的に減らすためのポイントや、年金を確実に増額する方法、保険を見なおすコツ、上手にお金を運用して増やすノウハウなどを紹介しているわけです。

ここではそのなかから、「なかなか貯蓄ができません」という悩みについての答えをご紹介してみましょう。いうまでもなく、安心した老後を迎えるために貯蓄は欠かせないからです。

貯蓄については、「毎月の収入と支出の±で、余ったお金を回すもの」だと考えている方も少なくないかもしれません。しかし著者は、それが間違っているのだと断言しています。余ったものが貯蓄なのではなく、貯蓄とは、収入からまず差し引いたもの。それで残ったお金を支出に回すべきだというのです。

収入引く貯蓄が支出。こういう考え方でないと、お金を貯めることができません。いちばんいいのは、財形貯蓄のような給料の天引きです。有無を言わさず、給料からまず引いて、残りの金額でやりくりするんです。銀行に預けるのではなく、運用に回すと、貯めるだけではなく増やせる可能性も出てきます。(82ページより)

なぜ、こうした方法がいいのか? その理由について、著者は人間の心の弱さを挙げています。たしかに、誰しも誘惑には弱いもの。うっかりしていると余計な出費をしてしまいがちだからこそ、貯蓄をしたいのであれば決心と手段が必要。したがって、「毎月、強制的にお金を取られる」という手段を利用するべきだというわけです。

先月はお金を多めに使ったから、今月は支出を控えめにして、残った分を貯蓄に回そう。月のはじめにこんなふうに思っていても、月末にはお金は残っていません。人間なんて、そんなものです。(82ページより)

最後の「人間なんて、そんなもの」という部分こそ本質ではないでしょうか? だからこそ「がんばる」のではなく、「どうあがいても引かれてしまう」というシステムを取り入れるべきだということです。

「お金を遣わない生活」にシフトする

『71歳、年金月5万円、あるもので工夫する楽しい節約生活』(紫苑 著、大和書房)の著者は、「この年になるまでお金とちゃんと向き合った経験はほとんどありませんでした」と明かしています。

  • 『71歳、年金月5万円、あるもので工夫する楽しい節約生活』(紫苑 著、大和書房)

母子家庭でふたりの子どもを育てていたうえ、仕事はフリーランスなので収入は不安定。そのため漠然とした不安を持ちながら、長く暮らしてきたというのです。数字のことばかり考えていたら意気消沈するだけだから、「数字には目をつぶって生きてきた」という部分には共感もできますが、実際のところ、「そのようにしてやっていくしかなかった」ということのようです。

やがて子どもも独立し、たまたま築40年の中古住宅を見つけて購入したのが64歳のとき。しかし、家賃がかからなくなったものの、コロナ禍で仕事が激減することに。

69歳にして、人生で初めてお金に向き合うことになったというのです。その結果、必然的に「お金を遣わない生活」にシフトしたようですが、結果的にはそれが以下のようなメリットをもたらしてくれたのだとか。

(1)安く美味しく身体にいい食生活で若返った
(2)お金への不安がなくなった
(3)お金の遣いどころがはっきりしてきた
(4)節約は無理したり、我慢したりしなくても楽しくできるとわかった
(5)将来=死への不安もなくなった
(12〜22ページより抜粋)

まずは(1)。身体にいい食材が安いのは、旬のものしか買わないから。それらをシンプルに調理することで、簡単においしい料理が楽しめるわけです。身体にいいものを食べる習慣を身につけた結果、体調も改善されたのだといいます。

次に(2)。お金への不安がなくなったとは意外な気もしますが、食を決めることによって、それほどお金を遣うことなくやっていけるメドがついたのだそうです。特筆すべきは「年金内で生活できるとわかった」という部分。詳細については本書を参照していただきたいのですが、間違いなくそれは実現できることであるようです。

そしてその結果、(3)お金の遣いどころがはっきりしてきた、つまりメリハリのある使い方ができるようになったのだとか。その結果、あまりに多くのモノがあると生活が煩雑になるということも実感できるようになったといいます。

次は(4)。「安くておいしい食材はなんだろう」「とにかくお金は遣わない」という2点から「お金を遣わない生活」をスタートさせた著者は、やがて工夫をすることが楽しくなってきたといいます。たしかにそうすれば無駄なお金を遣うことはなくなりますし、いつか貯金もできるようになるかもしれません。

そして最後は(5)。

死への不安が今はまったくない、というとウソになります。でもプチプラ生活で体調がよくなり、これでやっていくとの覚悟ができたせいか、見栄をはるどころではないと気づいたせいか、ふっと肩の力が抜けて楽になりました。(21ページより)

「見栄」を捨てれば気持ちも楽になるわけで、これもまた、「老後のお金」について考える際には重要なポイントだといえると思います。